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ゼロの鳥  作者: あきゅう
5/5

5 花冠


風にたなびく翠色の細やかな髪の毛。深い海を連想させる瑠璃色の瞳。陽の光など一度も浴びた事が無いのではないかと思う程の色白の肌。体格は中程でレイと差程変わらないように見える。

髪や服に幾つか装飾品を取り付けているが、それ以外に大した飾りは見られなかった。



「レイだ。この作戦の指揮とハチドリという部隊の隊長をしている。よろしく」

淡々と自己の紹介を読み上げるように言い、彼女は手を伸ばした。

「握手は全部終わった時にさせて貰うよ。まだ大事な物を返して貰ってないしね」

「……そうか、そうだな」

そう少女に諭され、レイは伸ばしていた腕を静かに下ろした。

「私はセントヘレンズ。世界がルトゥキアに滅ぼされないように旅をしてる」

「セントヘレンズ、綺麗な響きだ。よろしく」

「うんよろしく」

レイは再び癖で握手を求めようとしたが、寸前で気づきその手を抑えた。

「まずは端的に聞かせてもらおう。君は我々人類の敵か?味方か?」

そして鋭い視線を向けながらセントヘレンズに問う。各部隊の体調の視線も彼女に降り注いでいるのは言うまでもないだろう。

「……少なくとも敵では無いんじゃ無いかな。私の敵はルトゥキア、もしくはルトゥキアに加担する者。私の使命はルトゥキアに崩される世界を守ること。世界を守ることはそこに住む人類を守る事と同じことだと思ってるからね」

「……その、ルトゥキアっていうのは?」

八咫烏(ヤタガラス)のヘイゼルが手を挙げて質問した。

「何って……、君たちが対峙してるのが正にそれだよ」

「我々はそれをニゲラと呼んでいるんだ」

「へえ。ニゲラ、ニゲラねえ。珍奇な名前だ」

セントヘレンズはその名を噛み締めるように何度も口にし、やがて満足そうにもう一度ニゲラと言うと再び口を動かした。

「いいよ、そっちは複数でこっちは一人だ。私がそっちの言い方に合わせるよ」

「そうして貰えると助かる」

「へえ、意外と話が分かるじゃねえか」

シラヌイが感心したように鼻を鳴らした。

「で。さっきまで優勢そうに見えたけど、何故全員を集めてまで一回戦いを止めたんだい?そのまま押し切れると思ったけど」

「……我々もそう思っていた。けれど、一部隊が何の音沙汰も無く壊滅してね。それも数人の部隊じゃない、百何人はいる部隊が、だ」

「……確かにルトゥキ……ニゲラは人間を殺す。そして文明をも滅ぼす。だけど一個体の戦闘能力はそこまで高いとは言えないんだ。いくら武装の弱い人間でも逃げたり、隠れたり、生き残る術はあると思う」

セントヘレンズは少し考えて言った。

「君たちの仲間が一斉に殺られたとするならば、それは不可解だ。ニゲラに百人以上いる人間を瞬殺する程の統率力は無いし知能も無いはずだ」

「それは我々も分かっています。ですが、現にこのような状況になっているのですから……」

ランが唇を噛みながら、後頭部の髪の毛を結び直す。

「君はニゲラとの戦闘経験が豊富だと推察する。故に君の意見を聞きたいのだ、セントヘレンズ。今までの戦いでこのように大人数が消滅するが如く居なくなった事はあったか?」

そのレンの問いに対し、数秒考えた後()()という形で彼女は返事をした。

「ふふっ、それどころか文明そのものが消え去ったよ。私がどれだけニゲラを倒そうとも、多くの人間は絶望し終焉の時を待ち続ける日々を送っていた。まるで私を女神かのように信仰してね」

その不敵な笑みに各々がギョッと目を見開く。

「私はニゲラを倒すことが使命だ。そしてその文明の壊滅から人々を救うことも。けど、人々に生きる望みが無ければ救い出してやることすらできない。…………………………おっと話が逸れたね、まずこうやって人類がニゲラに対抗していること、そのものが稀有だ。しかも優勢でね。にも関わらず突然部隊が壊滅したなんて、流石の私でも経験が無いかな」

