クエスト3 剣と炎のダンス
皆さんはじめまして、私はフィリア……端的に自分の事を言うのであれば……女神です!
最近はアユム様の目が届かない所でこっそり剣の練習をしたり、自分が扱える光の魔術について研究してたりと、中々に充実した学園生活が送れています!
「はぁい、フィリアちゃん!」
「え、えっと……ヘスティアさん、何かご用件ですか?」
「そうなの!クロクロには内緒で、こんなクエストをもらってきたの!」
赤髪がよく似合う女性……〈獄炎〉の女神ヘスティアさんはアユム様の城の庭を掃除していた私の元に来ると、嬉しそうな顔で依頼書を見せてきた。
その依頼書の内容は……〈かの邪帝獣の討伐或いは撃退〉だった。
「こ、ここっ、これ本当に受けるんですか!?」
「うん!私達女神だって凄いんだって事をクロクロ達魔王共に見せつけてやりたくってさー!」
動機が物凄く単純で幼稚過ぎる気が……いえ、これで私が活躍したというのをアユム様に伝えれば……褒めてくれるかもしれません!
「わっ、私なんかで良ければ……お供します!」
「うっふふふふ、そう来なくっちゃ!」
『……』
2人が張り切って街の馬車乗り場へ向かったその直後に二人の影から分離した別の影越しにとある人物が2人を睨むように見ていた。
「邪帝獣って確か、目覚めたら最後……世界を滅ぼし尽くすまでは攻撃を止めないっていうあの?」
「そうよ!今回は〈百雷〉のガルーダを倒しに行くの!女神としては放っておけないからね!」
「う、上手く戦えるでしょうか……」
「大丈夫だって!アタシの炎はこの世のあらゆる固形物を溶かしたり燃やしたり出来る程凄いのよ!」
「その炎が通用する相手だといいんですけど……」
私がこう呟いた途端、ヘスティアさんの顔が凍り付いたのを私は見逃さなかった。
「ガルーダの弱点、調べてくるの忘れちゃった」
やっぱりダメでした……
同じ頃、グゥリルの城ではアユムとグゥリルが仲良くワインを飲みながらここまで起きた事件を整理していた。
「お前が突然この時代に魔王として蘇ったのを皮切りに〈神聖騎士団〉なる連中が動き出し、各地のクリスタルを破壊、その破片を集めて巨兵の軍団を作り上げた」
『そしてその果てに〈紅〉のクリスタルが奪われ、〈終極兵〉どころか〈始祖〉まで蘇る事を許してしまった……』
『〈始祖〉の破壊には成功するが、奴の最後の策略までは看破出来ずに結果として大敗を喫した挙げ句、世界を一度崩壊させてしまった……』
『無理も無い……あの時の我らは珍しく疲弊し切っていた。頭が回らない口実程度にはなるだろう……』
『魔族ながら恥ずかしい限りだな……まぁ、そうでも言わなきゃ自分達の負い目を精算出来ないからな』
そう言うと俺はまた一口ワインを飲んで深く息を吐いた。
「うへぇ……なんて暑さなのかしら。いくら炎を扱えるアタシでもこの暑さはとても耐えれたもんじゃ無いわ」
「えっと……地図だと確かこの洞窟を抜けた先に討伐対象がいるはずですが……」
近くでグラグラと溶岩が煮え滾っているような音のする洞窟をひたすら真っすぐ歩き続けていた私達はとうとうその暑さに耐えきれなくなってきていた。
ゆっくりと進んで洞窟を抜けると、一面が赤い水晶に覆われた不思議な空間にたどり着き、そしてそこが最奥の地である事を悟った。
「やけに暑苦しい場所だと思ってみれば……アタシも随分とバカにされたものね」
『ガァァァアオオオ……!』
私達の目の前に現れたのは消えずに燃え続ける炎に包まれた紅の体毛の獅子だった。
「この子って……」
「炎の邪帝獣ヘルズレグルスね……確かコイツはクロクロが一歩も動かずに叩きのめした果てに封印されたはずだけど……どういう訳かお目覚めみたいね」
「こんなのが外に出たら街が……!」
「だからアタシ達が討伐の依頼を受けたんでしょ?さ、本気で行かせてもらおうかしら!」
ヘスティアさんはそう言うとどこか楽しそうな様子で両手に黒い炎を出現させた。
「すいません、ヘスティアさん……私は剣で行かせてもらいます。魔術は奥の手としてとっておきたいので!」
アユム様と同じ考えですが……この方が気にする事が減って戦闘に集中出来るような気がしますからね!
