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ゼロの鳥  作者: あきゅう
4/5

4 どこへ

4

『は、はぁ!?(後方組)が壊滅ぅ?』

『レイさん、冗談キツいっすよ』

『もう半分終わりみたいなもんでしょう?そんな言ったかて俺たちは騙されませんよ』

無線越しに聞こえてくるハチドリの面々の驚いた声に対し、レイは深々と溜息をつき言った。

「こんな状況で私が冗談を言うとでも……?少なからず後方部隊と連絡が取れないのは確かだ。……どこかに倒し損ねたニゲラが塊になっていて襲われたか?」

『でもそしたら一報あるんじゃないっすか?』

トツサの一声にレイは唸り頭を抱えた。

「そうだな……。連絡が絶たれた……?それか連絡が出来ないほど一瞬で殲滅された?」

『そんなニゲラが出たとしたら私たちだって太刀打ち出来るかどうか怪しいね』

「……うむ」

レイは数秒考えた後、椅子を弾き飛ばさん勢いで立ち上がり無線機に指を当て、部隊全体へとチャンネルを切り替えた。

「全部隊、周辺のエリアを確保しそこで待機せよ。……ハチドリは八区の方へ移動を。物資の運搬をさせ、私も合流する」

『レイさんが出るんですか?』

「あぁ、だからハチドリにはこちらから送る物資の護衛がてら迎えに来てもらおうと思ってね」

『そりゃあ構わないですけど……』

「では早急に頼む。何台か弾と弾薬、あと簡易的な食料を詰め込んだトラックを連れていくから各部隊に分配してやってくれ」

『了解。ケラ、並びにトコル。八区入口にて合流します』

『レイさん、……僕は?』

「星霜はその場で待機を。続いて狙撃を頼む。……何か変わったことは見られなかったか?」

星霜は少し考え、後方にいるであろう補助二人に何か問いかけ再び無線に向かって話した。

『いえ……。ただここからですと建物が密集している場所までは見えないので……。何かあったら追って連絡します』

「ああ、よろしく頼む」

レイはホルスターを肩にかけ、椅子の背もたれにかけてあったカーキー色の上着を羽織り、軍用トラックの荷台から飛び出し運転席に腰を据えた。

「行けるか?」

エンジンを回しかけながら隣に並ぶ三台のトラックの運転主に向かって声を張る。

この三台のトラックの荷台には弾薬やら食料やら、戦場で必要な物資が詰め込まれている。普段は緊急用として滅多に使うことは無いのだが、今回はレイが手配させ待機させておいた。

「問題ありません!」「行けます!」「いつでも大丈夫です!」

「私の後に着いてきてくれ!八区に着いたらハチドリが君たちを先導してくれる!」

アクセルを踏み込み、宿舎の門を出て第八区へと向かう。時折バックミラーを見てし、後方のトラックが着いてきているか否かを確認する。

「突然連絡が取れなくなるなんて……。しかし星霜は何も見ていないという……。……嫌な予感がするな」

手袋の上から指を噛み、思考を巡らせる。

正直、ニゲラの生態や種類について完全に把握できているものは無い。それぞれに多少の個体差はあるし、容姿が異なることだってある。基本それらに大きな能力の差異は無いと言われている。

しかし、前回の『零化』ではセツナが体型や見た目が完全に異なるニゲラの存在を把握している。

此度の後方部隊の連絡が途絶えたのが、別種のニゲラによるものであるとしら、それはかなり厄介な事になる。

「……っ、あれはホウジャク……」

ふ、と顔を上げれば宿舎の方へヘロヘロと飛ぶ見慣れた機体の姿があった。所々破損しているようにも見えたが、元々オンボロな機体であるが故、それが新しく出来た損傷なのかどうかの判断はつきかねない。