「ふむ……。では何か考えはあるか?推察でもいい。こうなったのでは無いかという意見があるだけでも我々の行動は大きく変わるだろう」

「そうだねえ……。あまり考えたくは無い話なんだけど」

ふう、と彼女は深く息を吐いて続けた。



「ニゲラの進化かな」



「「「ニゲラの進化ァ?」」」

「おや、三人とも。丁度呼びに行こうと思ってたんだけれど」

素っ頓狂な顔をして現れたのはシュンジ、トツサ、トコルの三人組。三人ともある程度の休憩は取れたようで、ずっと顔色の悪かったシュンジもある程度回復したようである。

「君たちは……」

「や、セントヘレンズちゃん。初めましてだね、私はトコル。よろしく~」

持ち前のコミュニケーション能力の高さで半ば無理矢理自己紹介を行うトコル。どうやら彼女の名前は盗み聞きでもして知っていたようである。

「こっちの顔色の悪いのがシュンジ、このチャラチャラしてるのがトツサだよ」

「ども」「うす」

ケラ搭乗組はさすがに疲れているようで、トコルの紹介に続いて簡単な挨拶だけを済ませた。

「で、進化っていうのは?」

「私がこの世界に来た時、通常とは異なる形態のニゲラと対峙してね。道連れのような形で倒すことは出来たけれどかなりの硬度と強さだった。……あんな個体見た事も無いし、戦ったことすらない」

「……それが進化、だと?」

ヘイゼルは眉を顰めながら問いかけた。

「本来ニゲラは普通の個体だけでも文明を滅ぼすことは容易いんだ。だから大半があの形態を維持してる。……でも、この世界は違う。ニゲラに対して抵抗する力を持っていて向こうも中々文明を滅ぼすことが出来ない。だからより効率的に、より力を持つ個体が現れてもなんらおかしくないんだよね」

絶対にそうとは言えないけど、とセントヘレンズは付け加えた。

「うん、確かに一理あると思う。これまでに出現していたニゲラも、完全に姿形が一致しているものは少なかったし、それも進化の兆候と言えるかもしれない」

「とすると、ニゲラの進化した個体が(カササギ)を壊滅した、と考えて良いのでしょうか」

「あくまで選択肢としてだがな。それを想定して動くのと有耶無耶な状態で動くのでは戦況は大きく異なるだろう。それ以外に考えられる状況も無いことだ、一先ずその線で行こう」

その場の面々もレイの判断に意を唱える者はいないようで、満場一致で首を縦に降った。そして彼女は皆の前の四脚机に第十、十一区の地図を広げ、それぞれの場所に指を指しながら配置を説明していく。

「ここが(カササギ)が消失した場所。進化したと思われるニゲラはここ周辺にいると思われる。第八区から進み先導はシュンジ、トツサに任せ前線は白鷺(シロサギ)が、トコルは白鷺(シロサギ)を率いて戦ってくれ」

「しゃ、腕が鳴るぜ」

「ったく白鷺(シロサギ)の連中はタフだね。俺たちなんてもうグロッキーよ」

肩をぐりぐりとら回すシラヌイを尻目に、若干皮肉を込めた口振りでトツサが吐き捨てる。

「お前らみたいなブリキの棺桶に篭ってる訳じゃないからな。信じられるのは己の脚、普段から死ぬほど鍛えてるからな、この程度じゃへばらないぜ」

シラヌイが豪快に笑い、トツサの背中をバンバンと叩く。

孔雀(クジャク)、そして八咫烏(ヤタガラス)はハチドリが十区に侵入し次第、そこの建物の確保、及び建物間の細かな隙間の敵の排除を。確保できたら屋内からハチドリ、白鷺(シロサギ)の援護を」

