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ハンリベ  作者: 今木照
外伝章 ハカイのソウゾウ
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中嶋勇外伝⑬ ハカイシン

前回のあらすじ


創造の本当の力を見せた中嶋。

彼が考えることとは....




「....僕の『創造』は、”無”から”有”を作り出す。」





僕は空中で手の平をなぞるように動かし、一丁のピストルを完成させた。


本多君はそのピストルを驚いた表情で、呆然と眺めている。



「....本多君、近くには人が居なかったんだな?」



「あ、あぁ、居なかったけど.....」



僕は天井からぶら下がっている手枷の鎖の基部に、ピストルの銃口を向けた。


そして力を込めて引き金を引く。



「パァンッ!!」



狙い通り、右の手枷の基部が壊れ、それに繋がっていた鎖はガシャリと地面に落ちた。


右手は手錠をはめたままだが動かせるようになり、そのまま左手の手枷に触れ、それを水に作り変えた。


これで一旦は、自由になったわけだ。



「す、すげぇ。何もない所から、物質を創り出せるのか...」



本多君は珍しく、僕に敬意をこめた視線を送った。


しかし、僕にはゆっくり感慨にふけっている時間はなかった。



「本多君、さっきも言ったが、僕はこの組織から離脱する。君も見ただろう、この組織は都合の悪い存在を恐怖で支配しようとする。そして何より、このままでは、失われる必要のない命まで失われてしまう。」



僕は右手にハマったままの手錠にも触れた。


そして、それを水に創り変えながら話し続けた。



「...この国の長所でもあり短所でもある所は、一度進んでしまったら突き進むところだ。私がこの軍で行っていた仕事は、延命処置に過ぎなかった。そしてそれは敗戦への延命処置で、長引けば長引くほど国民の命は浪費されていく。」



本多君はどんな顔をすればいいのか分からないように、ギュッと唇をかみしめた。


そして僕の目を見て、質問を投げかけた。



「中嶋さんは、怖くないのか...?自分が抜けるせいで、今戦場に居る隊員達が死ぬかもしれない。とか.....」



小さな窓から顔をのぞかせた青白い月が、僕の顔を照らしている。


僕は今、この国の未来と、幾つもの命の前に立っているのだ。



「今、金井さんや黒江も戦場に居るんだぜ?」



本多君は、少し寂しそうな表情をしていたと思う。



「僕に迷いはない。たとえ友人が戦場に居ても、僕が物資の供給をやめればこの戦いの終結は加速し、犠牲者も減る。僕が真に守るべきものは、この国の国民だ。」



僕は近くに置きっぱなしであった自分の眼鏡を手に取り、レンズを覗く。

周囲を舞う埃と僕の血で、レンズはかなり汚れてしまっていた。


レンズのせいで霞む視界の先に居た本多君は俯き、呟いた。



「中嶋さんは強えな。俺にはそんな選択できそうもねぇ。」



「これは強さなんかじゃない。今までの弱さを断ち切るための行為だ。」



僕は壁に手を触れ、コンクリートの壁を砂に作り変えた。


崩れた砂の壁からは、大きな月の光が差し込んだ。



「本多君も来るか?」



僕は本多君の方を振り返り、提案した。


悪くない案だと思ったが、彼は少し考えた後、首を横に振った。



「俺には、まだ立ち向かう勇気も、逃げる勇気もねぇ。....中嶋さんは、これからどうするんだ?」



「....適当な山奥とかで生活しているさ。『創造』があればまず死ぬことは無い。....それから、日本が敗戦した後、僕の予想ではまた戦わなくてはいけない時が来る。その時は、本多君を頼るかもしれない。」



「?......敗戦した後に戦うって、何と?」



何と戦うか。


正直、まだ分からない。


しかし、敗戦後、再び戦わなくてはいけない時が来る。


それは確信しているのだ。



「さあな、それはまだ分からない。けれど、その時が来たら必ず君に会いに行く。....戦争が終わった後、この軍からはなるべく早く離脱した方がいい。」



「....そうか、分かった。」



僕は壁の外に足を踏み出し、煌煌と輝く新宿の街並みを見渡した。


一年後、この町はどのような形を、どんな色をしているのだろうか。



「そういえば、中嶋さん。」



「なんだ。」



外への一歩を踏み出そうとした僕の背中に、本多君が声をかける。


僕は足を踏み出すのを止めて、振り返る。


本多君は意外なことを聞いて来た。



「中嶋さんが前線を見ようと思ったキッカケになった、新兵器の『資料』って、結局何だったんだ?」



「あぁ、あれか。....この間も話した通り、軍は僕に兵器を創らせる時、事前にその設計図などを渡してくるんだ。そして僕はそれを頭の中で想像し、現実に創造する。だから今まで数々の兵器の設計図や構造を記した資料なんかを見てきたよ。けれど、あんな資料を上層部から渡されるとは思わなかった。しかも資料を渡すという事はソレを”創れ”という指示だ。」



僕は足元の砂を軽く掴み上げ、手の平で一匹の紋白蝶に作り変えた。


その紋白蝶はパタパタと羽ばたき、新宿のネオンに消えていった。



「だから、その”資料”って?」




「.........僕が渡された資料は、」






   「人体図だ。」






______________________________________________





2017年 7月   東京都  文京区




もうそろそろ2時間....。


駐屯地の連中もとっくに脱走に気づいて今頃ニュースで放送されているのだろうな。


ここからは更に帽子を深く被っていこう。


本多君は無事に駐屯地に戻れただろうか。






記憶の中に金井のふざけた笑い声が聞こえる。


黒江君の屈託のない笑顔が蘇る。


さっき別れたばかりの本多君ですら思い出の中の人物に思えてしまう。



そして脳裏に浮かぶのは、春のあの日。


黒江君が僕に思いを伝えようとし、伝えられなかったあの日。


あの日は桜が綺麗だった。


たった3、4カ月前の思い出が、色褪せてしまったように感じる。



逃亡した僕は、一歩、また一歩と駐屯地から遠ざかる。


その一歩を踏みしめる度、思い出の中から色が抜き取られていくような、そんな感触だ。




けれど、コレが最善なのだ。


一日でも早くこの戦争が終われば、この国の国民たちが消耗される数も少なくなる。



ふと、通りかかった民家から漏れたテレビの音が聞こえた。



「繰り返しお伝えしています。先程、新宿駐屯地から”ソウゾウシン”『中嶋勇』が失踪したとの発表がありました。こちらの男性を見かけた方は直接の接触を避け、速やかに以下の電話番号に...」



ソウゾウシンか....


今の僕を鏡で見ても、創造神と言えるのだろうか?


....いや、違う。



「僕はソウゾウシンなんかじゃない。」



「僕は」




「破壊神だ。」






”ソウゾウシン”中嶋勇外伝  完


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