9時間目 真の力は仮面の内に
「やはり貴方もお持ちでしたか……我らにとって最大の脅威たる魔眼を」
「逆に言おう……魔王が魔眼を持たないとでも思ってたのか?」
「クックック……貴方はてっきり肉体をも鋼鉄にしているかと思いましてね」
「ご覧の通り俺は人の肌を持ちながらも機械の手を持った異質な存在ではあるが、魔眼の1つや2つは持っているさ」
とはいえまさかこんな輩相手に素顔を晒す日が来るとはな……
「ここは己の精神世界、つまり下手をすれば貴方は二度と目が覚めることも無く短い生涯にピリオドを打つ事になりますよ?」
「そんな事は知っている!だから俺は仮面を外したのさ……お前ごとこの空間に張られた結界をぶち破る!」
俺は銃剣から弾丸を飛ばしつつセクシャメスに近づいた。
「舐められたものですね、私も。私がこの世界において最強な事は貴方も理解しているでしょう?何故無謀にも私に近接戦を仕掛けるのです?」
「悪いな、俺はこうして剣で語り合うのが好きなんでね」
俺はセクシャメスと鍔迫り合いになりながら呟くように煽ってみた。
「ならば近づけなくさせてあげますよ!」
セクシャメスは無数の電撃を放ち、俺から少しでも距離を取ろうとしたが、俺もその電撃に重ねる形で銃剣から破魔の術を放って相殺しつつ首を撥ねるべく迫った。
「ぐ……やはり一筋縄では行きませんか……ですが、これならどうでしょう!」
俺がセクシャメスの目の前まで迫った途端、天地が逆転して俺の視界の殆どが黒煙に満ちていた。
「フッ……意地でも俺に首を撥ねられたくないと……そう言いたげだな、セクシャメス」
「過激派を復活させる為には私のような司祭の存在が不可欠なのですよ……!」
「何だと……ぐぁっ!」
俺がやっとの事で視界を鮮明にした矢先に足元から立ち昇った火柱が襲いかかり、俺の体は再び宙を舞った。
「魔王は世界の毒物!決してあってはならないのです!」
まともに身動きが取れない俺の体に対して止めと言わんばかりに一筋の雷が貫いた。
そして、俺の意識は地上に落下すると同時に薄れていき、最終的に消えた。
『クロム……クロム……!』
無いはずの意識の中に現れたのは俺がかつて勇者だった頃に俺の手で倒した先代の魔王アイオンだった。
『何故地に伏しているんだ……かつて我を下したお前がお前よりも弱い者に屈するとは何事だ!』
そうだ……俺はまだ……奴を倒せてない!
『思い出せ、クロム……お前が割れを討ち取った日に交わした約束を。さぁ、立て……そして今こそ使うがいい……その“手”に託した禁術を』
アイオンはそう言い残すと足元からゆっくりと姿を消した。
「セクシャメス、勝ち誇るにはまだ早いぞ!」
「ふむ、あれだけの怒涛の攻めを受けても立ちますか……!?」
俺は銃剣を投げ捨て、四肢で唯一骨を持たない機械の腕に紅い稲妻を放つ紫の魔法陣を展開し、脳内でアイオンが教えた式を組み始めた。
「ま、待ちなさい……その魔術は貴方の者では無いはず……」
「あぁそうだ……これは俺の魔術じゃない。俺を信じ、俺に全てを託した友の遺した魔術だ。そしてこれは……お前達のような愚者共をこの世から消し去る為の術だ!」
「ま、待て……今すぐその術を止めろ!」
「断る……皇鋼終焉!」
俺は展開した魔法陣から無数の鋼の楔を飛ばして急に怖気付いたセクシャメスを四方八方から串刺しにして消滅させた。
その後、俺の目の前の景色が突如一面に花が咲き乱れる場所に変わった。
「久しぶりだね……アユム」
「なっ……き、君は……!?」
鈴のように透き通った音色の声……薔薇が散りばめられている黒色のワンピース……忘れた事は一度もない、俺の唯一の思い出と後悔の象徴がそこにいた。
「仮面、やっと捨てる気になったの?」
「あぁ……正直アイツを倒す上で仮面は邪魔でしかなかったから……」
「そっか……まだ、私を喪った事を後悔してるよね?」
「後悔してないと言えば嘘になる……だって君は……俺のせいで……」
「私ならもう大丈夫だから。それよりも……また昔みたいにローブ姿が似合う人間に戻って欲しいわ」
そう、俺は今と違って昔はまだ人間の姿をしていた。機械化したのもアイオン戦で切り飛ばされた右腕のみだった。
「ね、その方が私の妹もよろこぶと思うし……どうかしら?」
そう言うと彼女は俺に向かって黒色のエネルギー波を飛ばし、その姿を元のローブを着た人間の姿に変えた。
「安心して、昔と違ってちゃんと中身は半人半機のままだから」
「フィーネ……」
「アユ、ううん……クロム。クロムが私の事を覚えてくれてるのは嬉しいわ。だけど私よりも……妹や今の世界を救ってね。それが……今の私からのお願いだから」
そう言い残すとフィーネは花吹雪に紛れる形でその場から居なくなり、俺の意識も無事に現実世界へと戻っていった。
「ム君……クロム君!」
『うっ……ん?そうか、俺は樹海で禁断の魔術を使った反動で今までずっと眠っていたのか……』
「良かった……って、あれ?クロム君、姿が……」
『あぁ……俺の精神世界の中でちょっとした出来事があってな』
「そっか……あ、もう動いてもいいの?」
『暫く寝たきりだったからな……それに、そろそろ夏季のカリキュラムも本格的に始まるだろうから、いつまでもこのままという訳にはいかんよ』
「それもそうだね」
俺はゆっくりと体を起こすと、少しだけガルムの手助けも借りながら保健室を出て教室へ向かった。
皆さんどうも、よなが月と申します!
さて、今回を以て第1章『目覚めた先で』は終了となります!それと同時に19時更新枠では無くなり、次回からは20時更新枠に引っ越しとなります!
引き続きクロムとフィリアの学園生活の様子をお楽しみください!