どうやらセツナはレイがトラックを運転している事には気づかない様だが、それでも彼が戻って来てくれたことはこの戦いにおいて大きなアドバンテージとなるだろう。

「……良かった、無事で」

これから待つ()()のことは一瞬忘れ、レイはほっと安堵の息を吐いた。

しかし、今の状況的に彼を待つ余裕は無い。彼女は視線を正面に戻し、気持ちを切り替える。

少なからずセツナが戦線に復帰出来れば、どの状況であろうと好機に傾く事に変わりは無い。それまでに極力戦力を減らさず、戦線を維持しなければならない。

『――――あ、あ――あ、聞こえるか?レイ』

「っ、大佐。聞こえています」

普段大まかな作戦の指揮のみを行い、基本戦いの最中はハチドリにその判断を委ね、滅多に顔を出してこない大佐の声が無線機から酷いノイズと共に聞こえてくる。

ノイズの原因は距離が離れているからか。

『守備は――?軍用トラック三台と()()()を持ち出したと聞いたが……』

「っ……。はい、そうです」

『何か――問題が?』

「そうです。零化の規模は小さいため、比較的早い段階で処理出来たのですが、先程から後方部隊との連絡が途絶えまして。ほとんど被害の出ていない部隊でしてから違和感を感じて」

『……分かった、お前の判断を信じよう』

大佐は少し考えるようにして間を開けて続けた。

『――――何かあったらこちらが指揮権を担う。それまで状況は逐一報告すること。()()()を出すんだ、お前も――指揮なんてやってられないだろう』

「……ありがとうございます」

『礼は不要だ。……それよりもお前の感じた違和感が現実にならない事を祈っているよ』

そう言うと彼は足早に無線を切った。

ハチドリの総指揮権を担う男、リュートン大佐。基本戦地には赴かず、首都から無線機を用いて指示や連絡を行ってくる。

戦地には出ないが、その客観的な指示は何かと参考になるし、ハチドリの資金面は彼が工面してくれているおかげで何とかなっている。基本ハチドリが自由に動き回れるのは彼が零化の処理をレイに一任しているからである。彼としても、零化を処理さえ出来れば特に問題は無いようで余程の事が無ければ小言も挟まれない。

「次は菓子折りでも持ってかないとダメかな」

とは言っても()()()()にはパサパサのクッキーか、甘く無いケーキ程度しかない為逆に処理に困らせてしまいそうだが。





時折半壊したアスファルトの道に身を揺らされながらも、合流地点である第八区の入口にまで辿り着き、レイはブレーキをかけアクセルを踏む足を除けた。

第八区は旧港町。零化が始まるまでは各国から数多の輸送物が届き、町も活気があって賑わっていた。

「懐かしい、な」

肺いっぱいに潮の香りを吸い込むと、瞼の裏に昔の情景が映し出される。耳を劈く汽笛を鳴らす輸送船、釣れた魚を数匹分けてくれる初老の男性、呑気に数人の友人と共に辺りを駆け回る子供たち。

目を開ければ、それは嘘であったかのような景色が広がっている。半壊した建物、陥没し隆起した地面、かつて船だった物の残骸、海岸に打ち上げられた人工物やカラカラに乾いた人骨。

「……懐かしいですね。レイさんはここのご出身で?」

後ろを着いてきたトラックの運転手が席を降り、彼女のトラックのドアに腕をもたれさせながらレイに言った。

「……ああ、出身では無いけど十五歳くらいまでは暮らしてたよ。お父さんが漁師でね、よく手伝わされてたっけ」

煌びやかな思い出を穢すように、目も当てられないような荒廃した世界が目の前には広がっている。零化が起きた後は早急に廃棄され、多くの民は都市の方へ身を移した。

昔から唯一変わらないのは堤防に打ち付けるさざ波の音か。その音に混じって船のエンジン音と子供たちのはしゃぐ声が、記憶から引き出され耳に響いた。

「……さ、思い出にひたっている場合じゃないな。ハチドリも来たみたいだ」

藁葺き屋根の一軒家が両脇に立ち並ぶ大通りから、土煙をもうもうと立てながらこちらに迫ってくる影が目に入る。だんだんと距離が短くなってくるとそれが四足の足でガシガシと地面を蹴り進むケラである事が分かる。

