25時間目 世の中全てが俺次第
そして時を同じくして別の場所ではガルムとアヴィスがそれぞれ二手に分かれて学園内を徘徊している魔物と対峙していた。
「まさか……僕が学園にいなかった頃を狙ってこんな化け物が彷徨いてたなんて」
(いいか、ガルム……お前は強い。けど、恐らくばら撒かれたバケモンは格段に強い……正直今のオレやアユムでも勝てる確信はねぇ。だがな、オレら3人は剣に関しては誰にも劣らない実力を持ってるんだ。思う存分その力をぶつけろよ!)
「うん……そうだね、アヴィス君。すー……はぁ……よしっ!」
『ウガァア……』
「今すぐ攻撃を止めて僕を見ろ!」
『ウガ?ウガァアッ!』
「やぁっ!」
ガルムは床を強く蹴って目の前にいる巨体に向けて剣を振り下ろした。
『ガァァア……!』
「お前の主人は今魔王と戦ってるよ!そう言われたら助けに行きたくなるよね……でも、そうはさせないからねっ!」
ガルムは左手から青色の電撃を発射し、魔物を感電させつつも距離を取って同じ事を繰り返した。
『ウゥ……ガァァ……』
「僕はガルム……君達みたいな心の無い化け物に故郷を荒らされた獣人族だ!別に復讐したいとかそういう気持ちは無い……でも、そうやって罪無き人を平気で手にかける君達を生かしておく訳にはいかないよ!」
ガルムは2本の剣による怒涛の攻めで相手に一切攻撃させる余裕を作らせる事なく滅多切りにして倒した。
(そっちは任せたよ……アヴィス君)
ガルムは剣についていた青白い血を払った後に納刀すると目を閉じてそっとアヴィスにテレパシーを送った。
「おっ、ガルムのやつ……とうとうオレでも手こずる相手を斬りやがったな?さぁて……アンタ、会長に操られてんな?」
アヴィスの前に奇妙な足取りと共に現れたのは明らかに正気を失った虚ろな目をした女子生徒だった。
「チッ、よりにもよって可愛い子じゃねぇかよ、オイ!ま、会長の甘言に騙されたクチだなこりゃ」
「セシル会長の……意思のままに」
女子生徒はそのまま紫の魔法陣から紫の炎を放ち、アヴィス諸共彼がいるフロア一帯を一気に火の海へ変えた。
「こ、コイツ……単なる洗脳魔術じゃねぇな?となるとあり得る可能性は……まさか、あの子の中に元凶が!?」
オレは咄嗟に自分の青い魔眼で彼女の体内を覗いてみると、予想通り彼女の中には魔王しか扱いきれない化け物である魔壊獣が蠢いていた。
「セシル会長の……意思のままに……」
「おわぁっ!?オレこれでも火属性には弱いんだよクソがぁ!腹立たしい限りだなぁ全く!」
女子生徒はアヴィスを怯ませた後も間髪入れずに爆破魔術を発動し、たちまち東棟は半壊してしまった。
「クソぉ……クソクソクソぉ!下手に手出しすりゃあの子の命はねぇし、だからってほっとけば学園がぶっ壊れるし……何でこんな歯痒い思いしなきゃなんねぇんだよこんちくしょうがぁ!」
「魂よ……分かれなさい!」
アヴィスが悔しさを滲ませて叫んだ次の瞬間、彼のすぐ後ろから眩い光が放たれ、彼の目の前にいた少女が大きく吹き飛んで体内から魔壊獣が現れた。
「その声……フィリアか!」
「アユム様は何でもお見通しなんですね……助けが間に合ったみたいで良かったです」
フィリアはアヴィスの元に駆け寄ると彼の手を握りつつも光を送り込んだ。
「うぉ……何か体ん中から力が湧いてくるぜ……へへっ、流石は女神じゃねぇか!後は俺に任せて逃げ遅れた奴らの手当に当たってくれ」
「はい、アヴィス様もお気を付けて!」
「言われるまでもねぇ!さぁて……女の子の無事も確認できたところで……第2ラウンドと行かせてもらおうじゃねぇか、あぁん?」
アヴィスは吹っ切れたかのように銃から青色の水の弾丸を飛ばしながら魔壊獣に迫り、荒々しい剣捌きで戦闘を再開した。
『さて……お前が用意した駒共もそろそろ数が尽きてきたようだが、まだ歯向かう気か?』
「こんな筈では……こんな筈ではっ!何故いつの時代もそうやって出しゃばる奴らばかりなんだ!」
『まだ分からないのか?俺が魔王である限り、お前達過激派がいつまでも好き勝手出来るわけ無いだろ?それとも、もっと俺に暴れさせてくれるというのか?』
俺としてはお前達のような下賤の輩に慈悲も自由も与えるつもりは最初から無い。だが、敢えて動かせる事によって奴らに余裕という物を作らせる事で逆にこちらにもそれと同じだけの準備をすることができた訳だ。
その時間稼ぎのからくりに気付かないうちは束になろうが何をしようが俺の指の動きすら止める事は不可能だ。
「暴れさせてくれるのか……だとっ!?調子に乗るのも大概にしろ……この国は我ら〈神聖騎士団〉の物になるべきなんだよ!」
俺の目の前で勝手に怒りを爆発させた少年はそう言いながら自分の腰に帯刀した剣で俺の左胸を突き刺そうと突進してきた。
『やはり……愚者は救えないな』
俺は機械で出来た右腕の掌から黒色の魔法陣を展開し、突進してきた生徒の剣を木っ端微塵に砕いた上で吹き飛ばした。
「何故だ……お前はオーブも無い癖に……何がお前を動かしてるんだよ!正義の味方のつもりか?」
『正義の味方……ックク、笑わせるな。俺が守りたいのはあくまでもフィリアと笑い合う日常のみだ。それ以外はどうなろうが関係無い。それより、お前が先程口走った組織について、情報を提供してもらおうか』
「ぐっ……〈神聖騎士団〉はお前達が過激派とか言って汚している集団だ。お前達が絶対に勝てる相手では無い!」
『そうか……お前の事は見逃してやる。こうして素直に話してくれたんだからな……』
「見逃して……お前は何処へ行くつもりなんだ!」
『何故聞く……』
「お前を殺すかもしれない存在を放置するのか!」
『魔王といえど俺は生徒だ……命を奪えばここには居られない。せいぜい改心するんだな』
俺はそう言い残すと学園を後にし、ローヴァの城を目指す事にした。