49時間目 海王の決意
昔……つってもオレがまだアリシア近海で海賊として名を馳せていた頃に国を挙げての1大戦争が起きたのは、お前らも知ってるよな?
今思えばあの戦争が無きゃオレは魔王にはなって無かったのかもしれない……何せ誰もが今の元号に変わって最初に起きた最大最悪の戦争とまで言わしめるレベルのヤバさだったんだ。
オレは当時いつもみたいに漁師を茶化してたんだが、街の方で爆発が起きたのを目にして慌てて港へ引き返したんだ。
オレが戻ってきた時にはオレの可愛い下っ端たちが背中や胸に変なモンを埋め込まれた人間達に無惨に殺されていたんだ……
再びこの地に目覚めて数ヶ月経った今……そんな争いが起ころうとしていた。
「シャンク、ドード、ザブン……中々墓参り出来なくて悪かったな……オレもオレで忙しかったんだ。けど、学生になったお陰でこうしてお前らに顔を見せてやれたんだ……これで勘弁してくれよ」
オレは今朝から魔王になる前に亡くしちまった仲間の命日だったから墓参りに来ていた。オルカは勿論来てくれたが、それ以上にフィリアちゃんが来たのは意外だった。
「アヴィスさん……とってもいい船長だったんですね」
「んぁ?何でそんな事が分かんだよ」
「聞こえてきたんです……キャプテンは何時だってオレらのキャプテンだって。回数なんて関係ない……来てくれるだけでいいって」
「ハハッ、そうか……ならオレも少しは気が楽になるぜ。フィリアちゃん、朝から付き合ってくれてサンキューだぜ」
そう言うとオレは墓に花を置くとそっと手を合わせて供養した。
「ところで、どうしてアヴィスさんは魔王の道に進んだんですか?海賊でいる事も出来たって魚さん達は言ってましたけど」
「確かにオレはアユムと違って絶望がトリガーになった訳じゃないからなぁ……だからってその場のノリでなった訳でもない……ただオレは……世界を変えたかったんだよ」
『非機械族を確認、排除開始』
『排除開始』
墓参りを終えて墓所から戻ろうとしたオレ達の目の前に現れたのは何処かで見た事のある機械の兵士だった。
「いいかフィリアちゃん、オレから絶対離れんじゃねぇぞ!」
「5体もいるんですよ!?無理に戦わない方がいいんじゃ?」
「ダメだ!」
「ひゃっ……ご、ごめんなさい」
何でこんな時に……クソッタレが!
『排除!』
「うるせぇぞこの野郎!何で今になってその面下げて出てきやがったんだよ!お前らのせいで……!」
オレはそれまで抑えていられた筈の憎悪の感情が一気に込み上げてきたのか、周囲の機械兵を手当たり次第に攻撃した。
「あのっ、どうしたんですか……アヴィスさん」
「何でもねぇ……何でもねぇから気にすんな」
『排……除……』
「黙れぇァァァ!」
感極まったオレは後ろにフィリアを庇っていた事を完全に忘れて魔力を込めた弾を撃ったが為に余波で彼女をも巻き込んでしまった。
「あっ……わ、悪い……巻き込むつもりは無かったんだ。ただちょっと頭に血が上っちまって……」
「大丈夫……です。でも、何で急にこんな事を……」
「オレはその昔コイツらに酷い目に遭わされたんだ……飛び切り酷い仕打ちを受けたんだよ。だからかな……柄にも無く怒り散らしちまったよ」
「あのっ……もし良かったら、この後私に教えてくれませんか……機械兵とアヴィスさんの過去の因縁を」
フィリアはそう言って真っ直ぐオレを見つめてきた。流石にここまでされたらオレも言わなきゃダメだよな……
「分かった……この際全部話すよ。オレが魔王になるきっかけってやつを」
その後オレはフィリアを自分の部屋に招き入れると、紅茶を一口飲んでから口を開いて話を始めた。
「その昔オレは海賊だったんだ……て言ってもガチの海賊じゃなくて、不法に漁獲をする奴らに対して海賊行為を働いてたってだけなんだけどな。そこそこ名が上がるようになった矢先に事件が起きたんだ」
「事件……ですか?」
「そ、事件だ……さっきオレが蹴散らした機械兵が人間達に変なモンを埋め込んで操ってはあちこちで爆破事件を起こしたんだ。オレは当然それを見て見ぬフリなんて出来っこなくてさ……奴らを追っかける中でオレの仲間はどんどんやられて……気付けばもうオレしかいなかったんだ……」
「つまりアヴィスさんは仲間を殺された事への後悔が魔王になるきっかけだったと?」
「あぁ……失って初めて気付いたんだよ。オレは仲間が何よりも大切で、守る為なら何だってやってやるって覚悟を決めてたんだ……だからあん時アイツの後を追ったんだ」
アイツが……アユムがクロムとして世界を滅ぼすべきか見極めるって言った時、アイツのその考えに共感したからこそ……オレもオレの意思で人である事を捨てたんだ。
「アイツ……まさか、アユム様の事ですか?」
「かつてこの地にある虹の神殿に向かった時、そこでアイツと約束を交わしたんだよ……2人で世界を影から見て、滅ぼすべき悪は滅ぼすってな。今で言うなら機械兵共の事だ」
「ふふっ、アユム様に負けず劣らず正義感が強いんですね、アヴィスさんも」
「なっ、せっ、正義感なんてオレにはねぇよ!ただオレは自分の国が余所者に荒らされるのが嫌なだけだ!っておい、笑うな!」
フィリアはオレがアユムと似ていると呟くと同時にオレがそれを否定すると口元を抑えてクスクスと笑い始めた。
「ごめんなさい、だってアユム様と凄く似ていたので……つい笑ってしまいました」
「とにかくオレはオレのやり方でアイツらをぶちのめす!そんでもってもっかい魔王としての力を取り戻した暁には綺麗な海に根城を建ててやる!」
オレはフィリアがみている目の前で意気揚々と自分の夢を語った後、グッと拳を握ったのだった。