50時間目 国を賭けた争いの始まり
『クックック……短期間ながらここまでの兵を揃える事が出来ました。貴方の協力には感謝しかありませんね……』
アリシアの王城……その地下にある研究室では王家の服に身を包んだヴェルーデが王家の科学者ゲゲルと共に怪しげな機械を埋め込んだ人間達の姿を見ながら談笑していた。
「休校の中、急に呼び出して悪かったな……実は君達を呼んだのは手紙にあった学園長では無いんだ」
俺、アヴィス、ガルムの3人は今、手紙に書かれていた通りに生徒会室へ来ていた。
「で、生徒会長がこんな時にわざわざオレらをご指名でお呼びとはどういう事だ?」
「聞けば君達はこの学園で特に強い力を持つそうじゃないか。そこで君達に見てもらいたいものがある」
自分を生徒会長だという年上の青年は青色の魔力を込めた水晶を取り出すと、ここ数日の学園の様子を映し出した。
「これって……機械兵……ですよね?」
「あぁ……これはあくまで私の予測だが、奴の侵入後に魔石の記録が消えているという事は恐らく奴が消したんだろう。更にこの後何らかの形で学園の生徒達が行方不明となっているようだ」
「なる程な……て事は機械兵は皆揃ってうちの生徒で国潰しに出るつもりか」
「なんて事を……今すぐにでも止めないと!」
かくして俺達は生徒会室を後にして街へと向かう事になった。
「私はドルス、申し遅れて済まなかったな。この辺では少しばかり有名な騎士公爵の生まれで、休みの日にはこうして街を歩いては怪しげな輩がいたら追うなどしていたのさ」
「そうですか……早速ですがドルス先輩、前方に3体程機械兵の反応を確認しました!戦闘態勢を取りましょう!」
「よく分かったな……よし、私とアユムで先行して数を減らす!2人は近隣住民に避難を出せ!」
「おうよ!おらおら、お前ら……ここら辺は危ねぇから早く建物の中に入りな!」
「焦らず落ち着いて下さい……!」
アヴィスやガルムの避難を促す声を聞いた周りの住民達が多少動揺しながらもそれぞれ安全確保に走る中、俺と先輩はそのまま機械兵の気配のする町の広場へ急いだ。
「やぁっ!」
「せやぁっ!」
俺達は相手がこちらに気付くよりも早く斬りつけ、数十体いた兵士の数を一気に半数まで減らした。
『危険度Aを確認、ジェノサイド起動。排除開始』
機械兵の中でも特に目の赤い個体がそんな不穏な電子音と共にこちらへ向かってきた。
「ぐっ……仲間の仇討ちのつもりだろうが……力が強過ぎ……うっ!」
俺はその機械兵の一撃を相殺しようとしたが、あまりにも瞬間的な動きと生身の体で相手をした事が仇となって壁に叩きつけられる位に激しく吹き飛ばされてしまった。
「アユム、大丈夫か!?」
「な、何とか……」
やはり人間の姿では奴らとまともに渡り合えないか……!
「君はここら辺の警戒を頼む。私はまだ動けるからもう少し奥の地域まで足を運ぶよ」
「分かりました……敵はかなり強い個体もいます。くれぐれも気を付けて……」
フッ……だが、何とか俺1人になれたな。このままやられっぱなしになるのは俺のプライドが許さない……
俺は先輩が奥へ走り去っていったのを確認すると制服のブレザーの内ポケットから黒い仮面を取り出すとそれを顔に付けてその姿を〈黒鉄〉のそれに変化させた。
『これでようやく全力が出せるな。さて……雑魚が束になっても無駄な事をどうして分からないんだ?』
『同族ながら我らに楯突くとはどういうおつもりですか?』
姿を変えた俺の目の前に何の前触れも無く現れたのはかつて学園で俺を奇襲したヴェルーデだった。
『お前は……確か、ヴェルーデとか言ったな。同胞の仇討ならやめた方が身の為だぞ?』
『そうですか……本来ならば貴方の忠告通り退きたい所ですが、私としてはそういう訳にもいかないので……やらせてもらいますよ!』
『〈黒渦棘壁……!』
俺は自分の周囲に魔力で生成した無数の棘を渦巻かせ、詠唱通りに壁を生成してヴェルーデの最初の一撃を完全に防いだ。
『剣は使わないのですか?』
『お前のような雑魚に使うまでも無い!〈黒雷槍嵐〉!』
距離を取ったヴェルーデに対して近付かせないように無数の黒雷を落として足止めした。
『実に恐ろしい限りですね……魔王という存在は。何故かつての同胞はこのような存在を無視したのでしょう?』
『知らんな……悪いが、お前とこれ以上話す事は無い故、失せろ』
わざわざ詠唱するのも面倒くさくなったのか、俺は魔法陣だけ展開すると周囲に小さくも確かなダメージを与えられるだけの爆発を起こした。
『フフ……魔王は本当に恐ろしい。戦闘用に調整された私がこうも足止めされてしまうとは』
先程から何なんだこの男は……まるで手応えが無い……!
『さっきから随分と余裕そうな口振りだな。一体何をそんなに隠しているんだ?』
『隠し事なんて何もしていないじゃないですか……魔王の御膳でそんな真似は出来ませんよ』
『そうか……!?』
何だ……急に背中が……!
『私はこれでも負けず嫌いな性分なんですよ。なので少しだけ策を施させてもらいましたよ。さぁ、後ろを向いて残酷な現実を目の当たりにしなさい』
俺はヴェルーデに言われるまま後ろを振り返ってみると、そこにいたのは……ダメージローブに身を包んだ……アストラルだった。
しかしその目は虚ろながらも赤く変化しており、雰囲気もかつて学園で共に過ごしていた時には感じられなかった冷徹なものへ変わっていた。