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黒鉄の魔王と降りたて女神の学園生活  作者: よなが月
第2章 目覚める魔王達
17/56

17時間目 孤独の埋め合わせ

 あれはもう、今から数えて2年程前……俺がまだアユムとして、この世界でひたすらに理想の自分を目指して猛進していた頃の話だ。


―南の大陸·エタナスダウンの森


「ハッ、ヤッ、ヤァァッ!」


 この時の僕はまだ魔力なんてものを持ってなくて、街で初期から持っていた財産を全額投資して揃えた鋼製の装備でひたすら自分を強くするべくこの森に入り浸っていた。


 ガラスが割れるような儚く綺麗な音を立てて消えるのは先程まで僕が相手していた多数の魔物達だ。


『500expを入手、ランク7になりました。次のランクへ進むには昇級試験を受け、合格する必要があります』


 何度も聞き慣れた無機質な案内と共に僕はまた一段と強くなった事を確認した。


 このゲームはレベルとは別でランクという概念が存在し、そのランクに合わせて様々なボーナスを受ける事が出来るようになっている。


「ランク7って事は……もう銀等級は卒業か。金等級の魔物は単体で災害なんて簡単に引き起こせちゃうから怖いんだよなぁ……」


 僕はステータス確認の窓を閉じて木々の隙間から見える空を見てため息をついた。


「って、こんな森で愚痴をこぼす余裕があったら装備が追いつかない所までさっさとレベル上げを完了させちゃおっと」


 結局僕はこの後日が暮れ、空が青紫に染まって一番星が輝く頃まで森の中を駆け回って可能な限り剣の熟練度を上げ続けた。


「剣の熟練度3500……うん、しっかりカウンターストップをかけられちゃったや。しょうがない……帰ろっ」


 僕は腰のポーチから転移が使える魔術結晶を取り出して街へと戻った。


「我ながら今週の結晶消費率は馬鹿に出来ないな……これでも結晶の使用回数は抑えたつもりなんだよなぁ」


 僕はマイセットメニューに〈1週間に消費したアイテムとその比率〉を追加していて、宿で開いた時に目にしたその量に愕然とした。


「今回の探索ツアーで手に入れた換金用のアイテムで手に入れたのが35200c(キャピ)って結果から考えるなら、背に腹は代えられないのかもしれない」


 僕はそれ以上深く考えるのをやめ、今日の所はひとまず明日のクエストに備えて体をしっかりと休めた。


 次の日、宿の一階がやけに騒がしいと感じて降りてみると、そこに居たのは王宮直属の騎士団の人達だった。


「その銀髪……貴方がアユム様ですね?」


「あ、はい……そうですけど……」


「バルビア国王陛下より貴方を城へお連れするように命じられた故、一緒に来てもらうぞ」


 僕は金色の甲冑を着た男性に案内されるまま馬車に乗り、そして城の中にある王の間へと来た。


「良くぞ我の呼び声に応じてくれたな、アユムとやらよ。聞けばお主は近隣の様々な場所にて剣の腕を磨いているそうだな」


「はい……昨日もエタナスダウンの森にて魔獣の群れを1つ、壊滅させました」


「ほう……あの森はただでさえA級の魔物が巣食うと言われている中でそのような事を成し遂げたか。では、お主のその腕を見込んで我から1つ頼みがあるのだが……聞いてくれるかね?」


「何でございましょう、陛下」


「現在我が国と同盟を結んで間もないエルフの国ラグラスが近頃魔獣の攻撃を受けていると知らせが入ったのだ。お主ならば、この状況を打開出来るだろう?」


「その魔獣はA級ですか?」


「如何にも……森の防衛線の突破も時間の問題と言われている。我が国の兵を送り出そうにもこちらの防衛が弱まる恐れがある故、腕の立つ者に一任しようという考えに至ったのだ」


 他国、況して同盟国がそんな状況に陥ってると分かっても、自国の盾を脆くしてまで守ろうという訳にいかない……国王の言いたい事は凄く分かる。だからこそ、断る訳にはいかないよね……


「流れの剣士アユム、国王陛下より魔獣討伐の任、確かに承りました!」


 僕は国王に跪いて左胸に右の握り拳を軽く当てながらそう言った。


 城を出た後すぐに僕は買えるだけのアイテムを片っ端から買い尽くし、剣も自分で研磨出来るだけ研磨し、ラグラスとバルビアを繋ぐ樹海……バルグラスの樹海へと向かった。


「本当は真っ先に昇級試験を受けたかったんだけどなぁ……能力値はカウンターストップしてるから何をしても身にならないし……おっと、敵だ」


『ガゥァァッ!』


『バウウッ!』


 白昼堂々僕に襲いかかってきたのはバルビア周辺では専ら〈初心者殺し(ルーキーキラー)〉としてあまりにも有名な魔獣のウェアガルフの集団だった。


「確かに君らくらいの魔物は新鮮な人肉を食らいたいよね……けど、僕は流れとはいえ王国の剣士なんだ。斬らせてもらうよ!」


 僕は居合の要領でギリギリまで引き付けたウェアガルフを纏めて一気に斬り倒した。


「王様からの情報通り、ここは本当に強い子達しかいなさそうだ……なら、こんな連中に構わずに一刻も早く元凶を突き止めなきゃ!」


 この頃の僕はまだ、1人の剣士としてなるべく明るく振る舞いながら、こうして人々からの依頼を確実にこなしていた。


 そして、そうやって日々を過ごしているうちに……僕は現実で叶わない願いすらもこの世界の自分に託すようになっていった。

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