12時間目 置き土産を残す敵程厄介で
アヴィスやクロムが郊外にて司祭ラヴィドと交戦していた時、学園でも大きな動きがあった。
「し、司祭様が敗れた……またしても魔王の手で!?」
「どうやらその様だ……我々も次の手を打てという事だ、急ぐぞ!」
「ハッ!」
黒いローブを着た男達は学園のすぐ近くの大通りに紫色の心臓の様な物を放り投げ、足早にその場を去った。
「ラヴィドはぶっ倒したけど……アイツの捨て台詞がどうも気になるな」
『確かに……死に際に何かを残していたな。あの言葉を鵜呑みにする気は無いが、もしアイツが隠し玉を用意しているのなら……』
俺達はまとめて奴らに煽られたという事になるな。
「今はとにかく有事に備えて引き返そうぜ!何かあってからじゃ今のオレらだと対処しきれねぇからな」
『そうは……行きませんよ……!』
俺達が街の方へ戻ろうとした時、跡形も無く自爆したはずのラヴィドが骸を引きずる様に蘇り、声をかけてきた。
「げっ、生きてんのかよコイツ……」
『残念ですが私は少々執念深い者でしてね……先程の自爆も、今の貴方達を煽る為の演技の一部に過ぎなかったのですよ!』
「テメェ……どんだけ殺されれば気が済むんだよ!」
『私が貴方達を葬り去るまでです!』
不死者同然の状態で復活したラヴィドはいきなり俺達に襲いかかってきたので、軽く身を捻らせてそれを躱しつつ再度武器を構えた。
「ちょうどオレらとしてもアンタに聞きてぇ事は山程あったとこだ……知能の下がったゾンビ脳であろうが、洗い浚い吐いてもらうぜ?」
『私はクリスタルを破壊した際の余剰エネルギーの力で己の体を不死者として蘇らせた際にこうして……あらゆる物に変化させる力をも手にしたのです!さぁ、骸竜と化した私の前にひれ伏すがいい!』
ラヴィドは体中から悍ましい色の体液を迸らせながらその姿を異形の怪物へと変化させた。
『……っ!?済まないアヴィス、ここは頼めるか?』
「街の方でもやっぱ動きがあったか……正直な事言えば2人でやろうぜと言いたかったんだが、そういう事なら仕方がねぇな!」
『何ヲゴチャゴチャト話シテイルカァ!』
「さ、早く行っちまえ!」
『この恩は必ず返すぞ……!』
俺はアヴィスにこの場を任せて転移魔術を素早く展開して街の方へと向かった。
いざ街へ来てみると、そこでは亡骸号整体が街のあらゆる建物を人諸共手当り次第に壊していた。
「クロム様……!」
『フィリア、それにルーダも……無事で何よりだ。一体これはどういう経緯でこうなった!?』
「街の東の方で紫色の煙が上がったと思ったらその次の瞬間にはもうその方角にあった建物が崩壊し始めてたの」
『そうか……2人は学園の初等部の子供達に避難するように伝えつつ、安全を確保してくれ。俺はアイツを叩き潰す!』
俺はフィリア達に指示を出しつつも剣を片手に目標まで迫った。
『オオオオ……』
『フッ、俺も随分と甘く見られたものだな……大人しくしていればすぐに終わる。招かれざる客よ……その命、この俺が貰い受ける!』
俺が剣を化け物の足に突き刺してみると、刺さり具合こそ良好だったが痛みに関してはいまいちだった。
『ルルルル……!』
突然足の筋肉が膨張し、俺の剣はたちまち俺の力では引き抜けない程に圧迫されてしまった。
そして一度化け物から距離を取り、街を破壊しないようによく狙いを定めながら炎の玉を放った。
『ギャァァァァア!』
『人為で生み出された命とはいえ……ただ殺めるのは俺のプライドが許さないからな。せめて火葬くらいはしてやってもいいぞ』
炎が消えてもなお燃やされた部分を痛がっていた化け物に対して追い打ちをかけるように炎を放った。
『グァァァァァア……』
まだ完全に肉体が完成しきっていなかった事もあり、化け物は骨1つ残さずに完全に焼滅した。
『来世ではちゃんとしたキメラとして好きに飛び回れ……』
さて、アヴィスは大丈夫だろうか……
「がはぁ……っ!?」
『オヤオヤ、モウオ終イデ御座イマスカ?魔王トモアロウ者ガソノ程度デハ……私ガココマデシタ意味ガ無イダロウ!』
アヴィスは骸竜と化したラヴィドの猛反撃により着々と追い詰められていた。
「絶対的に自分が有利じゃなきゃ何も言えねぇような奴なんかに……オレが屈するとでも思ってんのかぁ?」
なんて虚勢張ってるけど、正直もう限界が近い……左手は折れちまったし、足も打ち身が酷くていつ折れてもおかしくはねぇ……
『過激派ノ恐ロシサヲ思イ知リナガラ逝クガイイ!』
全身ボロボロで立っていられるのがやっとな状態のアヴィスにその剛腕が振り下ろされようとした時、黒色の嵐がラヴィドのその巨体を大きく吹き飛ばした。
「生きているな……アヴィス」
「ヘッ、そのふざけた首飾り……忘れた事はねぇぞ……カルラ!」
『ナ、何ダト……オ前ハ東国ノ……』
「そこまで分かっているのなら、わざわざ私から名乗る必要も無いか」
アヴィスとラヴィドの間に割って入るかのように現れたのは黒髪に黒い一対の翼を持つ少年だった。
『キ、貴様……崩御シタハズデハ無カッタノカ!?』
「悪いが私は嘘を付く事が好きなんでね。キミら過激派の連中を纏めて欺く為に一芝居打たせてもらったよ」
カルラは武器でもある紫色の杖のような形をした笛の先から刃を展開してその切っ先をラヴィドに向けた。