「「了解」」

ランとヘイゼルはお互いに顔を見合わせ、頷き合う。役割が近しい二部隊の隊長である為、双方それなりの交流があるのだろう。

「……そして最後に(コウノトリ)。通常通りの後方支援に加え、各部隊の負傷者、死傷者の穴埋めに数人貸して欲しい。専門で無いから厳しいかもしれないが、すまない、よろしく頼む」

「分かりました。(コウノトリ)の中でも腕の立つ者をそれぞれの部隊に派遣しましょう。……彼らがその部隊内で功績を残し、役に立つと証明したら、そのまま他部隊に移籍させてあげてください」

「ああ、それは考慮しよう」

「ケッ、(コウノトリ)のなんかが白鷺(シロサギ)に来でもしたらいい足でまといだぜ」

「……」

悪態を飛ばすシラヌイにルンティが鋭い視線を送る。それを見て怖い怖いと彼はおちょくるように肩を竦めた。




「やあやあ、セントヘレンズちゃん。どういう風の吹き回し?さっきまで鬼の形相でセツナのことを追ってたって聞いたけど」

「ヘレンでいいよ。長いでしょう」

レイによる解散を受け、それぞれの部隊長が自分の持つ部隊の隊員に状況伝達・作戦内容の伝達を行っている間、ハチドリは手持ち沙汰となり自由行動となる。

シュンジとトツサはケラの簡単なメンテナンスを行う為にこの場を離れており、セントヘレンズとトコルは二人きりとなってしまう。

「彼は私の私物を一つくすねたみたいでね。それは私の命に変えても変えられない程大切な物なんだ」

「セツナが物をくすねるなんてあんまり考え付かないんだけどね。……何か誤解があるんじゃない?」

「かもしれないね。けれど、突然逃げ出したということは何かあるに違いないと思う。私には伝えられない何かがね」

それを聞いてトコルは小さく息を吐いた。

「そんなに大切な物なの?それは……お財布?大切な人の指輪?」

「懐中時計だ。……うん、大切な人の物だね」

「懐中時計って、あの小さな時計の?」

「うん。少し用途は違うけどね」

セントヘレンズの手が、腰から吊るされているチェーンに伸び空を切る。おそらくそのチェーンに懐中時計が取り付けられていたのだろう。

「大切な人っていうのは?……恋人?」

トコルはニヤニヤしながら肘で彼女の腰辺りをつついた。

「恋人……いや、それ以上かな」

「……ふぇ!?既婚者だったの……!?」

トコルは目を見開き、ガコンと顎を開き、あわあわと指を指しながら一歩引き下がった。その反応を見てセントヘレンズは苦笑いを浮かべ返答した。

「違うよ、私の師匠だよ。ずっと一緒に旅をしてたね」

「なんだ……びっくりしたよ。今その師匠は?来てないの?」

そう言った途端セントヘレンズの顔色が曇り、トコルはあ、と口を噤んだ。そして同時に踏み込んではならない話題だったのでは無いか、と数秒前の自分に対して後悔の念を浮かべた。

「……えっと、その」

「死んだよ、ずっっと昔にね。その時に形見として受け継いだんだ」

「……」

「っ、気にしなくて良いよ。それで傷付いても師匠が帰ってこないことくらい分かってる。……だからこそ、数少ない思い出の品として。師匠と過ごした日々が現実だったと認識させてくれる物として。失いたくないんだ」

二人の間にしばしの沈黙が流れる。トコルは口を開こうにも開けず、セントヘレンズはただ純粋にそれ以上話そうとせず言葉を発さなかった。

「……いい、お師匠さんだったんだね」

やっとの思いで言葉を発せたと思えば、その程度のことしか話せなかった。けれど、それを聞いてセントヘレンズの顔に小さな笑みが浮かんだ。誇らしげな、しかしけれど寂しげな。