レイもトラックから飛び降り、大きく手を挙げて己の位置を示す。

「レ~~~~~~イ!!!!」

ケラの騒々しい駆動音にも負けない声量で叫ぶは、その上にしがみついて大きく手を振るトコルだった。

レイたちに土煙を被せぬように寸前で速度を落とし、横向きになるようにしてケラの足を止めると、トコルが颯爽と飛び降り、続いてトツサ、シュンジも重苦しい顔を浮かべてハッチを開け出てきた。

「三人ともご苦労さま。疲れている所悪いがもうひと踏ん張り頼むよ」

「……っす。まあニゲラたちを倒さにゃ安心して休憩も取れないんでね」

シュンジが深々とため息をつきながら凝り固まった体を伸びやストレッチで解しながら言った。

「ケラの足が二本動いていないようだが大丈夫か?」

レイが目を細め、それを見て言う。こちらに向かって来ている時も、左右各一本の足が機能しておらず若干制御しづらそうに見えたのだ。

「片足がやられたんで、バランスを取るためにもう片方を止めたんす。他の足への負担はかかりますけど操作は楽になるんで」

ぐったりとしたシュンジに変わってトツサが自慢げに話す。流石のシュンジとはいえ、機動力の落ちたケラで戦い続けることは彼の精神力を大きく削いだようだ。

「修理は効きそうか?」

「んまあ出来ないことは無いっすけど……。すぐにゃ無理ですね。小一時間はかかりそうなんで」

「ふむ」

「まあ大丈夫っす。これからは俺が操縦変わるんで。操縦者の負担はあるけど今日くらいならこのオンボロも動いてくれるでしょう」

トツサがケラの外装の鉄板を殴り付け、それに応えるように金属音が鳴った。

「くれぐれも無理はしないように、危険を感じたら一線を引いてくれて構わない」

「どもっす。……んで、これからどうするんすか?後方部隊の事とか……」

「それは向こうで詳しく説明するよ。とりあえず今はこの物資の詰まったトラックを前線に届けよう」

「分かりました」

トツサは頷くとしおれたシュンジを無理矢理引っ張りケラの中に戻っていく。

「トコル」

「ん?」

トコルもいそいそとケラの上に登ろうとしていたので、彼女にレイは声をかける。

「その上じゃ疲れるだろう、私の助手席が空いてるから座りな」

「え、まじ!?さっすがレイ、部下に気を配れる優秀な上司!」

そう言うとトコルはうっきうきで重そうなバッグを投げ入れ、助手席に飛び乗った。



「……私が優秀な上司ならこんな状況にはならないんだろうが……」



レイは数秒思い出の詰まる海岸を見つめ、自らを嘲るような笑いを浮かべると少し高い運転席にへと登り、アクセルペダルに足を乗せた。





前を進むケラの後ろに四台のトラックが続いて状態の悪い道路を進んでいく。数秒に一度、隆起したり凹んだりしている地面に車体が大きく揺れ油断をしていると舌を噛みそうになる。

「これでよく寝れるな……全く」

ちらりと尻目でトコルを見ると、ボロボロに汚れた己のバッグを胸の前で抱え、幸せそうな顔をして寝ていた。ちょっとやそっとの揺れで起きず、彼女の睡眠が深いことが分かる。

戦いの後は疲れるものだし、ほっと一息つくと気が抜けて睡魔に襲われるのも分かる。自分だって長丁場になった戦いの後は張り詰めていた緊張の糸が途切れ、そのままベッドで寝てしまうことがある。

だからレイは隣ですうすうと寝息を立てて寝ている彼女の事を起こそうとせず、呆れたようなされど柔らかな笑顔を浮かべそのままにしておいた。

レイは片手でハンドルを握り、少し小さな声で無線を入れ大佐と連絡を行う。

「レイです。ハチドリとの合流を終え現在十、十一区へと向かっています」

『――分かった。物資の運搬が終わり次第、歩兵隊の各部隊長を集めて状況の共有をしよう。『ホウジャク』が上空から偵察を、星霜には監視兼援護を任せよう。『ケラ』とトコルを筆頭として後方部隊が消失した地点に向かわせ、必要を感じたらお前も『()()()』を出せ』

