4時間目 入学式は眠気の変動が激しい日
「おい待てよコラ」
入学式を終え、校庭にてクラス発表が行われる少し前にいきなり声をかけられた。それも所謂チンピラと呼ばれてそうな獣人族の少年に。
『何だ、この俺に何か用か?喧嘩ならば買う気は無いぞ……』
「んだとテメェ、このオレを誰だと思ってんだコラァ」
『知らんし興味も無い。1つ付け加えるならいい迷惑だ』
「馬鹿に……してんじゃねぇぞゴラァ!」
鈴のような音と共に彼の両方の握り拳に炎を表す赤の魔法陣が形成され、それと同時に彼は校舎の方へ歩いていく俺に殴りかかってきた。
「クロム様!」
『心配は無用さ……』
俺が目を閉じて無詠唱で障壁を展開すると、少年は攻撃を相殺された弾みで大きく吹き飛んだ。
「なっ……何なんだテメェはぁ!何でこんな辺境の学園にいるんだ!」
『俺がここの生徒だからだ。それ以上にどんな理由がいる?』
そろそろマジで観念してくれないかな……周りの目がそろそろ本気で気になってるんですけど!
「ちょ、ちょっと障壁が固いからって……いい気になるなぁ!」
余程俺に冷たくあしらわれた事が不満だったのか、獣人族の少年は赤と黒の魔法陣を展開し始めた。
『よせ、今すぐ式の展開を中止しろ!死にたいのか!』
俺達くらいの年で黒の魔法陣を展開する魔術は危険過ぎる!
「オレを怒らせたテメェが悪ぃんだよぉ!」
『くっ……無詠唱で障壁が張れる奴は今すぐ張れ!そうでない者は早急に校舎に退避しろ!』
絡まれたのは俺の方だが……このままだと学園が吹き飛んでしまう……やむを得ん、久々の出番だぞ……相棒!
「灰燼にしてやるぜぇ!」
「お逃げ下さい、クロム様!」
『優しいな、フィリア……だが、ここで逃げたら誰があの馬鹿を鎮めるんだ?』
「な、何を為さるつもりですか?」
『決まっている……馬鹿を黙らせるのさ』
俺は固有の魔法陣の中から銃剣状の専用の魔道具を取り出し、その銃口を彼に向けた。
「へっ、今更オレを討とうたってそうは行かねぇよ!」
『悪いな……』
俺はそっと引き金を引き、その場に沈黙を走らせた。
ガラスのような音を立てて消えたのは彼では無く、彼が展開し今にも発動しようとしていた爆破の魔法陣そのものだった。
「まさか、その銃剣……テメェまさか」
『あぁ……自己紹介がまだだったな。俺は……魔術を食らいし〈黒鉄〉の魔王クロムだ』
俺が相棒を固有魔法陣にしまいつつ名乗り上げるとそれまでの沈黙を破るようにあちこちでどよめきが起きた。
「嘘だ……ありえねぇ……〈黒鉄〉は崩御したんじゃねぇのかよ!」
『姿形こそ変わりはしたが俺はたしかにここにいる。先程皆に見せてしまった銃剣とそこから放った固有魔法がその何よりの証拠だ』
「う、うぅ……わぁぁぁあ!」
その後クラス発表があり、俺は元いた世界と同じくA組所属となった。
「キミキミー、さっき自分の事魔王って言ったでしょ?それホント?」
『俺は嘘は言わない主義なんでね。アレは極力人前では見せぬと決めていたが、まさかあれ程一触即発の事態に発展するとは思っていなかったんだ。ところでお前、何名は何だ?』
「アタシはルーダ、翼人族の里エアリアからここまで来たの!田舎者だけど、よかったら仲良くしてよ」
オレンジの髪に緑の瞳、何より制服越しでも分かる程に健康さが伝わってくる体付き……俺は思わずドキッとしてしまった。
「あ、貴女さっき彼の事様付けで呼んでたわね……名前教えるついでに答えて欲しいんだけど……?」
「クロム様は魔王なので、経緯を込めてそう呼んでおります。それから私はフィリアと申します。見た目こそハイエルフですが、一応女神です」
「うえぇぇっ、めめめめ、女神ぃ!?タメ口叩いてすいませんでした!」
「い、いえ……気にしないで下さい。私達は今日から同じ学び舎の生徒じゃないですか。気軽にフィリアとお呼び下さい」
フィリアはスカートの裾を持ち上げてペコリとお辞儀をした。
『言い忘れたが俺の事も呼び捨てで構わないし、何なら砕けた言葉遣いでいい。堅苦しいのは苦手だからな』
「ホントに!?やったぁ!アタシったら入学初日からいきなり凄い人と仲良くなっちゃったよー!」
ヘスティアの時も思ったが……翼人というのは皆揃ってハイテンションな者が多いのか!?
「ルーダさん、その翼は普段はどうしてるんですか?」
「あー……これね。翼人の翼って鳥のと違って大型でよくそうやって質問されるけど、大きいのはあくまでも魔力を込めたりできるような造りになってるからで、こうすればっ」
ルーダが目をギュッと瞑って何かを念じるとそれに合わせてさっきまで閉じていても彼女の腰くらいまであった翼が一瞬のうちに肩幅くらいの大きさまで小さくなった。
「ね、凄いでしょ!」
『俺も翼人の友がいるが、そんな器用な事が出来るとは知らなかった』
「ふっふーん!ただね、これ魔力使っちゃう訳だから有事の時に凄く困っちゃうんだよね」
確かに……これの維持に魔力を割いていたら戦闘の時に使える量にも大きく響いてくるだろうな。
「ま、これはこれで便利だからいいって事よ!」
『……』
まぁ、彼女が特に気にしていないのならばそれでいいか……と思いつつ、俺は彼女にバレないように静かに苦笑いした。