「うん。全世界中の誰を探しても師匠のような人はいなかった。……私を、暗闇から引き出して導いてくれるような」

「……私からも、セツナに掛け合ってみるよ。身内の方が話しやすい事もあるかもしれないしね」

「ああ、ありがとう」

きっと根は良いのだろう。普通に会話をしている分に彼女から敵意や悪意は感じられない。話も普通に出来るし、なんなら星霜よりもコミュニケーション能力は高いかもしれない。

「あ、そうだ。ヘレンちゃん、少し屈んでもらってもいい?」

「……え?」

「ほら、私チビだからさ」

「?」

答えになってない、と言いたげな表情だったが、こちらに敵意が無いのを分かってかセントヘレンズはその場に腰を下ろし不思議そうな顔でトコルのことを見ていた。

「せっかく綺麗で長い髪の毛なんだから。可愛くしてあげるよ」

そう言うとトコルは彼女の背後に回るとひと房の髪の毛を手に取り、慣れた手つきで髪を編み始めた。

「……ちょっ、何してるの?」

「あ、ごめん。嫌だった?」

「いや、別に……。何をしてるのかと」

トコルは「秘密だよ」と笑みをきかせ、もうひと房を手早く編み上げた。

「はい、出来た」

編み込んだ髪を後ろで一つにまとめ、ハーフアップにしてトコルは満足気に頷いた。

「これは……?」

「最近凝ってる髪型だよ。私は髪短いから出来ないけど、トゥルナとかにはちょくちょく練習させてもらってるんだから」

流石に高い地位にいるレイにはさせて貰えなかったが、それでも雰囲気の重い軍の宿舎で少しお洒落に髪を纏めている女性がいると空気が華々しくなるものである。

「邪魔だったらすぐ解いていいからね。私がやりたかっただけだから」

「……」

セントヘレンズは形を崩さないように、そっと編み込んだ髪に触れ、自分の髪型を指の感触で確かめた。

「おーい、トコル!そろそろ準備しろー!」

「あーはいはい!すぐ行くー!」

そんなほのぼのとした時間もつかの間、『ケラ』から頭を出したトツサが、手をおおきく振りながら声を張った。『ケラ』の調整が終わったようで、前線を率いるトコルは途中まで『ケラ』に搭乗して第十区に入ることになっている。

「じゃ、私行くから。また後でね!」

彼女はセントヘレンズに手を振って踵を返すと、小さな体躯を大きく動かしながらエンジンのかかった『ケラ』の方へと駆けていった。

そんな彼女の後ろ姿を見て、セントヘレンズは唖然とした表情を浮かべていた。今から、自分たちが向かうのは死地であろう。であるのにも関わらず、何故笑顔でいられるのか。何故明日に希望を抱いていられるのか。


――明日は、今日を精一杯生きた生物にしか訪れないんだよ。


耳の奥で、昔懐かしい声が聞こえた。遠い海の、さざ波のような。


「……」


きっと、彼女らにとってこの戦いなど日常なのだろう。どれだけ死傷者が出ようとも、自分は絶対に生きて帰る。

そんな意志を、その小さな背中から感じられた。

どの世界でも、明日に希望を抱く人間はいなかった。日々迫り来る()というものにただ怯えて、寧ろ終焉を待ち望んでいるものすらいた。

自らの命を守ろうとすらしない者たちに、どう明日を与えてやればいいのか。世界と世界を旅している彼女は日々そんな葛藤に駆られていた。

否、この世界は違う。皆が生きようと前を向き、持てる全てでニゲラの襲撃に向かい合っている。例え、いつ文明が滅ぼされようとも、最後のその日が来るまで彼らは屈すること無く戦い続けるのだろう。


「……師匠。私は、この世界を……」


青空を両断する亀裂に向けて無意識に手を伸ばした。

この世界の人間たちになら、自信を持って明日を届けられるかもしれない。

師匠と彼女の世界の救い方はほんの少し齟齬があったけれど、彼女の意思にきっと彼は賛同してくれるだろう。


「セントヘレンズ、少しいいかい?」


瞼の裏に映る情景を噛み締めていると、ぽんと肩に手を置かれ、彼女は我に返る。

「っ――、どうしたの?」

「おやすまない。考え事をしていたかな?」

振り返ると、両手をホールドアップしたレイの姿がそこにはあった。背後の人間の気配にも気付けぬほど、意識が乱れていたのか、とセントヘレンズはバレぬように唇を噛み締めた。