「……『ホウジャク』は……」

しまった、とレイは顔を顰めた。『零化』の亀裂の中から現れた謎の翠色の髪の少女のことは、大佐にも報告していない。それは状況の混乱と上層部の注意を引かないためである。

『ホウジャクがどうかしたか?』

少なからずニゲラと敵対していると思われる彼女をハチドリに引き込めば大きな戦力の向上に繋がる。しかし、彼女が『ホウジャク』を追いかけ、セツナが戦線に出ることを妨害したと知れれば、それは厳しいものとなるだろう。

であるからして、とりあえず現状は彼女のことは大佐であろうとも門外不出。この戦いが終わって落ち着いた後に、そのことを報告しなければならない。報告する時も報告書に幾つか偽装を施さなければならないが、資金と戦果以外に特別な注意を払わない大佐であればある程度見逃してくれるだろう。

「いえ……なんでもありません。セツナには上空からの監視を行わせます」

『そうか。……では健闘を祈るよ』

若干疑問が残るような声だったが、半ば無理矢理レイが無線を切った。色々と探られても後々面倒になるだけである。

今は、目の前の問題を片付けなければ。


――


数十分後、ケラ率いる補給のトラックが第十区に到着し、順番に物資の補給を行う。

待機していた部隊が広めの元々公園だったであろう場所を確保しており、トラック四台はそこへ車を止める事が出来た。

主に弾薬や装備の補給、食糧の配布が行われ張り詰めていた空気は少し穏やかなものになる。だが、行方不明になった部隊がいることへの恐怖感と正体不明の敵の存在に兵たちの不安は消えることは無い。

「部隊名『白鷺(シロサギ)』。隊長シラヌイ、到着しました」

「部隊名『孔雀(クジャク)』。隊長ラン、到着です~」

「部隊名『八咫烏(ヤタガラス)』。隊長ヘイゼルです」

「部隊名『(コウノトリ)』、隊長ルンティです」

それぞれの部隊をまとめ上げる各部隊の隊長を招集し、各々所属する部隊名と名前を言う。それぞれの部隊長が軍服の胸ポケットに部隊名の鳥を象ったバッジを取り付けてあり、誰がどの部隊なのかはひと目で分かった。

白鷺(シロサギ)、主に最前線で戦う部隊。ハチドリの進行に合わせ前線を作り出すのを主な役割としており、所属している兵士たちの腕は中々洗練されている。その部隊長シラヌイ、柔らかな橙色の髪に凛々しく鋭い目を持つ男。頬には一本の古傷が残っており、それが彼の力強さを強調しているようであった。

孔雀(クジャク)、主に拠点やエリアの確保を得意としており遠方の戦闘では特に欠かせない存在である。部隊人数は比較的少ないが、だからこそ輝くチームワークで任務を遂行する。その部隊長ラン、ブロンドの髪を後頭部でひとつにまとめ、馬のしっぽのように垂らしている男。普段は飄々とした態度でフラフラとほっつき歩いているのだが、いざ戦闘となるとガラリと性格が豹変し敏腕な部隊長になる。話しやすい性格のため、人望も厚く仲の良い部隊員も多いようである。

八咫烏(ヤタガラス)、これもまた少人数部隊で建物の確保や入り組んだ場所のルートの作成などに長けている。今回の作戦でも数多の建造物の内部まで確認しなくてよかったのは八咫烏たちが前もってその場所を確保していてくれたからである。

その八咫烏(ヤタガラス)隊長はヘイゼル。若干クセの残る灰色の髪の毛を肩ほどまで伸ばし、上げた前髪を編み込んでいるのが特徴的な女である。虚ろな目で嫌に隈が目立つ。普段は寡黙であり、コミュニケーションを交わしている様子はあまり見られないが、戦闘センスは抜群のものであり自ずから散弾銃を抱え誰よりも前に立って屋内の敵を殲滅する。目元の隈は彼女の抱えている不眠症故だと思われる。

