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黒鉄の魔王と降りたて女神の学園生活  作者: よなが月
第1章 目覚めた先で
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5時間目 真の男の定義とは魔王でも分からないもの

『真の男になりたい?』


 学園生活2日目にしていきなり俺にそんな悩みを明かしたのは同じクラスの狼系獣人族の少女……のような顔をした少年だった。


「僕、生まれつき女の子みたいな顔だから周囲からはあまり男の子として見てもらえなくって……クロム君は確か魔王だったよね?何かいい方法とか無いかなぁって」


『確かにそれは少し悩む所だな……だが、俺もこの通り見た目も体つきも男のそれだからな……いざそう質問されると回答に困るな』


「うーん……あ、そうだ!クロム君の好きな食べ物って何?」


『好物か……ブラックコーヒーとチョコレートだが、それがどうかしたのか?』


「男の人らしい食べ物を食べれば僕も少しは変わるかなって……」


 ここまで深く悩んでいるという事は、かなり長い期間に渡って言われ続けてきたんだな。


『なら、俺から1つ提案をしよう。』


「提案……?」


 午前3時間の授業後、俺と彼は魔法練習場に来ていた。


『お前の言う通り、男は基本的に体ががっしりしてるだろうし好む食べ物も女性とは異なる。だが、男なら誰しもが憧れるであろう要素を今から俺が鍛えてやる』


「え、それって……」


『障壁は張れるな?』


「う、うん……」


『なら行くぞ』


 俺は右手に赤色の魔法陣を展開し、そこから割と大きめの炎の玉を彼に飛ばした。


「え、障壁を張れって……まさか、これを受け止めろって事!?」


『そうだ、早くしないと黒焦げになるぞ?』


「わ、分かった!」


 俺が加減してやっているのもあるが、彼が咄嗟に展開した障壁の厚さも手伝って、炎の玉はシュウウという音を立てて消えた。


「ふ、防げた……」


『これはまだまだ肩慣らしの域だ』


「えぇっ!?」


 俺はホッと一息付いていた彼に向かって今度は紫の魔法陣から電撃を放った。


「はっ、速いっ……」


 今度は物と物とが激しく衝突したような音と共に電撃が消滅した。


「あの……さっきから何で僕に向かって魔法を放ってるの?」


『男らしさを磨きたいんだろ?なら、俺の攻撃なんて全て相殺してみせろ』


「ちょ、ちょっと待って!同じ学生とはいえクロム君は魔王じゃないか!魔術の練度なんて僕らと比べたらずっと上じゃないか!」


『だから最初のうちは加減する。肩書1つで周りの見る目はガラッと変わる。お前には〈魔王の扱う魔術を全て相殺した〉という肩書を与えてやろうと思うんだ』


 新学期早々にあの馬鹿が騒ぎを起こしてくれたおかげで俺は同級生達の間じゃかなりの有名人だ。そんな俺と同等に渡り合ったという確かな事実があれば自ずと男らしさとやらも見えてくるだろう。


「クロム君……ありがとう!おかげで少しだけやれるような気がしてきたよ!」


『ならいい……そういえばまだ名前を聞いてなかったな』


「そういえばそうだね。僕はガルム、知ってると思うけど狼系の獣人族だよ!」


 やはりか……数ある獣人族の中でも狼系は魔術の扱いに長けているという特徴があるからな。条件さえ整ってしまえばすぐに俺と肩を並べるまでには強くなるだろうな。


『ではガルムよ……少しだけ敷居を高くするぞ、いいな?』


「う、うん……怪我しないように頼むね?」


『善処しよう……はぁっ!』


 今度は右手には青の魔法陣を経由して水の魔法を、左手には緑の魔法陣の経由で風の魔法を具現させ、放った。


 対するガルムも多少後ろに押されながらではあったがしっかりと障壁を展開して俺の魔術を見事に相殺してみせた。


「手がヒリヒリするよ……」


『それだけお前が必死になった証拠だ。そもそも俺の術の発動速度から考えると今のはどちらかが直撃していた……これに関しては純粋に胸を張るべきだ』


「そっか……さ、次お願い!」


『分かった……だが次のは単なる相殺が効かないから注意しろ!』


「わ、分かったよ……」


 俺はガルムにバレないように黒色の魔法陣を展開しつつ先程よりも大きな炎を彼に向けて放った。


 爆破魔術は相殺が難しく、体制を崩すのにはうってつけの魔法だがどういう訳かこの学園の教本には詳しい術式の記述が無かった。


「ぐっ……ううっ……うわぁっ!」


 バリンと豪快な音を響かせてガルムの展開した障壁が破壊され、それに合わせて俺の放った爆破魔術も相殺されたがその際に生じたエネルギーの余波で俺達は互いに大きく吹き飛ばされた。


『す、すまん……これでも出力はだいぶ調整したんだが……どうやら使った魔術が特殊過ぎたな』


「気にしないで……クロム君は僕に凄い肩書をあげようとしてるんでしょ?なら、謝らないでよ」


『そうか……なら、次ので最後にしよう。最後につきコイツにも付き合ってもらうよ』


 そう言って俺が固有の魔法陣から取り出したのは前に馬鹿に己の実力を見せつける為に使用した魔道具だった。


「それって……クロム君の魔道具?」


『あぁ……俺が今からお前の展開する障壁を破壊していく。お前にはこの砂時計の砂が完全に落ちるまでの間、どれだけ守る為の手段を維持し続けられるかを見てやろう』


「分かった……やってみるよ!」


『俺はこれに関しては大人げないかもしれんが、文句は無しだぞ?』


「うん!」


 俺は休む間もなく引き金を引いてひたすらガルムが展開する障壁を破壊していった。やはり彼の魔術の発動速度はこの段階で既に俺とほぼ互角だからかただ砂時計の砂が落ち続けるだけの絵面が続いた。


「な、何て速さだ……少しでも気を抜いたら撃たれちゃいそうだ……」


 口ではああ言ってるが彼の実力は間違いなく本物だ……俺の術式破壊に追い付いてくるとは……


 暫くして砂時計の砂が完全に落ちきって鈴のような音を鳴らしたので俺は銃剣を下ろした。


『お、お前……結構やるじゃないか。久々に息が上がったよ……』


「じゃ、じゃあ僕は……」


『あぁ……約束通り〈魔王の扱う摩術を全て相殺した〉という肩書をやろう』


「や……やったぁぁあ!」


 ガルムは嬉しさのあまり両足を揃えて子供のように跳ね回っていた。

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