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黒鉄の魔王と降りたて女神の学園生活  作者: よなが月
第4章 波乱の留学
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51時間目 心の在処

『何故だ……何故俺に剣を向けるんだ……アストラル!』


『二度も同じ事を言わせる気ですか?私は魔王を倒す為に生まれたオルドロイドのプロトタイプ……アストラル。それが理由です!』


『学園で過ごした時間は無駄とでも言いたげな様子だな!だがそうは言わせん……お前にはフィリアがいたんじゃなかったのか!』


 俺とアストラルは確かに何度か剣を交えてきた。だがそこにあったのは純粋な師弟の感情であって、こんな悲しみのぶつけ合いなどでは無かった……!


『そんな人は知らない……知る必要が無いからな。私は魔王を討ち滅ぼし、新たなる国を作る為に生きている……さぁ、分かったならその首を差し出せぇ!』


『心の無い者に渡す首が何処にあるという!』


 ぐっ……やはり魔王の姿では魔術を際限無く使える反面で体に染み付いた剣術は鈍るか……!


『私は目覚めて改めて気付いた……時代を動かすのは何時だって聖邪を極めた強き者達で、弱き者は淘汰されるか取り残されるかしか道が無い……私はそんな世界が憎かった!』


『がっ……何を言うかと思えば……なら、こちらも一つ言わせてもらおう……弱者が時代の波に取り残されるのはお前達が弱い事を免罪符に動こうとしていないからでは無いのか!』


『なっ……分かったような事を……言うなぁあっ!』


『俺が思う弱い者とは……絶大な力を私欲の為にしか使えぬ者、力があっても動かぬ者……そして何より、言い訳で逃げてばかりの者の事だ!そしてお前はまだまだ弱い!気持ちがあるなら何故動かない!?』


 柄にも無く熱くなってしまったが、こればかりは魔王の俺でも譲れぬものだ……


『動きたかったさ……行動を起こしたかったさ……だが先代の魔王共も女神共も皆揃って弱き種族には何の慈悲も無かった!だから私は世界を憎んだのだ……動けぬ体に宿る怨嗟……それに苛まれて軋む体……私達穏健な者達のそんな苦痛などお前達には到底理解出来んだろうに!』


 俺はアストラルの猛攻に対し防戦一方になった結果、立っていられるのが不思議なくらいにまで追い詰められてしまった。


『その言葉を放っている時点でお前は弱者止まりなんだと言っているんだ……』


『だが、こうして魔王を追い詰める事が出来たんだ……この技で引導を渡してやろう!』


 そう言ってアストラルが満身創痍の俺に向かって放った技は……かつて俺が彼に教えた最初の技……絶技〈|黒刃無双《シュヴァル·ズ·エンド》〉だった。


 若干剣の振りが大きく、遅かったのもあって飛んできた斬撃の数は少なかったが、今の俺に致命傷を負わすには十分だった。


(聖剣と魔剣……相反する2つの力を同時に使うなんて無茶な真似は止しなさい、アユム!)


 この声は……ミネルヴァか?という事は俺はあの攻撃をまともに受けて三度天国に飛ばされたのか?


(僕は魔王になったんだ……魔王なら少しでも強大な力を持つべきなんだ……そうじゃなきゃ、時代を良くする事なんか出来る訳無いから……いつの時代も大きな存在ばかりがそれを動かす……そんなのはもう、終わりにしたいんだ……!)


 あれは……俺だ。魔王になって間もない俺だ……そうか、元は俺も弱者だったな……世界を変えようと身を滅ぼす覚悟までして……


「君、僕でしょ?」


『あ、あぁ……だが、何故分かった?』


「仮面が割れて素顔が見えてるし、その手に持ってる黒い剣ですぐに分かったよ」


『そうか……』


「あの時、君を縛り付けてしまって……ごめん。だから……その責任を、取らせてくれないか?」


 黒い勇者の装備を纏った過去の俺は深傷を負った俺に対して白色の聖剣を差し出した。


『いいのか……世界を変える為の力を手放す事になるんだぞ?』


「ここで世界が変わらなくても、きっと君なら世界を変えられる。昨日が無理なら今日やればいい、今日がダメなら明日やればいい……でしょ?」


『そう……だな。ありがとう……魔王の誇りにかけて、世界を救ってくるよ』


 俺は聖剣を受け取ると、そのまま意識が現実へと戻ると同時にその姿が英雄と呼ばれた頃のそれに変化した。


『まだ生きてたのか……力ある者は私の手で全て斬るまで……はぁぁぁっ!』


「お前に技の数々を教えたのはこの俺だ……だからこそ、師である俺がお前の心を……取り戻す!」


 俺は大きく深呼吸した後、勢いよく地を蹴って息を止めながら2本の剣でアストラルに攻め寄った。


『な、なんだ……急に動きがっ!』


 アストラル……驚くかもしれんが少しは耐えてみせろ……これは俺が英雄になった時に編み出した……|魔王も神をも容易く殺せる剣舞・・・・・・・・・・・・・・なのだからな。


『ぐっ……処理も予測も出来ない……!速過ぎて剣の軌道すら……』


「……!」


 最後の一撃が決まった時、アストラルの握っていた双剣は彼の手から離れ、そして俺は彼の喉元に黒い剣の先を突き付けていた。


「お前を倒す前に……最後に一つ、聞いておく。お前はどうしたいんだ?」


『私は……私は……帰りたいです……暖かな日常へ……怒りや憎しみを抱かずにいられたあの日々へ……』


「そうか……」


『がっ……あぁっ……私はもう、結論が出ていたんです。今の世界は……昔のように一部の者だけが有権者では無い事を。皆が世界を動かしているという事を……だから私は……私はぁっ!同胞であっても、私の愛する日常を脅かす者を……この手で斬ります!』


 アストラルはそれまで耐えれずに倒れていたであろう苦痛に打ち勝ち、優しい心と緑色の瞳を取り戻したのだった。

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