(コウノトリ)、後方部隊の一つであり主に白鷺(シロサギ)やハチドリが狩り逃したニゲラの殲滅、被害状況の把握、死傷者や負傷者の応急処置や手当を行う。表立っての戦いは行わないものの、縁の下の力持ちであり欠かせない存在である。

その部隊長、ルンティ。部隊内でのあだ名は()()()。その名の通り丸眼鏡がトレードマークの男で物腰柔らか、性格も温厚で基本いつも押され気味である。医術に精通しており、現場での応急処置の腕はトゥルナですら一目置くほどである。

「『(カササギ)』は……。やはりいないか」

そして(カササギ)。ここも(コウノトリ)と同じく後方部隊であり、残ったニゲラの掃討、遺体の回収などが役割である。

そんな(カササギ)の部隊長がこの場に現れていない。

「すみません、(コウノトリ)が早く気付いていれば……」

「最初に気付いたのはそちらの部隊が?」

ルンティは重々しい表情で頷く。

「少し離れて各部隊で行動していましたので、気がついたときには跡形もなく……」

「連絡も取れなかったって事だ」

シラヌイが割り込むような形で参加してきた。彼は訝しげな目でルンティを睨み付けると吐き捨てるように続けた。

「本当にニゲラのせいなのかねぇ。元々後方組(へっピリ腰ども)同士で立場を争ってただろ。ニゲラのせいにして隠蔽しようとしてるんじゃねえのか?」

「は、はあ!?」

「……シラヌイ」

肩を掴みかかったシラヌイに対し、レイは冷ややかな声で静止をかけ彼も悪態を吐きながらルンティを突き放す。

「そもそも歩兵同士で潰し合うわけが無いだろう?人数が減ればそれだけニゲラに勝てる確率も減る。そんなの自殺行為だ」

「本当にそうかな?俺たちなんぞいなくてもハチドリのがいれば問題ないんじゃねぇのか?」

「っ……シラヌイ、いい加減にしろ」

「…………っち」

先程までの冷静な声ではなく、その声の裏に怒りが隠れたレイの言葉がシラヌイの喉元に食らいつき、彼は思わず後退りした。

「味方同士でいがみ合っても仕方が無い。犯人探しなんてこのニゲラの蔓延る戦場で以ての外だ。今は状況を整理することを最優先としよう。まず(カササギ)の部隊長含め、部隊員全員がこの場に現れていないというのが不可解だ。八咫烏(ヤタガラス)孔雀(クジャク)のような戦闘力がある訳では無いが、それでもある程度の人数はいる。……一人くらい状況をこちらに伝えて来てもおかしくは無いはずだ」

まずはレイが客観的な視点から事の状況を述べる。それに対して部隊長各々が頷き、それぞれの意見を出していく。

「それほど大量に、そして一瞬で歩兵を殲滅できるニゲラが残っていたということでしょうか?無線を入れる暇も無いほどの時間で」

ヘイゼルの意見に対して、ランが反論する。

「その考え方ですと、ハチドリそして白鷺(シロサギ)の目をもかいくぐった事になります。周辺の建物は事前に八咫烏(ヤタガラス)そして我々孔雀(クジャク)が確保していましたから隠れてた、というのも考えにくいです」

「ハチドリんとこの狙撃手も遠方からずっと見てるんだろ?」

「ああ、しかし新しくニゲラが降り立ったという報告も聞いていない。それに……上空には()()がいるから、な」

レイは若干のためらいを隠しきれない様子で、天に指を指した。

その場にいる全員が、伸ばされた指の先に視線を向ける。



「……今は()()に頼りたくは無かったのだけど」


「しかし()()()()()を狩るという目的は一致しているだろう。諸々の問題はこれが終わってからだ」


一つの影が天から落つる。土煙を上げながらも、何の音も立てずに地面に降り立つその姿は、まるで降臨した天使のよう。


各部隊の隊長が目を見開き唖然としている中で、レイは深々と溜息をつき尻目で彼女の方を見やった。


「利害は一致しているはずだ。協力を仰いでも問題無いだろう?」


「勿論。ただし終わったら()との話はつけさせてもらうよ。彼は私の命よりも大切な物を持っているからね」


「――――……無論だ」







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