41時間目 波を超えて始まる留学
夏季休暇も終わり、まだまだ残暑が残る中、俺達は連絡船に乗ってアリシアを目指して北上していた。
「潮風気持ちいいー!ほら、3人ともー早くしないと着いちゃうよ?」
「うっ……何だか気持ち悪いです……」
ガルムは船のテラスに出るなり物凄く顔色を悪くしてしゃがみ込んでしまっていた。
「えぇっ、ガルムってまさか……船酔いしやすいタイプだったの!?てか、アユムもアユムで何かテンション低くない!?」
結局不安を拭い切れずに一月半を過ごしてしまったが為にこうして俺までいまいち気乗りしないんだよなぁ……
「海ってこんなにも広いんですね……エルフの森にいた頃には考えた事なんて無かったので……」
「そっか、確かフィリアちゃんは森出身だから見れてもせいぜい川とか湖だけだもんね。あ、見えてきたね……アタシ達の留学先が」
ルーダの指指した先には確かに港町が見えた。そしてそれに合わせて俺の心拍数は跳ね上がり、冷や汗が吹き出しているのが自分でも気持ち悪いくらいに感じた。
「遂にここまで来てしまったか……」
「まぁまぁアユム様、まだ起きてもない事をあれこれ心配するのは体に毒ですよ?」
「分かってはいるんだ……だが、どうしても奴が脳内をチラついてしまうんだ……!」
渡された地図を元に学園へと向かっている途中、俺はオルカと偶然出くわした。
「これは……先生じゃないですか!もしかしてその制服、アヴィス様の?」
やはりアイツもこっちでは一学生だったか……
「あ、あぁ……訳あってしばらくこの地に滞在する事になってな……」
「船旅でお疲れでしょうし、ひとまず私が学園まで一気に案内させてもらいます!」
本当にオルカは俺の事が好きなんだな……時が経っても敬愛してくれる者がいると、何だか嬉しくてたまらないな。
「あっ、あの……オルカさんはアユム様とはどういったご関係で?」
「私は以前から剣の指導を受けていまして、それ以来クロ……いえ、アユム様の事は敬意を込めて先生と呼ばせてもらっています」
「へぇ……アユムっててっきり魔術オンリーかと思ったけど、剣術も優れてるのね」
「ま、まぁな……」
しばらく歩き続けていると、青色の校門が目を引く建物の前に着いた。
「ここがアリシア魔術学園です!事前に渡されたパンフレットにもあったと思いますが、毎年夏と冬に魔剣祭を開催するんです。良かったら先生やガルム、そしてお嬢様方もご参加下さいね。では、私はこれで失礼します」
オルカは案内を済ませるとそのまま校舎の奥の方へ歩いていった。
「前にも確かガルムが教えてくれたな……魔剣祭、今のところ不穏な空気しかないのは気のせいか?」
「確かに……バルビアの親睦会っていう一番直近の前例がありますからね……一波乱あると見てもいいでしょうね」
俺とガルムは互いに顔を見合って苦笑いすると、再び4人で学園長の待つ園長室へ向かった。
「お待ちしておりましたよ、皆さん。私が学園長のクイッドと申します。皆さんはここで半年間留学生として様々なカリキュラムや行事に参加してもらいます。どうぞ、楽しんでいって下さいね」
「はい。有意義な時間を過ごせる事を楽しみにしてます」
挨拶が済んだ俺達はそれぞれ用意された寮の部屋に入り、早速休む事にした。
「どうやらオルカも俺やガルムの事は覚えていたみたいだな」
「何というか……オルカさんは僕から見たら兄弟子のような気がします」
確かにそれに関しては頷けるな……現に魔王になった直後にオルカに剣を教えたのは俺だし、ガルムが強くなりたいと願った際に真っ先に彼に教えたのも結果としては剣術だったし……
「多少無理があるような気がしなくも無いが、考え方としては間違ってないな」
「魔剣祭では是非とも彼と戦ってみたいです!」
ガルムはいきなり剣を引き抜きながら目を輝かせていた。
「そ、そうか……か、勝てる事を祈ってるぞ、うん」
同じ流派同士でぶつかられると俺の流派故、何処までも試合が伸びる可能性がある。うん、あの2人がぶつかったら間違いなく試合の規定時間を余裕で超過するレベルで戦闘が長引くな……
「でも、僕が超えたいのはあくまでもアユムくんだけだよ!オルカさんや他に戦うかもしれない相手は通過点だと思ってるからね!」
ガルムは右手に持った剣の切っ先を何故か俺に向けて自信満々な様子で笑顔を見せた。
『ウ……ここは、1000年の時を経たノルス……なのか?いや、私がこうして目覚めたのが何よりの証拠か』
アリシアの最北に存在する洞窟のその最奥の地にて目覚めた機械の体の少年は辺りを少しだけ見渡しながらゆっくりと体を起こすとそのまま光が差し込んでいる方角へと歩き出した。
そして、ノルス大陸の深海の更に奥底に存在する神殿でも藍色のワンピースを着た少女が目を覚まそうとしていた。
皆さんどうも、ご無沙汰してます。よなが月です!先日第1部が完結した本作も遂に第2部へ突入し、また新たなストーリーが始まります!
1話となる今回はいつもより文字が少ないかもしれませんが、それでも次回以降に繋がる要素はいくつか出せたと思うのでどうぞ、今後も本作をよろしくお願いします!