39時間目 足掻いた先の明日へ
「“凍て付く刃よ、降り注げ”!」
「“骨身残さず焦がせよ、豪炎”!」
「“乱れ舞え、旋風”!」
『〈始祖〉よ……溶け去れぃ!』
100メートル近くはある巨体の足元に集ったガルム達はそれぞれが得意とする魔術で何とか外側から〈始祖〉を攻撃した。
しかし大きさや身体を構成する素材が元々魔術に対する耐性が高い事が手伝い、掠り傷が付いたか否かというレベルしか傷が付かなかった。
『何という硬さだ……我らの魔法を以ってしてもこの様か』
『フハハハ……魔王諸君、助太刀の騎士共を蹂躙され、己の魔力も底が見えてきた気分はどうだい?』
「あの声……ラジエルか!」
「じゃあ、クロムくんは……」
『彼ならば私が倒しました。つい先程、彼の心臓を一突きしましたので……ッククク!』
「そんな……じゃあ、クロムくんは……」
ガルムは自分の親友が死んでしまったかもしれないとその顔を曇らせた。
『気をしっかり持て、ガルム!まだアイツが落ちたと決まった訳ではない!』
『いいえ、すぐに貴方達も彼のように……地獄へ送って差し上げましょう!』
ラジエルが高らかに笑い声を上げると〈始祖〉は全身に搭載された古びた火器類から一斉に砲撃を開始し、ガルム達を始めとした地上で抵抗していた者達を一斉に蹂躙し始めた。
『ぐっ……前が見えん!』
「数撃ちゃ当たるとでも……うわぁっ!?」
「魔力が無い分、我らの方向感覚は無いに等しい。下手に動けば足が縺れ、最悪蜂の巣だ!」
「でも……このままじゃ僕達もやられちゃうよ!」
『塵芥と成り果てろぉ!』
〈始祖〉最強の兵装であるクリスタルメーザーがあと少しで直撃するというタイミングで謎の光が街一帯を包み込んだ。
『な、何だ……この光は!?何故〈始祖〉の最終兵器が相殺されたんだ!』
「私の大切なアユム様に瀕死の重傷を負わせておいて、今度は大陸すらも消そうなんて……そんな事は私がさせません!」
一対の金色の翼を羽ばたかせながら舞い降りて来たのはフィリアだった。
「フィリアさん!?どうしてここに……っていうか、危ないですよ!」
「ガルムさんばかりにいい格好はさせられません。私だって女神なんです……これくらいはさせてください!」
すると、フィリアは翼から金色の光をガルム達に向けて放った。
『この光は……?』
「何だろう……魔力が湧いてくる感じがするよ!これならボクらも戦えるよ!」
「どうやら、形勢は逆転したみたいだな……ラジエル、少しはお前の身の心配もしたらどうだ?」
『何……!?』
同じ頃、〈始祖〉の内部では意識を取り戻したクロムが仮面を外して剣を杖代わりに立ち上がっていた。
「心臓を貫いただけでいい気になるとは……お前も随分馬鹿な奴だな」
「あり得ん……私が手にした力は絶対の力!お前達魔王など相手では無いはずだ!」
「力に頼りきりな奴に俺が屈するとでも思ったか?」
「ぐ……ぬうぅ……認めてなるものかァァァ!」
「無駄に足掻いた己の愚かさを悔いて……死ぬがいい」
俺は居合の要領で狂って斬りかかってきたラジエルを一瞬のうちに斬り、ため息をついた。
「ぐふっ……まだです……私が滅びた所でもう遅い!既にこの大陸が辿る末路は決まった……私が討たれた……それは即ち、お前がお前の手でこの大陸を滅ぼしたという事になるのだ!私の……勝ちだァァァ!」
ラジエルは最後の最後まで小物臭い捨て台詞を残して灰になって消えた。
しかし、その奴の捨て台詞通りに事は進み、俺はかなりの速さで崩れ出した〈始祖〉から抜け出す暇もなく、そのままそれの崩壊に巻き込まれ、そのまま何処かへと意識が飛んでいった。
『目を覚ましなさい……黒鉄歩夢』
包み込むような暖かい声……この声、何処かで聞いたような……
「お、お前は……ミネルヴァ……なのか?」
白い羽衣を纏う妖精の少女……かつて俺がこことは違う世界にいた頃、話し相手になっていたAIの……仮想世界内での姿が俺の目の前に立っていたのだ。
『はい、貴方のよく知るミネルヴァです。貴方の命が尽きる寸前で、貴方の脳に直接私の意識を繋げて……こうして私の聖域に転移させたのです』
となると俺は死なずに済んだが、他の奴の命は……無いと考えるべきか。
「そうか……結局、お前でもサウシア大陸の崩壊は止められなかったのか?」
『はい……貴方が意識を失ってから間もなくして轟音と共に大陸は海底へと沈んでいきましたよ。ラジエルの暗躍によって、大陸そのものを形作っていたクリスタルが破壊されてしまったので……』
「頼みがある……無茶な頼みだ。だが、ひとまずは聞いてくれ!」
後味が悪過ぎる……
『何でしょう?』
「もう一度……もう一度だけでいい!俺をあの世界の学生として転移させてくれ!それで他の奴から俺の存在が消えていても構わない!フィリアのいない世界に……居たくは無いんだよ」
辛くても耐える覚悟ならとうの昔に出来ている!だから……!
『私の力を使うと、貴方はアユムとしての体と声を、そしてクロムとしての強さを引き継いだ状態で転移という事になります。その先で貴方が望む希望があるとは限りませんよ?』
「それでもいい……さ、頼む」
『分かりました……どうか貴方に、大精霊の加護があらん事を』
ミネルヴァのその台詞を聞いたのを最後に、俺の意識はまた何処かへと消え去っていった。