「……いや、大丈夫」

「そうか。少し来てくれないかい?君に頼みたいことがあるんだ」

そう言ってセントヘレンズの返事無しにレイは振り返り、先程部隊長たちと話し合ったテントの下へと歩いていく。

セントヘレンズは少し眉を顰め、しぶしぶその後を着いていく。

「……」

何となく両手を頭の後ろに回すと、いつもとは違う感触がそこにあった。そういえばトコルに髪を結ばれていたっけ。

(解いていい、そう言ってたもんね)

慣れぬ髪型では、空を飛んだり戦ったりする時に邪魔になる可能性がある。それに彼女は解いてくれて構わないと言っていた。

セントヘレンズは両手でハーフアップに纏められた髪の根元に手を掛け、不慣れな手つきで髪を解こうとする。

刹那、再び耳の奥に聞き慣れた声が木霊する。



――似合ってるじゃないか、ヘレン。

――もう、師匠。私の髪で遊びたいだけでしょう?


男は、多種多様の花が咲き乱れる大地でセントヘレンズの背後に胡座を組み、彼女はその上にちょこんと座っていた。


――綺麗な髪なんだから、良いじゃあないか。

――でしたら師匠も髪を伸ばしてはどうですか?少し伸びる度に切っていますし。


セントヘレンズは白髪の混じる栗色の彼の髪に手を伸ばした。手入れはされているものの、年齢と男特有の髪の太さ故にそれは少しゴワゴワとしており、何となく彼女も彼が髪を伸ばさない理由は分かっていた。


――私が髪を伸ばした所で、山奥に住む仙人のようになってしまうだけさ。

――そういえば前の……前の世界でしたっけ。山の奥で出会った人間はその()()()()とよく似ていましたね。

――はは、そういえばそうだったな。…………よし、出来た。


彼は慣れた手つきで軽く手で髪を梳くと、その頭にぽんと手を置いた。


――よく似合ってる。

――うう、私には見えないんですよ。


そう言うと師匠は似合わずゲラゲラと笑った。


――そういえばそうだったな。……この髪型は私の妻がよくしていたものでね。段々ヘレンも彼女に似てきているような気がするよ。

――……。


セントヘレンズは師匠の妻が遠い昔にこの世を去っていることを知っている。別に病気とか事故では無く、ただ師匠が寿()()というこの世の摂理から逸脱したが故に、彼女は置いていかれてしまったのである。


――……では、これは私からのプレゼントです。

――おっとと、これは花冠かい?よく出来てるじゃないか、教えたこともないのに。


少し重くなった空気を誤魔化すように、セントヘレンズは小手先で作っていた色とりどりの花を集めた花冠を半ば無理矢理彼の頭に乗せた。


――師匠がいない時、三つ前の世界の子供に教えてもらったんです。いつか、こんな綺麗なお花畑に辿り着いたら師匠に作ろうと思って。

――うん、この世界の緑は美しい。きっと世界に生命力が溢れているのだろうね。


彼は花冠を手に取り、ふっとはにかんだ。


――この花冠は一生の宝物だな。時間を止めてどこかへ飾っておこうか。

――もう!そういうのは枯れてしまうから美しいと師匠が言ってたじゃないですか。また綺麗なお花畑があったら作ってあげますから!


二人の高らかな声が、無限に続くのではないかと思う程広大な花畑に響き渡った。




「……ふっ」


そういえば、昔よく師匠に髪を結わえてもっていたっけ。大したやり方を教わっていなかったから自分ではやろうとすら思ってもいなかったが。

セントヘレンズは髪から両手を離し、どこか遠くへ笑みを向けた。

そして静かに呟いた。





「……あなたの、好きな髪型でしたよ」















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