45時間目 古が語る、禁じられた過去
死神との一悶着の後、俺達は何とか最奥にある書庫へ辿り着いたのだが……その先で俺達を待っていたのはたった一冊の分厚い本のみだった。
「おいおいちょっと待てよ……こんな頑張って来た果ての褒美がこれだけとはどうなってんだよ?」
「けど……こんなに分厚い本なんて初めて見たよ……ん?これ、本じゃないですよ!」
「なっ……本じゃないなら何だって……手記?一体誰が何の為に……」
俺が恐る恐る表紙を捲った次の瞬間、俺達はそこから発せられた紫の波動に飲み込まれて何処かへ連れ去られてしまった。
俺達が次に目を開けると、その先では俺とよく似た外見の男や彼を含む男女5人が広大な海に浮かぶ巨大な大陸の上で喜びを分かち合っているような光景が広がっていた。
「これが新大陸……俺達がこの地に降り立った最初の存在になるのだな」
「えぇ……ですが、とても広くて少し驚いてしまいますね」
「あぁ……天みたいに国とか街を作っても、民がそれを受け入れるには時間がかかりそうだな、ハハッ!」
「もっと自然を増やしましょう……一角にしか緑が無いのは寂しい限りですから」
「そしたら動物達も……もしかしたら神獣達だって来るかもしれない!そうなればこの地で育まれる命はより成長出来る!」
これは……始まりの記憶?この地は元々1つの広大な大陸だったのか……
「私は一度天に戻ります。私は女神としてこの大陸の末永い繁栄を祈る事にします」
「では私もそうさせてもらいます……大陸を見つけたのは私達ですが、この大陸は私達の子孫に任せるとしましょう」
「俺はここに残るぜ……力が無きゃ纏まれる物も纏まりやしねぇ……だろ?」
「あぁ……何も5人全員が天に帰る必要など無い……ニュクス、お前はどうする?」
「俺も地に残ろう……何も無い大陸を誰が動かすというのだ?」
俺とよく似た外見の少年は中々魔王らしからぬ見た目ながら口調にはその片鱗が現れていた。
「それもそうだな……よし、俺達で改めて新世界を作るぞ!」
屈強な体付きの男のこの言葉を最後に俺達はそのままページが捲られるように違う風景へと飛ばされた。
「だいぶ国が大きくなってきたな」
「あぁ……それはいいが、お前が今も叩き続けているそれはなんだ?」
屈強な体の青年が俺によく似た見た目の青年に声を掛けると彼は少しだけ微笑みながら
「これは始まりの剣だ……俺のみが扱える絶対の力で、俺以外の者は持つ事すら許されない力の結晶だ」
と答えた。
「成程……お前は万物に力を込めて世界の安泰を維持しようって考えてるんだな?」
「その通りだ。力とはどんな物にでも自ずと宿るものだ……ならば、頂点を予め決めてそれを凌駕させない条件を付ければ、安々と戦い合う事は無いだろう」
ニュクスと呼ばれている俺似の青年は鍛え上げたばかりの剣に何やら術のような物を施してそこから新たに8本の剣を生み出した。
「おおっ、剣が増えたぞ!?何でこんな変わった事するんだよ、ニュクス?」
「これは大陸がこの先起こり得る天災で隔てられた際に長として立つ者に与える聖剣と魔剣だ……各大陸を動かすクリスタルに呼応して真の権能を発揮出来るようにしている」
「未来を見据える事もまた、俺達がしなきゃならない事だな……」
ニュクス達の会話に一区切りが付くとまたページが捲られ、今度はあちこちで戦乱が起きている様子の中へと放り出された。
「オルヴェロン、何故俺の生み出した魔剣に手を出した!あれはお前の使う魔剣では無い!」
『黙りなさいニュクス!お前の方こそ剣聖などと祭り上げられて人間達の英雄にでもなったおつもりですか?』
醜い化け物同然に変化したオルヴェロンと王国の黒い装備に身を包んだニュクスは互いに攻撃しあっていた。
「化け物になってまでお前は何を望んでいる!」
『私が望むのは混沌の世界……光も闇も等しく荒れ狂う世界!お前が用意した聖剣と魔剣の力でそれを成す!それこそが私の望んだ世界だ!』
「そうか……ならば尚の事お前は生かしてはおけん!俺の手で葬ってやる……かつて共に世界を見た仲間として出来る最善の行為としてな!」
ニュクスはそう言うとオルヴェロンを一閃し、地に転がした。
「許せ……ソルシア……ぐおおおおおおおあぁっ!」
ニュクスは間髪入れずにオルヴェロンを斬った剣を地面に突き立て、そこから四方八方に紫色の衝撃波を飛ばした。
そしてそれに合わせて三度俺達の景色は変わり、遂に戦乱の後のような暗い状態になった。
「ニュクス……貴方、一体何をしたんですか?」
「済まない……だが、争いを終わらせるにはこれしか無いと思い、咄嗟に行動を起こしたが……ぐっ!」
「ニュクス……貴方、まさか自分の命と引き換えに……術を使ったというのですか?」
「あぁ……俺の命はあくまでも繁栄していく世界を見守り続けていくだけに留めたかったんだ。こうして俺が力を生み出してしまった事で争いが起きた今……俺も責任の1つや2つは取らねばならん……これで世界に壁が張られ、そしてそれは如何なる力でも破れず見えぬ物と化した……後は頼む」
ニュクスは彼の身を案じてやって来たソルシアにそう告げるとそのまま自身の影の中へ沈んでいくように姿を消した。
そして俺達も気が付くと現実世界へと戻って来ていた。
「あのニュクスって奴が俺らの遠い祖先なのかもしれねぇな……にしても凄ぇモン見ちまったな……」
「この本は持っていかない方がいいね……遺品荒らしみたいになっちゃうから」
「俺達はこの目でこの世界の始まりを断片的に見たんだ……本を持ち出さずとももう分かっただろ」
俺達はそのまま手に取っていた手記を元あった場所に戻すと書庫……もとい大図書館を後にした。