46時間目 残る疑問
その日の夜、俺は寮の自室にて手記に記された記憶を見た時の事を振り返っていた。
『お前……次元を超えてきたとはどういう事だ?この世界とは違う時間軸にここと同じような世界が存在しているとはどういう事だ!』
手記の中盤辺りに記されていた〈異界からの訪問者〉……ニュクスと呼ばれた青年と会話していた女性は……俺の母とよく似ていた。
この世界と俺が元いた世界は……大なり小なり繋がっていたというのか!?
「あ、アユム様!おはよう御座います……って、どうしたんですかその目の隈は!」
あんな物を見せられて熟睡など出来る筈も無く、俺は結局深く考え込むうちに夜明けを迎えてしまったのだ。
「アユムだけじゃなくてガルムも凄く眠そうね……一体何をどうしたらそんな事になる訳?」
「た、ただの夜ふかしだ……気にするな」
フィリアに地下の書庫に行ったなどとバレればこれよりも怒られる事間違い無しだ!
「魔王とはいえ学生なんですから……体調管理はしっかりして下さいね?」
至極ご尤もな限りだ……
結局俺達地下の書庫に向かった3人は揃って午前中の授業は強烈な睡魔との戦いになり、どうにか昼放課の鐘の音まで持ち堪えなければならなかった。
「この様子じゃオレらは昨日まともに寝れなかった感じだな」
「あぁ……とても毒な物を目にしたからな。だが、あれを見た事で俺達はまた世界の謎に触れる事が出来たんだ……収穫ならばそれで十分だ」
「あのニュクスさんと言われてた人が大陸を率いる者の為に聖剣と魔剣を用意した……でもあの手記の横にあった文献には〈始まりの王の眠る地、何人たりとも足を運んではならない禁忌の地と化した〉ってありましたよね?あれってそのままの意味なんでしょうか?」
「そもそも今の世界地図にはあの場所は王の墓場としか書かれてねぇな」
「謎が謎に隠されてる……か。だが、もしかしたら4つの大陸それぞれに存在する聖剣と魔剣が揃った時に禁じられた扉が開くかもしれない」
俺達はそれまでの眠気は何処へやらと言わんばかりに昼下がりの屋上庭園で昼食を取りながら昨日の事について考察していた。
「逆に彼の眠る地に8本の剣が集えば……」
「禁忌の地への扉が開かれるかもしれねぇ……って事か」
「禁忌の地……その先には一体何が広がってるんだろう……」
その8本の剣の中にもしかしたら俺の剣が含まれているとしたら……フィリアが危ない!
「アユムくん……やっぱりフィリアちゃんの事が心配なんだね?」
「俺達3人は現に魔王だ……そしてそれぞれ剣を持っている。もしその中に始まりの8本の剣が含まれているのなら、いつどんな戦いに巻き込まれてもおかしくはない!」
「言えてるな……魔王が生まれた意味もやっと分かってきたんだ……戦いには応じるけど、オレらはあくまでも一介の学生としてなるべく周囲を巻き込まねぇようにしないとな」
アヴィスも珍しく過度に熱くならず冷静に決意を固めていた。
「でも、いざ争いとなった時……果たしてサウシアの時みたいになるかもしれない……」
かつて俺達がサウシアにて〈神聖騎士団〉と対峙した際には健闘虚しく大陸しか救えなかった……ガルムが少しばかり怯えるのも無理はない。
「とにかく今はどんな野郎が来ても返り討ちにする……それだけ頭に叩き込めばいいんだよ!」
「そうだな……ひとまずこれは俺達の間だけで留めつつ、策を練るとしよう」
俺達は腰に提げていた剣を重ね合わせて誓い合うと教室へ戻った。
「成程な……やはりこの地こそが魔王の集う地だったか」
「現にボクらの学園には3人も魔王がいるみたいだね」
「加えて機械族の者までいる……それに女神もいる……〈神聖騎士団〉のいない今、私達の手でこの大陸から新たなる革命を起こしましょう」
「魔王と剣を交える事になるぞ?それについてはどうなんだい?」
「策はありますよ……ただ、今はまだ実行すべきではありません。さぁ、私達も戻りますよ」
学園の図書室にいた3人のとある生徒も怪しげな会話を交わした後に各自教室へと戻った。
「あ、アユム様……眠気は取れましたか?」
「お陰様でな……それより、その髪飾りは?」
「これは……」
「私が着けてあげたのよ」
教室に戻った俺達を待っていたのは俺達と同じ学園の制服姿の……レヴィリアだった。
「げっ、何でお前がいるんだよ……」
「あら、ダメだったかしら?私も少し前からこの学園の生徒として在籍してたんだけど……先生に頼んで今日の昼からこのクラスに移動してきたのよ」
一体ここの学園は誰が一番強い権力を持っているのか気になってしまうな……
「んな横暴な事しやがって……どうせその谷間で釣ったんだろ?」
アヴィスは確か魔王になる前から何故かこの地に言い伝えられている女神達に必要以上の敵を向けていたっけ……魔王になってそれが加速してしまったか。
「貴方の方こそ、魔王で海賊なのによくこの学園に入れたわね」
「んだとぉ……もっかい言ってみろ!言ったが最後ぶっ飛ばして……」
「分かったから熱くなるな、アヴィス」
俺はこれ以上アヴィスが怒りで何かをやらかす前にと展開され始めた魔法陣を本人に気付かれないようにそっと消しながら席に座ったのだった。