2時間目 結局学生の情報源は学園だよねって話
他所の魔術師共と一悶着あった後、未遂に終わったとはいえ被害者の少女を街に送り届けようとしたが……彼女自身は何とこの世界に来た事自体が初めてだった……という事で一度詳しく事情を聞く為に彼女を城へと案内した。
「や、やはり私は殺されるのですか?」
『殺さんと言ってるだろ!と、とにかく……外界に降りてきたという事は、お前は女神か天使と考えていいのか?』
「はい……私はご覧の通りハイエルフから進化して女神となり、そして外界に来た次第です」
『女神だったか……では、何を司っているんだ?』
「私はまだ何を司っているのか分からないんです……ちょうど古き六王様が崩御或いは封印された際に女神となったので……」
という事は俺がこの世界を一度去ってから女神になったと。
『ならば何を司ってるか分からなくて当然だな。女神になった者は聖邪を問わず己が何の力を持っているかは分からぬと聞く。だが、他の種族から進化したとなれば元から己が有する力くらいは分かるだろ?』
「私はハイエルフだった頃は光の術を得意としていました。攻撃も補助も全てです」
『そうか……ならばお前は光の女神になるかもしれんな。あくまでも俺の想像の域に過ぎんが』
現に俺の腐れ縁の中にも女の邪神はいるし、彼女は元々炎の扱いに長けていた事から獄炎の邪神として君臨したそうだからな。
「そうなんですね……もしかしてクロム様は女神様とお知り合いなのですか?」
『まぁ、少数ではあるがな』
俺と彼女が話していると、ただでさえ壊れかけていた城の壁が爆発と共に更に壊された。
「ハァイ、クロクロ……元気にしてた?」
黒と赤のドレス姿が何とも妖艶な雰囲気を放っている赤髪の少女……噂をしていたら現れる、懐かしき友が現れた。
「あ、貴女は一体……どちら様でしょうか?」
「あはっ、ごめんなさいね。アタシはグリル、獄炎の邪神ヘスティアよ!」
『あのなぁヘスティ、城には門があるんだ。そこから入って来いと言ってるだろ?』
「だって崩御·封印されてた友達が皆揃って復活したって風の便りに聞いたから居ても立っても居られなくって!」
『はぁ……良くも悪くも変わらないな、ヘスティは』
「ねぇクロクロ、このちっちゃくて可愛い子は誰?奴隷?眷属?それとも……」
『どれでも無い!ただ事情が事情なだけにその身を預かってるだけだ』
「はっ、はじめまして……私はフィリア、女神です」
『まぁ!じゃあアタシはお姉さんになるって事ね!仲良くしましょ!』
ヘスティアはおどおどしているフィリアと握手しながら満面の笑みを浮かべていた。
『対して用も無いなら帰れ。俺はゆっくり情報を整理したいんだ』
「まぁまぁそう冷たい事言わないでよ。それに、耳寄りな情報を色々持ってきてあげたのよ?ね、アタシってホント優しいでしょ?」
それを自分の口から言わなければ確かにお前は頼れる奴だよ!
『耳寄りな情報とは一体何だ?』
「この街バルビアに学園が出来るんだって!今年は1000人を新入生として迎え入れるそうよ?どう、興味ない?」
学園か……元いた世界ではあまりいい思い出は無かったな。だがまぁ、特別トラウマがあるとかそういう訳でも無いし、話に乗るか。
『それは楽しそうだな。だが、俺やフィリアのような魔王や女神も入学を許されるのか?』
「今のクロクロの見た目なら大丈夫よ」
『はぁ、馬鹿にしてるのか?』
「ほら、自分の姿をよくご覧なさいよ」
俺は恐る恐るヘスティアから鏡を借りて自分の今の姿を見てみると……静かに膝から崩れ落ちた。
「クロム様、大丈夫ですか?」
見事なまでに15の人間の顔だ……辛うじて四肢が元の魔王だった頃と似ているくらいで顔と背丈が元いた世界と差異がなさ過ぎる……
「あっははは、いいじゃない別に。今のクロクロの方が多分馴染みやすいと思うよ?」
『からかうのも大概にしろ、ヘスティ!』
声もエコー掛かってるだけで元いた世界での自分と変わってない……異世界転移出来てもこれはダメなパターンじゃないか!
「ちなみに2人の分の入学証明書はもう貰ってきてるわ!だって蘇ってくれるって思ってたもの!」
『相変わらず変な所で準備がいいな……』
「わ、私も入学していいんですか?」
「もちろんよ!別に戦争なんて起きてない訳だし、今のうちに甘酸っぱい体験をするのもいいんじゃない!」
お前が一番楽しそうだろ……と言ってやりたい気持ちが山々だが、フィリアがいるので黙っておこう。
『まぁ悪くない話ではあるな……よし、俺も行こう。学生という身分ならば情報収集もだいぶ自由が効くだろうしな』
「じゃあ制服もここに置いとくね!あ、入学式は明日だから、遅刻しないでよ!」
『教員でも無いくせにそんな事を言うんじゃない……』
「えへへ……こう言ってるアタシが一番遅刻しそうかも。じゃ、話も済んだしお暇するね!」
ヘスティアはまたしても俺の城壁を破壊しながら飛び去っていった。
「随分と愉快な方でしたね、ヘスティアさん」
『まぁそこが彼女の一番の特徴だからな。それにあぁ見えても俺より魔術を得意としているから、学園でもかなり優等生として扱われそうだな』
「クロム様もそうだと思いますよ?」
『だといいな……』
ヘスティア、感謝してるぞ。まさかお前がきっかけで……こんな形で俺の学生生活がやり直せるとは思いもしなかった。
さて……これからまた俺の新しい生活が始まるのか……
俺は心の中で色んな感情を抱きながらヘスティアから貰った制服を見つめていた。