第一話 山根 源の物語
この世界の住人は『掌力』と呼ばれる不思議な力を手の平に持っている。
そんな世界のとある国、ルート国の王子『オーゴ』は、世界を恐怖に陥れる『悪王』を討伐すべく(ついでに綺麗なお姉さんとも会うべく)仲間たちと旅に出た。
オーゴは自身の掌力『入替』や仲間達の力を借り、強大な敵や困難に立ち向かう!
これは、そんな彼らのバトルあり笑いありの珍道中である!
........しかしこの世界、何か違和感がある...
_________________________
1963年インドで手の平が発光する幼児が発見される。翌年には中国、イタリア、更にその翌年には日本を含む19カ国で手の平に何らかの異常を持った人々が発見される。世界はそれらを先天性の病気と判断し、第一発見者の症状から『掌光病』と命名する。
2014年、日本、東京。
『入替』の掌光病を持った少年『山根源』は、『消滅』の掌光病を持った一人の少女と出会う。
その出会いは運命か、はたまた混沌とした物語の序章に過ぎないのか。
二人は闘いと死に飲み込まれてゆく日本で、反乱の渦中に或る...
「お前病気なんだから近寄んなよ!ってか学校くんなよな!ギャハハ!!」
痛い。
「やば!山根に触られた!山根菌うつったかも~!」
うつるわけないだろ。
「...そっか、山根、先生が気づいてやれなくてごめんな。...よし、今度あいつらにも話を聞いてみる。」
知ってたくせに。
「山根君ごめんなさい。」
嫌だよ。
「うん!お前たち謝れたな!偉いぞ!」
偉いわけないだろ。
「...じゃあ次は山根だな!」
....は?
「ほら、どうした?お互い謝って仲良く終わらせよう!」
............
「おい、お前なにチクってんの?なぁ?」
痛いんだよ。
「はぁ。...あのね、お母さん忙しいの。学校のことなら先生に言って。」
言ったよ。...けど、変わらなかったよ。
「......ホント、産むんじゃなかった。」
生まれなきゃ良かった。
.......そうか。
俺以外が、
この世界なんだ。
______________________________________________
2014年 5月 東京 世田谷区
ガシャン!ガシャン!
サッカーボールが金網に当たる音が、平日の住宅街に響く。
この公園は小さく、隣に家があるせいで音が響きやすい。
...けれど、音がこんなに響く理由はそれだけじゃない。
俺はバウンドしているサッカーボール拾う。
「はぁ。...やっぱ1人で蹴ってもつまんねぇなぁ。けど優人も小学校だし、俺が学校なんて行ったって、どうせまた...」
俺はサッカーボールの上に座り、小声で呟いてみた。
普通は独り言なんて恥ずかしいこと、しないものだろう。
けれど結局、この言葉を誰が聞くわけでもないし__
「『どうせまた...』何なのよ。」
ふと頭の上から、声が聞こえた。
「うえ!?」
ゴツン!!
驚いて顔を上げようとした俺は、その拍子に声の主と頭をぶつけてしまった。
「っいったぁ!...ちょっとあんた!なにすんのよ!いきなり頭突き!?」
頭をぶつけた相手は大袈裟に俺を糾弾するが、大して怯んでいる様子はない。
「俺だっていてぇよ!っていうか、お前がビビらせてきたんだろ!?」
俺は頭のズキズキとした痛みに耐えながら、声の主を睨みつける。
その声の主はランドセルを背負った少女であった。
身長は俺より少し大きいが、歳は俺と同じくらい、小学4年生くらいだろうか。
赤いランドセルを背負い、少し季節外れな手袋をつけた手でおでこを抑えていた。
その少女は涙目で俺を睨み返し、口を開ける。
「ビビらせてないでしょー!?そもそも何で平日の真昼間に公園にいるのよ!」
「それはお前もだろ!」
俺が反論すると、今度はムスっとしたような顔になって、何故か肘を突き出してきた。
「私は早退したんです~!お昼休みに怪我しちゃったから!ホラ!」
彼女が指さした肘には、二枚の可愛らしい絆創膏が貼ってあった。
その絆創膏に描かれた熊のキャラクターはニコニコと俺に笑いかけている。
そして俺は、到底早退できるとは思えないその怪我のレベルに、思わず呆れてしまう。
「そんな怪我で早退かよ!弱っちぃなぁ!」
「弱くないです~!先生が『あなたは繊細だから』って早退させてくれたんです~!」
一体なんなんだコイツは...
