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ハンリベ  作者: 今木照
外伝章 ハカイのソウゾウ
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中嶋勇外伝③ 厄介事

前回のあらすじ


食堂で昼食をとっていた中嶋。

そこに金井が現れ、一緒に食事をしようとする。

しかし、中嶋は金井を待たずに食堂を後にするのであった。




2016年 5月 東京 新宿駐屯地 昼食の後...




(まだ午後の仕事が残っているんだ。金井のために食堂でのんびりしているわけにもいかない。)


食堂から出た僕は仕事に戻るためにいつもの仕事部屋に向かって歩きだした。


しかし、暫くすると結局金井に追いつかれてしまった。


どうやら金井は僕の仕事部屋まで付いてくるつもりらしい。


仕方がなく僕は彼と二人で歩みを進めていた訳だが.....。



....どうやら今日の僕は余程ツイていないらしい。



僕と金井は、仕事部屋の近くで隊員同士が揉めている所に出くわしてしまった。


(今日はやけに疲れる日だな...)


いくら面倒くさくても、目の前でトラブルが起きているのなら止めなくてはいけない。


それがこの国を守る隊員の義務だ。



よく見てみると、20代後半くらいの隊員2人が、2人のとても若い隊員相手と口論している。


説教ならよくあることだが、どうも様子が違うらしい。



20代程の隊員A「いいから謝れよ!怪我してたかもしんねぇんだぞッ」


若い男性隊員  「だからそれはお前らが突っかかってきたからだろうが!」


20代程の隊員B「あぁ?ちょっと話しかけただけだろうが!ってかお前がやったんだからなんか言えよゴラァ!」


若い女性隊員  「.......」



みっともない。


国を守ろうという人間が仲間内で言い争いとは、とても見せられたものでは無いな。



「おい、やめないか。なにがあったのか知らないが、そんな怒号を浴びせる程相手は大人ではないし、お前らは幼くないだろう。」



僕は二組の間に割って入るように歩み入り、20代後半の隊員達の方を静止させようとした。



隊員A「.......あ?誰だてめぇ。偉そうに説教か?」



けれど、それは逆効果だったようで、僕に注意された隊員が逆上してしまった。


...しかし、その隊員以外は動きが止まった。


三人とも僕の顔を見て、僕が誰だか分かったらしい。



隊員B「......!ば、馬鹿!『中嶋勇』だ....!一旦ずらかるぞ....!」



隊員A「は....?え、中嶋勇ってあの...!?ま、まじかよ」



そのまま二人の隊員は、足早に廊下の奥へと消えていってしまった。


(ふぅ。最近入隊した人間は本当にクオリティが低いな。まったく、それほど深刻な人材不足なのか?)


ひとまず、事情でも聴いておこうと思い残された若い隊員2人に声をかける。



「災難だったな。あの2人の名前は胸の刺繍から確認した。....何があったのか聞かせてくれないか?」



男性の方の隊員がこちらを見て、言いにくそうにしていた。


それにしてもこの2人は本当に若く見える。



「えっと、まずありがとう....ございます。....けど、本当にオレ達はただ歩いていただけなんだ!アイツらが黒江(くろえ)を見るなり近づいてきて、強引にナンパみたいなことし始めて!だからアイツらを突き飛ばしたのも正当防衛なんだ!」



『黒江』。話の流れから推測するに、彼の隣にいる女性隊員のことだろう。


今、状況を説明してくれた少年の胸ポケットには『本多』と刺繍がされている。


.....本多君は、その小柄な体には見合わないほどの闘志で先程も大の大人2人に怯まず応戦していたし、彼女のことを守ろうとするその気概は賞賛に値するものだ。


しかし、状況が状況とは言え、手を出してしまったというのなら一人の大人として注意をしておく義務がある。



「本多君、状況は理解した。しかし、いかなる状況でも、これから先背中を預ける仲間に手を挙げてはいけない。今のようなときは近くの上官や__」


「あ、えっと突き飛ばしたのはオレじゃなくて、黒江で、」



僕の話を本多君が遮った。


彼が目線を向けたのは、帽子を深々と被ったまま先程から一言も発しない彼女だった。


(この子が突き飛ばした...?)


......しかし、正直な所彼女に成人男性を突き飛ばせるような力があるとは思えない。



「おや、そうだったのか?えー、クロエ君?」



名前を呼ぶと、彼女はビクリと体を震わせ、少し委縮してしまった。


しかし、意を決したように口をへの字に曲げると、帽子と長い前髪から目を覗かせて、口を開いた。



「....ご!! .......ごめんなさいぃ~、急に男の人に近づかれてぇ、焦っちゃってぇ~、うえぇぇ」



(な、泣いた!?)


彼女は口を開くなり突然泣きじゃくり、その大きい瞳に水分の輝きを反射させながら謝罪を繰り返した。



「あ、あぁ、大丈夫だから。一旦落ち着こう。な?」



(なんだこの子、急に泣き出しちゃって、まるで僕が詰め寄っているような状況になってしまったじゃないか...)


僕はこの状況を何とか打破するのが急務になってしまった。


解決策を講じる僕の脳内に、食堂からずっと一緒に行動をしていた男の存在がよぎる。


僕は退屈そうに欠伸をしていた金井を呼び、彼の耳元で訴えた。



「おい金井...!さっきから見物していないで....この子を励ますのを手伝ってくれ!」


「しょーがないなぁ。まぁ、女の子を静かにさせる方法なら知っているヨ。」



金井は調子に乗った口調で囁き、未だ嗚咽を漏らして泣きじゃくる黒江君の方に向かった。



「ひっく、ひっく、うぅ....ごべんなさいぃ...」



金井が黒江君の目の前まで歩み寄る。


黒江君も近くに誰か来たことに気づき、上目で金井の顔を見た。


すると金井は俯いていた彼女の顎をクイっと持ち上げ、その瞳を見ながら囁いた。



「.......Hey girl.君の美しい涙を鏡替わりに、前髪を"set"するのもいいんだけど、そろそろ"dry"をしないと髪が傷んじゃうんだ。だから笑ってくれないか?君のその『SUN』のような笑顔でね!」

キラーンッ



金井は言い終わると同時に、決めポーズのようにウィンクをして見せた。




「・・・・・・・・・・・」




片眼を閉じて彼女の顎を持ち上げている金井。


その突発的かつ愕然とした行為に絶句する僕と本多君。


その空間に、数秒とも、数時間ともとれる沈黙が走った。



(あぁそうだった。金井は、女の子を泣かせる方の男だった。)



「ひぃっ!!」



黒江君は驚きと恐怖に歪んだ表情を見せ、何やら右手を前に突き出した。


その右手に気づいた金井は不思議そうに首を傾げたが、笑顔は崩さない。


流石クズ男代表だ。



「....この手をミーが取って_ブフォアッッ!!!!」



突き出された彼女の右手を金井が握ろうとした、まさにその時...!


突然!!金井の体が勢いよく後ろに倒れた!


金井は軽トラに撥ねられたサルのように両手を上にあげてK.O.されてしまったのだ。


彼は鼻血が噴き出ている顔面を押さえ、声も発せないのか地面をのたうち回っている。



(.......なるほど。今の出来事、そしてずっと疑問に感じていた、彼らのまだ中学生にも高校生にも見えるような年齢。ここから推測するに、彼らの正体は...)



「君たちは、掌光病枠か。」



僕の問いかけにハッとしたように黒江君が反応する。


しかしこの問いに答えてくれたのは本多君だった。



「あぁ...俺たちは中嶋さんと同じ、『掌光病罹患者』だ。」


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