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黒鉄の魔王と降りたて女神の学園生活  作者: よなが月
第2章 目覚める魔王達
16/56

16時間目 現実 逃避

 レイディア剣術学院に留学して数日が経った。俺はエリスのみならず、その他下級生達に出来るだけ魔王だと悟られないような剣術を教授しながら独自の授業を受けていた。


 そんな中でもやっぱり校舎を歩いているとふと思い出してしまう事があった……そう、俺はまだ16歳の高校生(・・・・・・・)で、高校からは順風満帆な生活を送ろうと決めていた。


 けれども現実は残酷で、俺の願いはただの理想として消えていった。


 いや、消してしまったんだ……


―西暦2023年 とある港町


 そもそも僕は自分の容姿に自身が無かったから、せめてクラスで何かの形で目立てるようにと小学6年の頃から剣道を習い始め、中学に進んだ後も勿論剣道部に入った。


歩夢(あゆむ)君、今日も技のキレがいいねぇ!その調子で市大会も頼むよ!」


 この頃の僕は剣道部の数少ない実力者で、顧問の先生からも師範からも太鼓判を押されていた。


「はい、こちらこそよろしくお願いします!」


「よっ、アユ!まだ時間大丈夫?」


辻倉(つじくら)君……別に何も用事はないけど、どうかしたの?」


「もうすぐ市大会だろ?その前にちょっと調整したくってさ!」


 辻倉君は同じ剣道部の仲間で、僕と違って凄く見た目が漫画の主人公みたいで……僕なんかよりもずっと明るかった。


 僕は正直そんな彼の事を羨ましいと思うと同時に……恨んでしまっていた。


「ルールは一本先取な!」


「分かった。でも、加減はしないよ?」


「おう、同じ部のエース同士……出し惜しみは……無しだっ!」


 僕らは面を付けて互いに構えると、道場一帯に響く程の大きな音を立てながら前へ踏み込み、互いに得意とする技を打ち込もうとした。


「やっぱアユに勝てる奴はいないって。こんな化け物じみた早さで打ち込まれて払える奴なんて同じレベルで動ける人に限られるよ」


「そ、そうかな……そう言われると、照れるよ」


「ま、俺も本番までにはアユに追いついてみせるからな!」


「うん……頑張って!」


 別に彼の事が嫌いな訳じゃない……僕はただ、この時から既に手の届くような存在じゃない事を勝手に察して、勝手に劣等感に浸ってしまっていたんだ。


 そしてそんな自分を唯一慰めてくれるモノこそ……〈ムゲンズワールド·オンライン〉だった。


「あまり女の子を待たせないで頂戴」


「あぁ、えっと……その……」


「ぷっ……くく……アハハハハ!冗談よ、冗談。もう、アユムったら本当にからかいがいがあるわね!」


「うぅ……」


 薄い金髪と割と軽めな装備が特徴のエルフの剣士……彼女こそが僕の大切な人……フィーネだ。


「ねぇ、今日なんだけどさ……私の住んでる森でレベリングしましょうよ。私も新しくもらったこの子を試したいし、ね?」


「べ、別にいいけど……それならフィーネ1人でも良かったんじゃ」


「私はアユムと一緒がいいの!ほら、日が高いうちに……急ぐわよ!」


 そう、こんな少しお転婆な彼女と一緒にいられる時間が何時までも続いてほしいと願っていたんだ。


―そして、現在


「また先輩ってばぼーっとして……もしかして、フィリア先輩と何かあったんですか?」


『い、いや……何でもないんだ。と言いたいところだが、一番の教え子にそんな風に言われてしまうと答えざるを得ないな』


「という事はやっぱり何かあったんですね?」


『どうしても彼女を見ると……昔俺が殺めてしまった少女を重ねてしまうんだ。ただそれだけだ』


「そうでしたか……私ったら、出過ぎた真似を!?」


『いや、いいんだ……恥ずかしい話、俺はフィリアに自分の秘密が知られてしまうのが怖くて堪らないんだ』


「ふふっ、先輩ってもしかしなくてもフィリア先輩の事が好きなんですね」


『なっ……そんな訳があるか……!?だいたい彼女は……ハイエルフで……今は……』


 俺は何を恥じているんだ!彼女への思いの1つくらい認めたっていいだろ!


「あの、先輩……私が言うの烏滸がましいかもしれませんが、女の子にはなるべく隠し事をしないで下さい。好きな人を想う気持ちが強ければ強い程……自分を頼って欲しいと思っちゃうんです」


『そうか……ならば、この後にでもフィリアに声をかけてみるよ。ありがとな、エリス』


 俺はいつも通りエリスに剣の指導をし終えると、彼女からのアドバイス通りもう一度避け気味だったフィリアに会いに行ってみる事にした。


「あ……クロム様……一体こんな夕刻に何の用ですか?」


『あ……えっと……そうだ、フィリア……今からお前に俺の過去を全て話そうと思う。俺は多分、そう遠くないうちにこの国の城を攻め落とす事になる。そうなってしまえば、こうしてフィリアと話せる機会を作れる保証が出来ないんだ』


「えっ……じゃあ、クロム様は初めからこの国に来たのは留学ではなく、この国のシンボルでもある城に用があったからなんですか……?」


『あぁ……俺は魔王だ。城のある国を放っておく訳にはいかないんだ。最近は過激派共が動き回っているようだし、野放しにして俺の大切な友に危害が及ぶなどあってはならないからな』


「お気持ちはよく分かります……でも、クロム様1人で太刀打ち出来る相手では……」


『それは俺がよく理解している。何時までも俺の大陸で好き勝手する奴らを生かしてはおけない……これは魔王の矜持である以前に、俺の我儘(・・・・)なんだ』


「クロム様……」


『本題から逸れてしまったが、そろそろ本題に入ろうか……君の姉と俺の間に起きた……ある出来事の全てを』


 俺は唇が震えるのをぐっと堪えながらフィリアをそっと俺の固有空間に連れ出して彼女の目の前に水晶を出現させた。

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