31時間目 そして始まる殺戮の宴
かつて俺が〈黒鉄〉の魔王としてこの世界に君臨した際、天界の一部の者達は俺達魔族を根絶やしにするべくある兵器を開発し、ノーテストで投入した。
しかしそれは人類、況して天界の絶対的な力を持つ者達にすら持つには早過ぎた力だった。
そしてそんな愚行の歴史は今……再び繰り返されようとしていた。
「長いようで短い間でしたが、宿を恵んで下さりありがとう御座いました」
「なぁに、気にするこたぁねぇよ!兄ちゃんはうちの娘の相手をしたり、俺の依頼を快く引き受けてくれたじゃねぇか。宿代はそれで十分ってもんだ!」
「アユムお兄ちゃん、また遊びに来てくれる?」
「あぁ、悪い奴らを蹴散らしたらまたここへ遊びに来るよ。その時は俺の友達も紹介するからさ」
「うん!」
俺は学園を去ってから今日に至るまでの数日間世話になった鍛冶職人の家を出ると、少し前にグゥリルから届いたテレパシーの中に示された喫茶店を目指した。
「時間通りに来るとは……やはり魔王の中でも異端だな、お前は」
「よせよグゥリル……お前程の者が態々俺に直々にテレパシーを飛ばしたという事は」
「察してる通りでいい……が、一応話しておくならば〈神聖騎士団〉がかつて俺達を自分達諸共消し去った忌むべき負の遺産を数十機完成させたらしい」
「そんな馬鹿な話があるか!?あれは俺とグゥリルが決死の作戦の果てに破壊したはずだろ?」
「我も最初酒場でその事を耳にした時は思わず耳を疑った。だか、奴らの体にあった入れ墨と格好ですぐに真の事だと納得がいった」
〈終極兵〉……魔結晶を核として動く、心無き殺戮者の総称。
かの〈天魔戦役〉の末期に数十機余りが投入され、全大陸にて夥しい数の戦死者を出し、その果てに生き残った魔王が自らの命と引き換えた大魔法で完全に消し去った存在が……一体何故?
「あれ程の巨体を動かせるだけの魔力を含んだ結晶は採掘するだけで相当な時間を有するはずだ……一体何が奴らを蘇らせたんだ!」
「逆に聞こう……何故我らが目覚めた時、クリスタルが破壊されていたと思う?」
「……まさか、クリスタルの破片を!?」
「分かってるじゃないか。だが、クリスタルは破片1つでも魔結晶数十個相当の魔力を引き出す事を可能としている。ならば、破片の数だけ〈終極兵〉が現れてもおかしくはない!」
「一体倒すだけでもかなり手こずる相手だというのに……」
またあの日と同じ事を繰り返すつもりか……世界の半数が火の海に沈み、同胞すらも巻き添えにしてまで世界の変革を望むというのか!?
「とにかく今は奴らの動きの1つ1つに警戒しつつ、大きな動きがあればすぐに手を打つ他にやれる事は無いだろう」
「あぁ……そうだな」
2人がそれぞれに一息ついた次の瞬間、2人にこれまで感じた事の無い程の強い殺意が向けられた。
「この殺気……外からか?」
2人が不審に感じて外へ出てみると、そこには巨大な兵器が複数鎮座した異質な光景が広がっていた。
『サウシア大陸に生ける皆さん、はじめまして。私の名前はラジエル……〈神聖騎士団〉サウシア統括の長である!私達はこれより魔王掃討作戦を決行します!』
突如城の上空に浮遊していた1機から機械越しの音声放送が始まった。
『ですが、私は寛大です……国王陛下よ、大人しく城を全て私達に明け渡しなさい。そうすれば命だけは取らないと約束しましょう』
大方お前たちが支配したいだけだろうに……
『では陛下よ、賢明な判断を……』
「起動してないのならばすぐにでも破壊してくれる!」
グゥリルは我先にと赤と黒の魔法陣から黒色の炎を飛ばし、目と鼻の先で起動せずに突っ立っていた巨兵を攻撃した。
しかし障壁が展開されていたのか、彼の攻撃は尽く相殺されてしまった。
それに気付いた街の人々は俺達の方を見るなり怯えながら逃げるように家屋へ入っていった。
『やはり貴方は待ってやるを聞かないのですね、グゥリル』
「当たり前だ……そもそも何故このような馬鹿げた事を平気で実行しようとするんだ!気でも狂ったか!」
『狂気だと罵られようが構いません……その狂気が正義をもたらすならばやむを得ません!』
ラジエルの声に合わせ、黒色の巨兵が3機同時に起動し、俺達に向けてレーザーで攻撃を仕掛けてきた。
俺達は咄嗟に身を捻ってそれを躱したが、レーザーが通った場所は酷く地面が抉れる凄惨な状態になった。
「相変わらず物騒極まりないな……あの巨人は」
「だが、ここで屈するような俺達でも無いだろ?」
「当然だっ……“渦巻き穿て、我が獄炎”!」
「“砕き還せ、鋼鉄”!」
俺とグゥリルはそれぞれ固有の魔術を発動させ、起動した巨兵に向かって攻撃を仕掛けた。
魔術の相殺に伴う激しい爆発や衝撃で瞬く間に町中が火の海と化した。
「街が燃えたか……やはり奴らと相まみえるのはあってはならない事だったんだな」
「確かにその通りかもしれんが、火蓋が切って落とされた今、引き返すなど出来んだろ」
俺が極力被害を出さぬようにと考えている間にも巨兵共は何食わぬ様子で俺達を排除する為の攻撃を次々と繰り出した。
それに伴って崩れていく街の建物を見るうちに、俺は少しずつ不安に駆られていった。
「負の歴史を繰り返したいのか……お前達は!」
黒煙で染まった空やそうさせた現況を睨みつけながら俺はそう叫んだ。