「分かったわ……アタシの炎でアイツの薄っぺらい炎をかき消すから、その隙に思い切りガツンと決めちゃいなさい!」
「分かりました!では……参ります!」
私は剣を構えると素早く地面を蹴って邪帝獣の足元まで一気に迫った。
「女神が剣を使うなんてあまり無い光景だけど……何だか凄く様になってるわね。さて、アタシも思いっ切りやっちゃおうかしら!」
ヘスティアさんはさっきまで手に出現させていた炎を放ち、邪帝獣を怯ませた。
「やぁぁぁあっ!」
私が振り下ろした剣は獅子の皮膚に確かに当たったけど、深く刺さる事は無く表面に軽く傷が付いたくらいだった。
『グオオオオオオ……』
「伏せなさい、フィリアちゃん!〈獄炎禍蝶〉!」
刀身が少し刺さった後、少しずつ圧迫した事で剣が抜けにくくなって困った私を助けるようにヘスティアさんの放った黒い炎の蝶が獅子を吹き飛ばした。
「大丈夫、フィリアちゃん!?」
「私は平気です……ですがあの邪帝獣、皮膚が特殊な作りをしてるみたいなんです……」
「なるほどね……クロクロが息を荒げるだけの相手ってのは間違いなさそうね」
その頃、アユムはガルムと共に街の剣細工士の店を訪れていた。
「おぉっ、誰かと思えばガルム君じゃないか。そっちの魔王クロムに凄く似てる子は友達かい?」
「はい……今日は学校も休みなので遊びに来ました!こっちはアユムくんっていう僕の友達です!」
ガルムは嬉しそうな様子で中年の男性と会話しながら、俺の事について簡単に紹介した。
「んで、今日は何の用だい?双剣のメンテナンスならいつでも引き受けるぜ?」
「今日は彼にこの工房で作れる武具について紹介しようかなって」
「そうかい……ま、ゆっくり見てってくれや」
「ありがとう御座います、おじさん」
そして、南の洞窟では邪帝獣と交戦していたフィリア達がジリジリと追い詰められていた。
「参ったわね……ここまでしぶとく暴れられるとアタシの足止めが無駄になっていくじゃない!」
「私の剣も今はまだ刃こぼれしてませんが……それもいつまで保つのやら……」
『グルルル……』
「しょうがないわね……こうなったら、女神としての格の違いってやつを身を以て思い知らせてあげるわ……」
ヘスティアさんは両手を前に突き出すと、黒と赤の魔法陣を4重に重ねて呪文を唱えだした。
「なら、私は……ヘスティアさんの為に時間稼ぎをさせてもらいます!」
『ガァァァア!』
「ぐっ……絶対に邪魔はさせません!」
「……よし、出来たわ!見てなさい、フィリアちゃん……〈|獄刃焔舞《ヘルダンシング·リッパー》〉!」
ヘスティアさんの独特な魔法陣から放たれた無数の炎の蝶の群れは邪帝獣をあっという間に包み込んでしまうと、そのままその邪帝獣を存在ごと消してしまった。
「ふっふーん!これがアタシの実力よ!」
「あの……ヘスティアさん」
「な、何よフィリアちゃん……」
「天井が……崩れ始めてます!急いで脱出しますよ!」
「ええぇっ、こ、こんなのって……酷いわ!酷過ぎるわよ!と、とにかく退散っ!」
私達は予め持ってきていた転移結晶を使ってギリギリの所で洞窟の崩壊を免れ、街へ飛んだ。