27時間目 灼けゆく荒海の上で
学園の西棟にて激戦を繰り広げた末、何とか魔壊獣を討ち取ったアヴィスだったが、立つ余力が無くなったのか壁にもたれかかって気を失ってしまっていた。
(多分今頃クロムは間違いなく中枢都市を目指して学園を去っただろうな……さてと、オレも早いとこ回復させてアリシアに一旦戻らねぇとな……)
「ぐっ……ふぅ……思いの外ひどくやられちまった……って、この気配は!」
オレは自分の近くに親しい奴の気配を感じたのでやっと動けるようになった体を引きずるようにしてその場所へ急いでみると、そこには力尽きて倒れていたガルムの姿があった。
「ガルム……ガルムっ!おい、ガルム!何があったんだよ……勝手にぶっ倒れてんじゃねぇよバカ野郎!」
「うぅっ……あ、アヴィス君……良かった、無事だったんですね?」
「何でこんなボロボロになってんだよ!誰にやられたんだ……教えろ!」
「全身鎧姿の……幽霊と戦ったんだよ。戦った上で……勝ちましたよ、僕」
「グラディスか……よくやったじゃねぇか。アイツは善悪問わず強い奴に片っ端から挑みまくってはその身に血を浴びせてどんどん強くなるっていうとんでもねぇ酔狂な奴だ」
「そうなんですね……あははっ。アヴィス君も凄く消耗してるように見えますけど……」
「思いっきりしくじっちまってな……ご覧の通り、首の皮一枚繋がったままギリギリ辛勝ってとこよ」
アヴィスはかすれ気味の声で自分を貶すように笑った。
「アヴィス君がここまでやられるなんて……アユム君達魔王が敵視してる過激派って連中はかなり警戒してるって事だね」
「そう考えんのが妥当だよなぁ……ま、クロムの野郎はオレら魔王の存在を根幹からひっくり返すレベルの大魔術をいくつも隠し持ってる化け物だけどな」
「そうなんですね……と、とにかく今は学園に戻りましょうか」
「あぁ……それなんだが、先に戻っててくんないか?ちょっと海が騒がし過ぎるような気がするから様子を見てくるぜ」
「アヴィス君は元々海の魔王でしたもんね。分かりました……ルーダさん達にはなるべくそれを悟らせないように伝えておきますね」
「おう、そりゃ助かるぜ……んじゃ、暫くじゃあな!」
アヴィスはガルムに手を振ると、青色の転移の魔法陣を潜り、その場を後にした。
「お待ちしておりました、アヴィス様」
アヴィスが転移してきた先の港には彼の部下の海将オルカが立っていた。
「おぉ、オルカじゃねぇか。別にアリシアの城で待っててくれたって良かったんだぜ?」
「いえ、そうしたかった気持ちは山々ですが……由々しき事態になってしまった故、こうして馳せ参じた次第で御座います」
「由々しき事態……ねぇ。まぁ大体は分かったぜ……そもそもお前がここに来てるって時点で度のヤバさは理解できた。取り敢えず、来て早々悪いがこっちに手を貸してくれ」
「はい、それは喜んで引き受けますが……クロム先生はどちらへ?」
「それなんだが……いくら気配を探ってもまるで死んだみたいに反応がねぇんだよ」
マジでアイツどこ行ったんだよ……ま、アイツは生きてるだろうけど……気配消すなんてよっぽどだな。
「先生……アヴィス様、この港における騒動の収集後、自分もクロム先生の元へ行く事を許可して下さい!」
「おいっ……て言っても止まらねぇか、お前は。先生に強くなったとこ見せてぇんだろ?なら、オレも主としてお前の考えを尊重してやるよ」
「あ、ありがとう御座います……さ、港へ急ぎましょう!」
アヴィスとオルカが大陸の北の港についた頃、そこでは鮫と烏賊を足したような異形の怪物が我が物顔で暴れ回っていた。
「うわぁぁ……なんでこんな化け物がこんな場所で暴れてるんだぁぁ!」
「そんなの俺が知るかよぉ!と、とにかく逃げろぉ!」
『ギョルルル……!?』
「街が随分と賑やかだと思ったら……何なんだコイツは……」
「コイツはスクイッドシャーク……サウシア大陸やノルス大陸の海域に生息する特別指定魔獣の一体です!今のアヴィス様ではとても敵う相手ではありません!」
なるほどな……頭にデカデカと魔水晶なんかくっつけちゃって……好き勝手されても困るし、クロム不在の今、港で動ける強者はオレだけだ。
「へっ、オレより強いって?上等じゃねぇか……強弱なんてくそったれな物差しはいらねぇ……動ける奴がいるなら全力を尽くせばいい!さ、行くぜ……オルカ!」
「はい、アヴィス様!」
オレ達はそれぞれ武器を片手に化物の元へ急いだ。
『ギョロロロ……!』
「へっ、弾幕張れば大抵の奴は確かに近付かねぇよな……ま、オレは魔王だから全力で突っ切らせてもらうだけだ……ぜっ!」
オレとアヴィスは化け物がでたらめに撃ちまくる光線の雨を全速力で駆け抜け、早速触手をいくつか切断した。
『ギョオオオオオ……!』
「生憎俺は海の魔王だなんてえらくデカい存在として讃えられちゃったりしてるから……負けられねぇってもんだぁ!」
アヴィスの左手に持っていた銃が火を吹き、化け物の体にいくつか風穴が開いた事でそこから青色の体液が飛び散った。
「オルカ、さっさと切り刻んじまえ!」
「ハッ!師より授かりし我が技、受けてみよ……黒鉄流剣技〈剛天裂破〉ッ!」
オルカの剣が鋼のような色に変化し、彼の独特な振りに合わせて化け物の体は一気に真っ二つになった。