19時間目 僕の後悔、俺の始まり
聖剣に振り向いてもらえなかった僕だけど、その後もフィーネと一緒に行動する事を国王が認めてくれたから大して傷付いたりはしなかった。
毎日のようにフィーネとクエストに挑んでいくうちに僕は気付けばランク10……ベータテスト中にも関わらずトップランカーの仲間入りを果たすまでに強くなっていた。
「アユムもだいぶ強くなったんじゃない?」
「うん……けど、結局今回のクエストで僕のステータスは軒並カウンターストップしちゃったから、これ以上は強くなれないかも」
「でもそれってつまりはさ、限界の限界に到達したって事だよ!もう今の私達は下手したらこの大陸で1番最強の組み合わせだよ!」
一国の姫であるフィーネの無邪気な笑顔……それは僕にとって数少ない心の支えになっていたんだ。
反比例するように擦り減っていく現実から僕を救い出してくれるその存在を……心の底から守りたいと思うようになった。
……だけど、僕にそんな事が許されるなんて事は初めから無かったんだ。
「なっ、何で……ラグラスの街が……!?」
たまたま僕がソロで受注したクエストを終えていつもみたいに自分達の家に戻ろうと帰路に着いた時、ラグラスの方から黒煙が上がっているのが見えたので僕は全速力で走った。
この時はまだ今みたいに転移の魔法なんて物は存在してなかったから、この時は凄く悔しかった。
「陛下、大臣さん……何があったんですか!?」
『何故死に絶えてる者に質問するのです?』
血の海に伏した二人を揺さぶって声をかけた時、不意に聞こえた声の方を見てみると純白のローブを纏った青年が上空にいた。
「貴方は一体……フィーネは何処だっ!」
『彼女なら……君の目の前にいるじゃないですか』
「え……わっ!」
ほんの一瞬ではあったけど、僕に向かって何かが突進してきたので慌てて剣で受け止めてみると……その正体はフィーネだった。
「フィーネ、フィーネ!僕が分からないのか、アユムだよ!」
「血を……寄越せ」
今のフィーネには意識が無かった。光を失った虚ろな瞳で僕の事を敵と認識していたんだ。
『どうです、彼女の力は?』
「お前が仕組んだ事か……ぐっ!」
『彼女は急速に強くなっていく貴方を見て嬉しくなると同時に自分もそこに並びたいと願っているようでしてね……なので、私がその願いを叶えてあげたのです!』
彼女の事を分かったつもりでいた……そんな事で頭を抱えてたなら、僕に話してくれよ!
「フィーネ、これは本当に君が望んだ力なの!?自分の意識を剣に奪われてまで得る力が……」
「ち……が……うっ!」
「今すぐ剣を捨てて僕の元へ帰ってきてよ!今からでも遅くない!」
「して……」
「え?」
「私を……殺して……もう、私は私の国を滅ぼしてしまったから……」
意識が微かに戻った彼女の口から発せられたその言葉に僕は思わず動揺して後退りしてしまった。
「そんなの……出来る訳無いよ!」
「お願……い……うぁぁっ……」
嫌だ……そんなの絶対に嫌だ……!
「うわぁぁぁあ……!」
僕が大粒の涙を流しながら、絶望に満ちた叫び声と共に自分の剣をフィーネに突き刺そうとした瞬間、彼女は自分が持っていた剣を左胸に強く突き刺した。
「フィーネ……!」
「ごめんね、アユム……貴方の奥さんになるって約束……破っちゃって」
「そんな……いいよ。早く治療を……」
「これでいいの……こうするしか……ねぇ、アユム……お願いがあるの……」
「な、何だよ……」
「妹を……幸せにしてあげてね……」
「うぅ……あぁぁぁああっ!」
―そして、現代……
『俺は……この手で……君の姉を……』
俺は過去に何があったかをフィリアに打ち明けた途端に目から大粒の涙が溢れ始めていた。
「辛かったんですね、クロム様」
『フィリア……?』
「確かに私の姉が死んだ事は今でも悲しいです。そしてその原因にクロム様が関与していた事も……素直に許し難いです。でも、姉が望んだのなら……これ以上自分を責めるような真似はやめて下さい」
『俺は今でも彼女の命を奪った事を許してやれない……それはきっとこの先も向き合っていかなきゃいけない課題なんだ』
「姉さんは私が幸せになる事を望んでいたんでしょう?なら……」
フィリアは未だに涙が止まらない俺をそっと抱擁してきた。
「今、この瞬間から……もう一度、私を幸せにして下さい。楽しい事も苦しい事も、私と……ルーダさんと、ガルムさんと……この先出会い、絆を結ぶ仲間達と分け合っていきましょう」
俺は不覚にもこの時のフィリアをフィーネと重ねてしまい、余計に泣けてしまった。
『ありがとう、フィリア……お前の願い、必ず叶えてみせるよ』
俺はフィリアから少し離れて固有空間を閉じ、涙を軽く拭った。
『待っていたよ、今を生きるもう1人のボク』
「ちょっと、離して下さい……!」
感動に浸っていた俺達の目の前に突如として現れたのはくすんだ白に染まった勇者の装備を纏った俺にそっくりな声の少年だった。
『貴様……何者だ!?今すぐフィリアから離れろ!』
『フフフ……透けて見えるよ……払拭しきれない過去の後悔が。ボクという存在を否定しようとする心がね……』
もう1人の俺らしき少年はマントを翻してフィリアごと姿を消してしまった。
『この子はボクが貰い受けた……返してほしければ今すぐ剣の城に来いよ』
『言われずともすぐに行ってやるさ……俺を象った不届き者め……必ず息の根を止めてやる!』
俺も転移の魔術を発動し、剣の城へ急いだ。