6時間目 戦慄の親睦会
『親睦会?』
「そ!新入生同士の親睦を深める為に催されるイベントで学園が用意した様々な種目に仲間と協力して挑戦するのが目的らしいわ!」
俺は朝からやけにテンションの高いルーダから間もなく行われるというイベント·親睦会について説明を受けていた。近くにいたフィリアやガルムも聞いていた。
『なるほどな……それは確かに楽しそうだ。だが、具体的に何をするんだろうか……』
「あ、僕知ってますよ!親睦会ではその日限定で〈学びの樹海〉に入る事が出来て、そこで7日間事前に組んだ仲間と共に過ごすっていうのが主な内容らしいです!」
それつまりは7日も野宿させられるって事か?得体の知れない化け物が彷徨いてる中で?まぁ俺は魔王だから特にこれと言って気になる事は無いが……
「すごく楽しそうですね、クロム様!あ、せっかくですしこの四人で組んで見るというのはどうでしょうか?」
フィリアは目をキラキラと輝かせながら俺やルーダの手を取って興奮気味に言った。
「わぁぉ、フィリアちゃんがいつになくノリノリだねぇ」
「あっ、いえ……無理にとは言いませんよ……班員になるかならないかは皆さん次第ですし……」
自分で言っておいて自分が赤くなってる……
「ぼ、僕はこの四人で親睦会に参加したいですよ!クロム君もいますし、何より仲間が多ければそれだけ楽しめると思うので!」
「で、クロムはどうなの?」
『俺も特に異論は無い。寧ろこの四人でやりたいという事に強く賛成するよ』
「じゃあ、決まりね!」
こうして教員からの案内よりも先に俺達は班を作ってしまい、この後の数十分間が暇になってしまった。
そして、昼放課になると俺達は四人で早速食堂で同じテーブルを囲んで昼食という事になった。
「エルフに翼人に獣人、果てには魔族かぁ……勢いで組んじゃったけどこうしてみるとすごい組み合わせになったわね」
『おまけに見事なまでに得意とする魔術やその距離、特性までもがバラけている……ここまで偶然が重なるとは思わなかったな』
「でも種族とか違ったらそれはそれで楽しめるじゃないですか!」
「はい、私も女神として色んな種族の人達と親しくなりたいと思ってましたから」
「けど、フィリアさんって僕らと同い年なのに女神で……何だか凄いなぁって思いますよ」
うん、やはりガルムは男なのか疑いたくなる……昼食にホットケーキやココアを頼む辺りがどうも気になる……
「ん、どうしたんですかクロム君?」
『いや、何でもない……少しガルムの昼食の内容が気になっていただけだ』
「へぇ、ガルムってここのホットケーキ好きなんだ!実はさ、アタシここの体験入学の時に食べたんだけどすっごく美味しいよね!」
「は、はい……少食な僕でも気軽に満足するだけ食べられそうだったのでつい……」
確かに……外観はよく見るホットケーキのそれだが1枚の分厚さがそもそも違う……この分厚さなら俺でもせいぜい4枚くらいしか食べられる気がしない!
「甘いもの好きな男子ってアタシからしたらいてくれると嬉しいなって思うの!だってほら……放課後とかに食べ歩きが出来るじゃん?」
「そうですよね……親睦会が終わった後とかにでも行きましょうよ!勿論クロム君やフィリアさんも一緒に!」
『スイーツか……確かに悪くないな』
「ほ、程々にしましょうか……」
その後も俺達はこの学園で数日過ごしてみた感想などを話し合ううちに時間が過ぎ、昼放課は終わった。
同じ頃、園長室では学園長と同じく黒いスーツに身を包んだ若い男性が何やら会話していた。
「今年もいよいよこの時期が来ましたね……学園長」
「あぁ……それに今年は異端児が2人も入ってきたからな……我々としても全力で歓迎しようと思うんだ」
「そう言うと思い、私から彼らにとっておきの入学祝いを用意してあります。後は会を始めるのみですよ……」
「そうか……相変わらず君は準備が早くて助かるよ……」
「ありがとうございます、学園長」
フフ……クロムよ、今更こちらの世界に蘇ったからといっていい気でいられるのもせいぜい今のうちさ。さぁ、私の仕掛けた罠に嵌って逝くがいい!
『遂に始まるな……』
「仲のいい人達と一緒とはいえ……まさか僕らがこれから挑むダンジョンがこんなに薄暗い所だったなんて……」
「確かに少し気味が悪いわね……でも、アタシ達の班には魔王と女神がいるもの……大丈夫よ!」
ルーダは獣耳を垂れ下げ、ブルブルと怯えながら震えるガルムを何とか励ましていた。
「あの……クロム様、少しよろしいでしょうか?」
『ん、どうしたんだフィリア?具合でも悪くしたか……?』
「いえ、何となくですが今回の親睦会……何か不吉な存在の影が見えるような気がするんです。何だかクロム様にただならぬ悪意を抱いている者の影が……」
やはり女神といえどハイエルフともなれば樹海一帯の様々な気を感じる事が出来るのか……だが、フィリアの警告通りだとすれば今回の親睦会は極めて危険なものになりそうだ。
『そうか……まぁ、俺の方でも索敵の魔術は使うつもりだからこれ以上お前が案ずる必要は無いぞ、フィリア』
「は、はい……分かりました」
新入生達のみによる未知のダンジョンの調査……と表では言われているが、実際は俺への悪意が潜んでいる為、いつ何処で命を落とすか分からない……そんな恐ろしき親睦会の幕が上がった。