13時間目 留学という名の潜入調査の始まり
『弱者ガ2人モ喚クナァァ!』
「ふむ……理性があるのか無いのか分からん奴だな。さて、どうしてやろうか……」
と言いつつもカルラは笛を口元に当てがい、奇妙な音色で旋律を奏でた。
するとカルラ目掛けて走ってきたラヴィドが再び黒い竜巻に飲み込まれて宙を舞った。
『何ダト……私ノ巨体ガコウモ容易ク……!?』
「悪いが私は少々急いでいるんでね……そこまで細かい術を使っていられる余裕は無いのだよ」
カルラは旋律と音色を切り替えると、それに合わせて今度は紫の無数の雷がラヴィドの体を次々と貫いた。
「相っ変わらずカルラは口ではああだこうだと言っておきながら行動はしっかり無慈悲だなぁ、おい……」
カルラによる一方的な攻撃の様子を見たアヴィスはその光景を見て懐かしみながらも少しだけ引いたのか顔が少し青ざめていた。
『グ……ヌヌ……アリ得ン……コノ私ガコンナ餓鬼ナドニ遅レヲ取ル筈ガナイ!』
「散れ……無様な偽善者よ」
カルラは全身の痺れで全く身動きが取れないラヴィドの心臓を的確に素早く穿ち、今度こそ完全に消滅させた。
「腕は落ちてないみたいだな、カルラ」
「当然だ……早速の頼みで申し訳無いが、この大陸にいるアイツに……クロムに会わせてはくれないか?」
「大方そんな事でもない限りこんなド辺境に来たりしないだろ?」
アヴィスは大きくため息を付きながらも固有の魔法陣を展開し、カルラをその中に入れると手を振りながらそれを閉じた。
『いきなり青い魔法陣が俺を包んだと思ったら……何故お前がここにいるんだ?』
「使い魔も寄越さずに勝手に来た事は謝罪する。まずは私の話を聞いてくれ」
『東国の魔王たるお前がこの地に来たという事はいよいよ何か良からぬ事が起きたと認識していいんだな?』
「話が早いのは姿が変わっても変わらんな。さて、例の話だが……先日未明に先にこの大陸にある故郷へ向かった従者から手紙が届いてな……何でも剣の国にて不審な動きが多発しているとの事らしい」
『それで……俺への頼みとは何だ?』
「現在その従者に話をして、潜入捜査を任せているんだ。出来ればでいい……彼女と合流してはもらえないか?」
『なるほどな……お前のその頼みは聞いてやりたいが、あいにく今の俺の立場は一介の学生でしか無いんだ。多少遅延が発生する恐れを理解してくれるのならば引き受けよう』
「構わない……頼む、彼女はくノ一とはいえ実戦経験に関しては浅いんだ。私が助けに向かいたい気持ちは山々だが、現に東国の魔王は私だけなのでな……この通りだ」
カルラは少しクールな顔を歪ませながら俺に頭を下げてきた。
『事情含め、了解した。では俺は学園に掛け合って見るから、これで失礼する』
俺は黒い魔法陣を展開し、休日の学園へと足を運んだ。
『ノブリス学園長、入ります』
「おや、君は確か……クロム·ディリーム君だったね。今日は休日だが、何の用だね?」
『先日、当学園から数名程交換留学生を迎え入れると仰っていましたね?その件について俺から頼みがあります』
「言ってみなさい」
『こちらからの交換留学生に俺を指名しては頂けませんか?』
「心配しなくても君はもうそのうちの一人として話を通してあるから安心しなさい」
『ありがとう御座います……では、俺はこれで失礼します』
俺は学園長に礼を言うと、疲れを癒やす為にも学園寮の自室へと戻った。
そして翌日……
「えぇっ、レイディア剣術学院に行く事になった!?」
『そう言えばまだガルムには伝えてなかったな。俺はこの先3ヶ月程はここでは無くそこにて勉学に励むよ』
「レイディアって……ここからどれだけ離れてると思ってるんだよ?」
『あそこにあるという城も個人的な用があるんでね……そういう訳だから、せっかく仲良くなれたけど暫くは会えなくなるな』
「そっか……じゃあ、頑張って!フィリアちゃん達にも伝えておくよ」
俺はその後、学園の前にあった馬車に乗りレイディアに向かう事になった。
そこはかつて俺がまだ勇者……純粋無垢な人間の少年だった頃にホームグラウンドとして何度も足を運んだいわば始まりの場所たる地だ。
そんな場所に土足で踏み込もうなどという輩がいるのならば尚更許しておく訳にはいかん!
暫く馬車に揺られる中で少しうたた寝をするつもりがあまりにも日が暖かった事もあって深く眠ってしまった。
「もうアユムったら……肩に力が入り過ぎよ?もっとゆったりとした姿勢で、全身をうまく使うの」
「こ、こうかな……てやっ!」
これは……俺の夢……なのか?この森は見た事がある。俺がまだ剣の腕を磨いている途中の頃の光景か……
「そうそう、その調子だよ!さ、忘れないうちにもう一度!」
「うん……!」
やがて俺は自分の体が軽く宙に浮いたのに気付いた段階で目が覚めた。
「着きましたよ、クロムさん」
馬車から降りた先に広がっていたのは黒い門とその先に聳え立つ純白の壁の校舎だった。
「あれ、誰かと思えば……アユムじゃないか。君もこの世界に戻ってきていたなんて……驚いたよ」
馬車から降りた俺を誰よりも早く迎えたのは赤い一対の翼が目を引く赤毛の少年だった。
「お前……まさか、グレン……なのか?」
「そうだよ……君もよく知る、そして君と肩を並べて何度も……幾つもの戦場を潜り抜けてきた友のグレンだよ!」
外見こそ少年だか……その口調や時折見せる仕草はかつて共に世界をかけた彼そのものだった。
そしてこの瞬間から、俺の復讐劇の幕は静かに上がったのだった。
皆さんどうも、よなが月と申します!
今回のエピソードより第2章は後半〈剣城陥落〉編へ突入します!
そこではクロムが殺めてしまったという少女フィーネの死の真相が明かされ、残る魔王達も姿を変えて続々と参戦します!
クロムの秘密が明かされる時、フィリアとの恋路も一歩進展がある……かもしれません!
魔王の挫折が見れる第2章後編、お楽しみに!