40時間目 もう一度、ここから
辺り一面を覆う黒い壁……背中の温かみ……俺はやはり、ミネルヴァの力によってもう一度この地へ戻ってくる事が出来たのか?
「おはよう御座います、クロム様」
ん?この声は……確か俺が魔王クロムとして蘇った際に雇ったメイドの……
「あぁ……おはよう、メルティ。少し質問をいいか?」
「はい、何なりと」
「今の俺はお前の目にはどう見えている?」
「はい、15歳程度の少年の姿に見えます」
やはりミネルヴァの言った通りに転移が行われたか……だが、何故メルティが?
「この大陸の魔王達は崩御したのか?」
「いいえ……私が感知した限りでは四人共生きておられます。ですが、力の大半を消失した為クロム様を含めて皆城の中で安静にしているかと」
「そうか……」
つまり、ガルムは前の戦いの中で魔王に覚醒したからこの時代でも生きているのか。状況に整理が付き次第、面会に行ってみるか。
「メルティ、先程から1つだけお前に不満がある」
「な、何でございましょう……」
「俺の事はアユムと呼んでくれ。クロムという名を捨てた訳ではないが、俺はこの体と声を持つ限りはアユムで居たいと思っている」
「も、申し訳御座いませんでした……あ、目覚めのコーヒーは如何ですか?」
メルティめ、相変わらず準備が早い奴はだなぁ。
「一杯だけ貰おう。何か妙な事が起こる気がするからな」
「畏まりました、アユム様」
と、ここまでは元いた世界での始まりと殆ど差は無し、といった所か……さて、俺がこの世界に来た初日に戻ってきたのなら、この後彼女との対面があるはずだが……
「腕を上げたな、メルティ」
「ひゃっ、あっ……有り難き、お言葉です……」
褒められると頬を赤らめる所も……何も変わってないようで少し安心だな。
「ふぅ……コーヒーはまたゆっくりと楽しむとして、俺は一度外の空気を吸ってくる。城は任せるぞ」
「承知しました……お気を付けて」
「あぁ、分かっているさ」
俺は玉座から立ち上がると、城の外へと向かった。
「グヘヘ……こんなド辺境の森に見るからに処女な女神がいるとはなぁ!」
「なぁなぁ、襲っちまいましょうぜ!」
「バカ野郎、とっ捕まえて魔力を引っこ抜くのが先だろうが!」
「あ……あの……やめて……下さい」
薄い金髪の少女は3人の悪党に見つかってしまい、そのまま城の敷地内に追い詰められたところで腰が抜けて震えてしまっていた。
「そそる顔してるよコイツ!早く犯してぇなぁ!」
『俺の城で騒ぐな、愚者共!』
悪党の1人が彼女に飛び掛かろうとしたその時、城の門の辺りから黒色の炎が放たれ、その悪党を吹き飛ばした。
「な、何なんだ急に……!」
『お前達が悪党であれ、怖気づかせる上での名乗り上げは必要だな。俺の名はクロム……〈黒鉄〉の……魔王だ!』
俺は城を出る寸前でローブの中に潜めていた仮面を付け、魔王としての力を一時的に解放した為、こうして姿も人のそれでは無く機械に近い姿となっていた。
「こんな所になんで魔王がいるんだ……」
『俺は静かに過ごしたい主義でね……騒がしくした貴様らに下す罰は……排除にしておくか』
俺はパチンと指を鳴らすと見るからに悪党な3人組の足元に黒色の転移門を出現させ、そのまま捨て台詞すら残させずに街の詰所まで飛ばした。
「あ……」
やはり、俺の始まりは彼女を助ける事なんだな。さて、仮面はもう不要だし……外すか。
「怪我はないか?」
「あ……はい。えっと……貴方は?」
「俺は……アユムだ。先程の姿と今君が見ている2つの姿を持つ、変わり者だ」
「魔王の中にも優しいお方はいるのですね……私はフィリアと申します。年は……女神になる前の時点で12くらいだったと思います」
女神は魔王と違い年を取らないからな……だが、こうして改めて彼女を見ていると何だか妹を見ているような気分になるな。
「そうか。まぁ、ひとまずは城に入れ」
俺はフィリアを城の食卓へ案内し、そこでゆっくりと話をする事にした。
「アユム様は魔王なのに何故この世界を襲ったりしないのですか?」
「一から十まで説明するのが面倒だからかなり端折らせてもらうぞ。魔王が天の連中に喧嘩を売れば恐らく大規模戦争に発展するからな……穏健派として俺だけでも無闇に手を出さんと決めているだけだ」
素直に面倒くさい事を避けたいと言えばいいものをなんで遠回しにしか言わないんだ俺は!
「穏健派……つまり、平和を望んでいらっしゃるんですか?」
「あぁ……青い空の果てを掴むにはまず黒煙無き世界を作り出す必要がある。なら、誰かがそうする為に行動を起こさねばならん。俺はただそれがしたいだけさ」
2周目の異世界でもやはり俺は歩夢としての口下手さが抜けきらないというのか!?
「アユム様のその夢、叶うといいですね!」
「叶えてみせるさ……いや、叶えるんだ。俺だけじゃない……フィリアやフィリアの友人、そして世界中の夢を持つ者達が笑顔でそれを実現させられる世界にしてやろうじゃないか」
「ふふっ、アユム様……これからどうぞ、よろしくお願いしますね」
「あ、あぁ……こちらこそ、よろしく頼む」
例え俺と過ごし、俺に恋していたかもしれない記憶すら消えていても……こうしてまた会って話して……ほんの小さな絆が生まれたんだ。
さ、もう一度始めようか……黒鉄の魔王と降りたて女神が織り成す、ありそうで無かった学園生活を。
皆さんどうもご無沙汰してます
よなが月と申します
さて、今回をもちまして『黒鉄の魔王と降りたて女神の学園生活』第一部完結となります!
クロムにとっては数ヶ月経って数ヶ月戻ったというような感じで、書いてる僕や読んでる人達からすれば2ヶ月程でしたが、最後まで楽しんで頂けたでしょうか?
しかし、これで終わる本作ではありません!
数本の幕間の後、第二部に突入するのでお見逃しなく!