いったい何が目的で俺に突っかかってきたんだ?
俺は一旦言い返すのを堪え、ゆっくりサッカーボールから立ち上がる。
さっきぶつけた頭の痛みは引いてきたが、(これはたんこぶになるやつだな)と確信した。
「私は良いのよ私は!あんたはなんで小学校に行ってないのよ!私と同じくらいでしょう!?」
俺は一通り口論は終わったと思ってたが、彼女のターンは続いていたようだ。
...更に、質問の内容が内容だ。
俺が学校に行ってない理由、それを出会って数十秒のこの女には言いたくはない。
なので俺は無理矢理、回答を濁すことにした。
「う、うるせぇなぁ!なんだっていいだろ!!」
「あーあ。答えてくれないなら学校に言っちゃおうかな~!学校サボって公園で遊んでる人がいます~って。」
ふんっ。
俺はわざわざ隣町の公園まで来てサッカーをしているのだ。
だからこの女が自分の学校に報告したとこで、どうせ大した問題にはならないだろう。
.....が、これ以上隠しても面倒くさい事にしかならなそうだったので、渋々本当のことを言うことにした。
これを言えばこいつも大人しく帰るだろう。
俺は一呼吸置いた後、ため息交じりに口を開いた。
「はぁ....。俺は、手の病気なんだよ。」
この病気の事を人に打ち明けるのは本当に嫌だった。
それも出会って数分の人間に。
しかし、彼女は俺の言葉の意味がよく分からなかったのか、首を傾げた。
「手の病気って、アンタの手、何ともなってないじゃない。」
彼女は俺の手をまじまじと見て、不思議そうな顔をした。
あぁ、この女はどこまで察しが悪いんだ...
俺はそんな彼女に嫌気がさす。
「だから、そういう病気じゃなくて、その.....」
この女にキッパリと告げてやりたかったが、やはり俺は全てを打ち明けられなかった。
そんな俺を見て、彼女は再び不思議そうな表情をする。
(あ~もう!手の病気なんて言ったら、普通アレくらいしかないだろ!いい加減理解しろよ!!)
...そして数秒後、ようやく俺の気持ちが届いたのか、彼女は閃いたように大きな声を上げた。
「え!?手の病気って、あんたもしかして『掌光病』!?」
彼女から発せられたその単語に、一瞬ドキッとしてしまう。
...まぁ俺の口から出さなかっただけマシか。
「...そうだよ、正解。よくわかりました。」
はぁ。やっぱりこの言葉は嫌いだ。
『掌光病』
名前の由来はたしか、この病気の第一発見者になった人の症状からだった。
最初は1960年代に数人見つかっていただけだったけど、今では約10万人に1人が生まれ持ってくるとされている病気で、症状は人それぞれ。
共通点は、手の平に何かしらの異常があるということ。
この病気だと診断された人間は、『掌光病罹患者』と呼ばれている。
そして、俺も掌光病罹患者の一人だ。
(さぁ、この女は面白がるか、おびえるか、どっちだ。)
彼女は最初、とても驚いた顔をしていたが、次第に口元が緩んでいき、遂に声を上げて笑い出した。
「くっ...、あははははははは!!」
(...なるほどな、面白がるタイプか。こりゃ俺から公園を出た方が早そうだな。)
「はぁ。」
俺は思わずため息を吐く。
彼女は俺の心底嫌そうな顔にやっと気づいたのか、慌てて笑うのをやめて話しかけてきた。
「ご、ごめんごめん!馬鹿にしてたわけじゃないの!」
彼女は弁明をしながら近寄ってきた。
ふわっといい香りがした。
「ちょっと嬉しくてさ...!」
(嬉しい...?)
掌光病罹患者を前に嬉しがる人間は、俺の考えだと二択しかいない。
重度の掌光病マニア、か、同じ掌光病罹患者。
「何を隠そう私は...!」
彼女はふわりと体を翻し、決めポーズをとろうとした。
なるほど、
この流れだと俺の予想は...
「もしかして、お前も、掌光病罹患者なのか...?」
俺がポーズをとろうとしている彼女に問うと、たまたま目が合ってしまった。
その時、俺の心臓がドクンと音を立てたのが分かった。
今思えば、
この日が俺の人生の始まりだったのかもしれない。
よければ評価、感想をお願い致します。