42時間目 結局悪友は悪友
「おっし、罠にかかりやがったぞ!」
「油断するなよ、アヴィス……敵はまだ完全に動きを止めたわけじゃない!」
これは……夢か?いや、かつて俺がアリシアで体験した……クラーケン討伐の再現か?
「だぁいじょうぶだって!オレら2人なら怖いもんなし、だろ?」
「アヴィス、奴から離れろ!」
罠にかかって身動きが取れなくなったクラーケンから物凄い勢いでイカ墨が飛んできたのを最後に俺は目が覚めた。
「アユムくん、随分と長い夢を見てたね。もう授業開始10分前だよ?」
「へ?」
自分でも情けなさ過ぎる間抜けな声を上げながら壁掛け時計に目をやると、7時50分を指していた。
我ながら大失態もいい所じゃないか……
「うおおおおおおおおおあああっ!」
俺は慌てて青色のブレザーを着たり、歯を磨いたりして身支度を即刻済ませると寮の部屋の窓から飛び降りて真っ直ぐ校舎を目指した。
「あんなに慌てふためくアユムくん初めて見たよ……」
鬼のような形相で寮を出ていった彼を見たガルムはきょとんとしながらも校舎へ向かった。
「はぁ、はぁ……ま、間に合った……初日から赤っ恥は回避したぞ……」
「ガッハハハハ!アユム、何でお前朝からそんな汗だくなんだよ!あはっ、あはははは!」
俺はいつもそうだ……良かれと思って取った行動がかえって裏目に出てしまう。で、今回は一番笑われたくない相手が全力で爆笑しているんだが。
「あ、アヴィス様……アユム様にはアユム様なりの事情があるんですから、程々にして下さいね?」
「だ、だって……転移魔術使えばすぐに済む事をわざわざ自分の足で走ってんだぞ?こりゃもう笑うしかねぇって、だははは!」
コイツ……本当に腹立たしい時は腹立たしいったらありゃしない!今は耐えて昼放課にでも一発かましてやるか。
アリシアの授業内容はバルビアの頃と大差はなく、どちらかと言うと基本よりかは応用に着眼したものが殆どだった。
個人的に楽しかったのは2限目に行った雷属性の魔術の術式改変による効果の変化だな。既に知っている事ではあったが、改めて勉強してみるとやはり感じ方が変わってくるものだな。
「やけに熱心になってたな、アユム」
「今は学生とはいえ、魔王としてこの世界でゆったりと過ごすのも悪くないなと思っただけだ。かく言うお前も文句1つ言わずに受けてたじゃないか」
「うちの学園長は馬鹿みたいに怖い上に強いからなぁ……ぶっちゃけ今のオレらがマトモにメンチ切って相手出来るような人じゃねぇ。んな事より、大事な話があんだ」
「何だ?また何か良からぬ動きでもあったのか?」
「チッ……んで分かんだよ。まぁいい、この国でまたしても不穏な動きを2つ感じた。1つは果ての洞窟から、もう1つは深海だ」
「果ての洞窟はともかく、深海からとはどういう事だ!?」
「かつてオレら2人が世界相手に喧嘩売った時に戦った女神のお目覚めが近いそうだ」
アリシアの辺りで戦った女神……まさか、〈聖海〉のレイヴィアが生きていたのか!?彼女は俺とアヴィスが確かに倒し、未来永劫の封印を施したはずだ!そんな存在が……何故?
「果ての洞窟は確か、機械皇国が作られて大勢の民が奴隷として働かされた後、真っ先に俺達が滅ぼした国……その跡地だな」
「あの自爆野郎共がウジャウジャいる国なんてさっさと滅ぼして正解だったな。ま、そこに安置されていた未覚醒のオルドロイドが目を覚ましたってオルカから情報が入ったんだ」
どうしてこうも俺の行く先々では面倒事が頻発するんだ!って、俺は所詮姿が変わろうが魔王は魔王、ノートラブルでスローライフとはいかないか。
「済まない、オルドロイドとは何なんだ?初めて聞く単語だが」
「かつて皇国が用意した人工知能ってのを積んだロボット共の総称らしい。特に大戦末期に一定数が量産され、その後各地で猛威を振るったとの事だ」
とてもこのファンタジックな世界には異質でしかない存在だが、その分対策が練りやすい相手という訳ではない……大戦末期に億人単位の死者が出たのも頷けはするが、今この時代に奴らの国はないから、大して心配はしなくてもいいのかもな。
「ひとまず言えるのはアリシアに隠された恐ろしい奴らがこのタイミングを知ってたかのように目覚めてきてるって事、それに伴ってオレらはまた肩を並べて戦わなきゃならねぇって事だな」
「あぁ……だが、レイヴィアに関しては話をすれば分かってもらえるかもしれない。上手くいけば協力してくれるかも」
「冗談はよせって。オレらみたいな悪党に清らかな女神様が協力する訳……あ、お前の身近にそう言えば女神がいたな。確か、フィリア……だっけ?」
「あぁ、俺は前例体験もなくそんな事を言ったりはしない。フィリアという確かな証拠があるからこそ、こうして妙案を出せるんだ」
「へへっ、それもそうだな。さぁて……そろそろ昼放課も終わるし、オレらも戻る……かっ!?」
突如アヴィスの背中を青白い何かが突き刺し、彼はそのまま大量の吐血と共に倒れてしまった。
「アヴィス……ぐっ!」
咄嗟に展開した障壁が悲鳴を上げている……という事は相手はかなりの手練か!
『ほう、この距離で私の一撃を受け止めたか』
何も無かった眼前が突然捻じ曲がったかと思った次の瞬間に俺の目の前に姿を現したのは明らかに機械兵のような外見を持つ存在だった。
「お前、見かけぬ顔をしているが……一体何処の差金だ?」
『答えて何になる?』
「さっさと白状しろ!」
『私は……!』
障壁が破られた衝撃のせいなのか、俺を襲ってきた機械兵はいきなり吹き飛ばされるなり機能を停止した。