3時間目 魔王とて嘘はバレるもの
「おはよう御座います、クロム様。早速ヘスティア様から貰った制服に着替えてみましたが……似合っていますか?」
朝からとても可愛らしい姿でフィリアが起こしに来た。
『あぁ、とても似合ってるよ。だが……俺は種族が種族だからか、何とも言えんな』
半身機械の体は割とこういう場面で苦労するんだよなぁ……前にこの世界で魔力を高めるローブを買ったがその時も着ている感触が薄くて慣れるのに時間を有したものだ。
「クロム様こそ、とてもお似合いです。さ、冷めないうちに朝食にしましょうか」
『そうだな……ん、誰だっ!?』
俺が玉座から立ち上がった途端に足元に赤色の転移の魔法陣が開き、そこから赤色の翼を持つ同年代の少年の姿をした魔族の者が現れた。
「そう身構えるな、我が旧友よ。我を忘れたか?」
全身を見てようやく思い出した……コイツは確か……
『グゥリル、いくら俺の城に門が無いからって勝手に転移の魔法陣を経由して入って来るんじゃない』
「相変わらず魔法陣の展開には口煩い奴だな貴様は」
『お前も対して変わらんだろう……俺は今から朝食を取る、そこを退け』
「冷たい点も変わらぬか……その制服、お前もあの学園に行くのだな」
『そのつもりだが?』
「いや、何でもない……顔出しも済んだ事だし、今日の所はひとまず退こう。だが、お前に黒星をつけるまで何度も挑ませてもらう事を忘れるなよ」
グゥリルは最早何度めかも分からぬ挑戦状を叩きつけてその場を去っていった。
「それにしても本当にクロム様はお顔が広いのですね。昨日のヘスティア様といい、先程のグゥリル様といい……魔王にしては珍しいですね」
勿論俺が魔王になった時に知った奴もいるが、俺が知る魔王や邪神の過半数は俺が黒鋼の勇者と呼ばれていた頃に挑んだ者が殆どだ。
なんて今のフィリアに言ったら間違いなく混乱するだろうから今は黙って適当な理由ではぐらかすか。
『魔王たる者ならば世界情勢はある程度知っておく必要がある……無論、魔王や女神、果てには邪神達の存在も大まかに理解しておかねば有事に対処しきれないからな』
我ながら物凄く苦し過ぎる言い回しだ……
「それは女神にも同じ事が言えるのでしょうか?だとすれば、学園生活の中で沢山調べる必要がありそうですね!」
フィリアは俺のそんな一言に対して目をキラキラと輝かせながら反応してくれた。
『あぁ、学園の図書室ならば歴史に関する書物も少なからずあるだろう……心ゆくまで調べるといい』
「はい……ですが、クロム様も興味があるのでは?」
『いや、俺は学生として……過ごしてみたいんだ。そこから見る世界が俺にどう映るのか……世界を知る前に、自分に映る世界そのものを一度目に焼き付けておきたいんだ』
表向きではこう言っているが、本当は俺にとって……僕にとっていいチャンスかもしれないんだ。自分の行動力の無さで潰してしまった青春を……今度はちゃんと楽しんでみたいんだ。
「クロム様、嘘はいけませんよ?」
『なっ……この俺が……お前に嘘を付いているだと……!?』
「その目を見てすぐに分かりました。ずっと気になってたんです……私を助けてくれた時から今まで、後悔を抱えたような目をして……あっ、私とした事がつい出過ぎた真似を……」
(ホント、歩夢って嘘下手だよな!だって顔に出てるぜ、本当の事が)
あぁ……この世界に来ても俺は変わらないな。例え姿が魔王になったとしても、心は所詮1人の少年でしかないのか。
『フィリア……お前は凄いよ。魔王である俺の心の仮面に隠した気持ちを容易く暴いてしまったんだからな。出過ぎた真似などではない……寧ろ、指摘してくれて感謝する。では……俺が純粋に学生であろうと思う事について何か言いたい事はあるか?』
「いえ、ありません。だって……学生って、楽しむ為にあると思うんです。さぁ、行きましょう……クロム様!」
学生は楽しむ為にある……か。元いた世界でも似たような事を言って周囲に笑顔を振りまいていた女子もいたな……その通りかもしれない。今更後ろめたく悩む必要が何処にある?立場よりも時だ……瞬間を楽しむ事こそが俺のしたかった事なんだから。
『そうだな……そうと決まれば、街まで行こう!』
俺達は紫の転移魔法陣を展開して街の中枢部まで一気に移動した。
「バルビアってこんなに広かったんですね……うっかりしてたら迷子になりそうです」
『そうだな……実際俺も国全域を覚え切るのに3ヶ月の歳月を潰したからな。何せここは大陸そのものが1つの国として成り立っているのがそれをより強調しているんだ』
「く、クロム様ですら3ヶ月もかかったという事は……私だったら倍以上はかかってしまいそうですね」
『いい事を教えてやろう。国と言うのは都市という個の集まりだ。その個さえ頭に入れてしまえば迷う事はない』
「つまり、都市の中にある街よりも都市そのものを覚えろという事ですね?」
『そう言う事だ。下手に街まで覚えずとも、都市さえ頭に入っていれば自ずと街が分かる』
またしても俺特有の変な知識がぁ……!
「ありがとうございます、クロム様!あ、そろそろ見えてきましたよ……私達の通う学園が!」
街を歩きながらフィリアに訳の分からぬ知識を吹き込んでいると、彼女は奥に続く道の先を指した。
その先に見えたのは広大な土地に聳え立つ、独特でありながらも圧倒的な存在感を放っている学園だった。