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黒鉄の魔王と降りたて女神の学園生活  作者: よなが月
第2章 目覚める魔王達
15/56

15時間目 己の剣に秘めしは……

 フィリアと仲睦まじく街を歩いてから、俺は彼女のいない所で何度も体が震えていた。


 例えこの身が魔王のそれであったとしても……中身はそもそも高校生に上がりたて故、まだ子供でしかない。


 起きてもない事をあれこれ考えて震えるのは俺の……いや、僕の昔から全く変わる気配のない癖なんだ。


「……先輩、クロム先輩!」


『おっと……悪いな、エリス。それで、何だったかな?』


「剣の稽古の約束をしてくれたじゃないですか!私、凄腕の先輩が来るって期待してたんですよ?」


『申し訳ない……さ、改めて始めるとしようか』


 俺は現在、中等部2年生の剣術科に籍を置く少女エリスの専属指導者として剣を教える事になっていた。


 そもそもこの学園では講師がそれほどいない……つまり、生徒間による教え合いがカリキュラムの中枢となっていた。


「ま、まずは私と……立ち合いをしてくれませんか?」


『そうだな……君は近隣の騎士公爵家の娘と聞いているが故、加減はしないぞ!』


「はい、先輩!」


『では、そちらから来てくれ……これでも俺は攻めに関しては凡人かそれ以下なんだ』


「わっ、分かりました……では、参りますっ!やぁぁあっ!」


 エリスの踏み込み具合や初撃の重さ……流石は騎士公爵の令嬢だけの事はある。


『見事だな、エリス……こうして女の子と剣を打ち合ったのは初めてだが、こうも俺の予測を超えてくれるとは思ってなかったよ。だが……っ!』


 俺は一度剣に込めていた力を抜きつつも身を捩り、エリスの攻撃を受け流しながら彼女の背後に立ち、再度剣を握った。


「い、今の技は何ですか……?先輩の力が弱まったように見えましたが」


『よく分かったな。俺はあえて力を抜いて鍔迫り合いにおける双方から加えられる力のバランスを崩し、その際に生じるほんの一瞬の勢いを活かして背後に回り込んだのさ』


「何だか魔王がしそうな御業ですね」


『まぁな……騎士達からすれば不満極まりないのは知っているが、使いこなせれば敵陣を縦横無尽に駆ける事も不可能では無いぞ?』


「確かに……勢いを使って受け流すのなら、それを活かせば自分のいる位置を細かく調整する事も出来るかもしれませんね!」


『そうとも言えるが、裏を返せばそれだけ受け流す方向を如何に自分のみに……有利となるように導けるかはお前しだいだぞ、エリス』


「はい……あ、もうお時間が……」


『またいつでも声をかけてくれ。これでも俺は暇している方なのでな』


 エリスが後ろで一礼したので俺は軽く手を振り、自分の教室へと戻った。


「随分と楽しそうに剣の指導をしてたみたいだね、アユム」


『グレン、頼むからここで俺をそう呼ぶのは止めろと何度言えば分かる?』


「だって事実じゃないか。あのいつも一緒にいるエルフの子には話してないの?」


『話せる訳が無いだろう……』


 話した所で彼女の混乱を招きかねないだけだし、それは俺とフィーネに関する一連の事件の真相の一端を明かす事と変わらない。


 彼女を信じていない訳じゃない……俺はただ、フィリアに笑顔で「クロム様」といつまでも呼んでいてほしいから言わないだけだ。


「そうそう、今日の放課後に僕の兄さんと遺跡を調べに行くんだけど……クロムも来る?」


『そうだな……言葉に甘え、行かせてもらおう』


「じゃあ、放課後に裏門の前に集合だよ!」


『了解した』


 全く……俺は何をこうも焦ってなどいるんだ。何故こうも震えが止まらないんだ……魔王ならどんな状況下でも常に平静を保つべきなのに……どうしてフィリアの事となるとこうなってしまうんだ……!


「おっ、約束通りに来てくれたね……」


『グレン、グゥリルがいないが一体どういう事だ?』


「騙すような事をしたのは謝るよ。ただね、どのみち君に話しておきたかった事だから……」


『それで俺に話すべき事とは一体何だ?』


「君も兄さんの仲間から聞いてると思うけど、この国では今過激派の連中が1大作戦を計画してるみたいなんだ。僕にとってもこれは色々とマズくてね……」


『そんな事は分かっている』


「協力はもちろんして欲しいけど、それ以上に問題なのはその作戦の内容の中にかの魔剣ティルスヴィングが含まれてるって事だよ」


 魔剣ディルスヴィング……忘れた事は一度もない、伝説の剣だ。そしてその所持者こそがフィーネだったんだ。


『そうか……なら、ただ協力するだけにはいかないな。俺の大切な者の愛剣が穢されようとしているのなら、俺の全てをかけてでも止めてくれる!』


「やっぱりそう言うと思ったよ……フィーネちゃんを失ってからずっと彼女の事ばかり考えてるよね?魔王になったとしてもその気持ちが変わってなくて安心したよ」


『フッ……俺は所詮魔王になり切れないような奴だ。そしてそんな自分に嫌気が差していたんだ。俺がここへ来たのはその過去の未練を断ち切り、今を自分らしく生きていけるようにする為だからな』


 フィーネにしっかりと別れを告げられるように……俺自身も試されるんだろうな。


「それで、クロムとしては過激派をどうするつもりだい?」


『もちろん纏めて一気に叩き潰すさ……俺の魔王として築き上げてきた全てを……余す事無く使い潰してもな!』


 俺はグレンから知らされた敵の計画にかなり苛立っていた事もあり、自分らしくもないような事を口走った。


「クロム……無理だけはするなよ。留学生なら、行動範囲は制限されるかもしれないからね」


『それを承知で俺は奴らと戦うさ……そして今度こそ奴らの息の根を止めてやる!』


 俺は胸の中に抑えの効かない怒りを募らせながらもその場でただ静かに拳を握った。

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