1時間目 目が覚めたら異世界にいて、目の前で女神が襲われてました
異世界転移……それは思春期を迎えた男子の誰もが一度は想像する事だ。僕も少しは憧れてる……でもそんなの起こる訳無いから僕はゲームという形で異世界を楽しんでいる。
『お前が記念すべき100人目の挑戦者だ。さぁ、お前の全力を俺に見せてみろ!』
『ムゲンズワールド·オンライン』というVRMMOで僕は魔王クロムとして勇者などを相手に城で戦いを続ける日々を送っていた。
僕の圧勝で幕が下りる為、いつかは本気で戦える相手が来ると信じるのもそろそろ馬鹿馬鹿しく思えてきた。
『もっと強くなれ……お前の腕ならばそう遠くないうちに俺の首を撥ねる事も出来るであろう』
魔王が城にいなきゃいけないなんて決まりは無い……よね?なら、いっその事城を空けて旅に出てみようか?
『眠いから今日は落ちるとしよう』
僕はメニュー画面を開くとログアウトの項目をそっとタッチして深々と溜息をついて現実世界へ戻った。
「明日から高校かぁ……中学の時は結局友達らしい友達は指折るくらいしか出来なかったからどうせ高校でも良くてそれくらい、最悪ボッチも頭に入れるか……」
VRMMOの世界に居過ぎたからか、現実がかなり退屈になっていた。でも本当は友達が欲しかった……人気者になりたかった。
もし異世界に本当に行けるとしたらもっと充実した生活を送ってみたい……僕は寝る寸前にそう思いながら目を閉じた。
(本当に魔王になる道を選ぶのかい?今ならまだ勇者として再スタート出来るんだぞ?)
夢の中とはいえ、随分と懐かしい声がした。僕はこの問いかけに対して「それでも世界を見る為に覇道を行く」と答えたのを覚えている。
『う……ここは……』
目が覚めると俺は見覚えのある場所……というか玉座に座っていた。
『そうか……戻ってきたんだな、俺の世界に』
それはいいとして……何だか体に違和感を感じるな。俺は元々この世界では半身機械の魔族だったから、ここまで自分の体に熱は無かった筈だ。なのにどうして……
それに、心做しか城自体が廃墟と化しているようにも思える……どれ、少しリハビリも兼ねて歩いてみるか。
玉座から立ち上がってゆっくりと城内を歩いてみると、壁やら床やらが何者かの手で荒らされた痕跡が残っていた。
『一体誰がこんな事を……』
俺が原因を考えようとした時、外の方から少女の悲鳴のような声がしたので思考を停止し、すぐにその場所へ向かった。
「へっへっへ……お嬢ちゃん、こんな所に1人とはどういう事かなぁ?」
「オレら魔術師の縄張りにノコノコ入ってくると危ないぜぇ?」
クロムの城の近くの森では薄い金髪の少女が4名程の魔術師の集団に囲まれ、今にも襲われそうになっていた。
「えっと、あの……私はただっ……」
「いいねいいね、そそる顔してんねぇ!」
「待てよジャビス、彼女は処女かもしれねぇぜ?ここで一旦我慢して、捕らえてからたっぷり楽しもうぜ?」
「お願い……触らないで……」
「触らないでって言われて触らない奴なんていないよ!へへっ、犯す前に味見と行こうじゃねぇか!」
少女が襲われると思って目を閉じた瞬間、その魔術師の集団は突如足元に展開された魔法陣から発せられた衝撃波に吹き飛ばされた。
『俺の庭で騒ぎを起こすか、愚か者』
「おっ、お前は……〈黒鉄〉の魔王……!さ、3年前に崩御した筈だろ!なのに……どうして生きているんだ!」
なっ、この俺が……崩御しただと……!?それに、3年前って……どういう事だ?
『フッ、愚か者にそんな事を答えている時間は無い。だが1つ問わせろ、お前は今3年前と言ったな。今は一体何年なんだ?』
「こっ、混沌暦3年だ……それがどうした!」
混沌歴3年……という事は俺が現実世界に戻って3ヶ月経っている間にこっちでは3年も時が経っていたと言うのか!?
『愚者たるお前らの為に俺が1つ知識をくれてやろう……俺は時を経て蘇ったのだ。こうなった今、俺が崩御するなど二度と無いと思え!』
俺は無詠唱で爆破の魔法を唱え、魔術師達に追い打ちをかけた。
「しょ、少年の如き姿になってもその力は衰え知らずという事か……」
『当たり前だろ。分かったのならば命果てる前に去れ!』
「く……そぉっ……覚えてろぉ!」
先程の連中、俺の姿を少年のようだと言ったな……違和感の正体はそれか。
『あ……』
ふと右の方に視線をやると未だにビクビクと震えながら金髪の少女がこちらを見ていた。しかもその目には今にも零れ落ちそうな大粒の涙が浮かんでいた。
『ま、待て……俺は決してお前を襲おうなどとは思っていない!ただ、俺の庭で馬鹿な事をしようとした奴らを懲らしめようと』
「そ、そうなんですか……?」
お願いだから泣かないで!
『だから……つまりだな……安心しろ!これに懲りたら二度とこんな物騒な場所を歩くような真似はするなよ?』
「は、はい……助けていただき有難う御座いました。えっと……魔王様」
『フン、感謝などいらん。後、俺の事はクロムでいい……分かったなら早くここを離れろ』
「あのっ……私、ここが何処か分からないんです」
うん?な、な、何だってぇ!?じゃあつまりこの子は完全に迷子……っていうか、迷子以前の大問題を抱えたままここに居たって事なのかぁ!?
『ここは俺の領地ヴィオン、そして彼処の建物は俺の城だ。さ、今転移の魔法陣を開いてやるからそれで街まで行け』
「あっ、えっと……変な事を言ってるかもしれませんが……」
『何だ?』
「|外界に降りてきた事自体が初めてなんです」
は……はぁぁぁぁあ!?それもう俺でもどうしようもない大問題じゃねぇかぁぁぁぁ!
俺は転移の魔法陣を展開しきった段階で目の前の美少女からの突然のカミングアウトに思わず驚きの余り絶句してしまった。
日頃から自分の作品を見てくれている方はご無沙汰しております、そしてこの作品から知ったよという方ははじめまして、よなが月と申します!
さて、今回の舞台は異世界!しかも学園!魔王と女神という事で一般的には正反対な2人が学園生活を満喫したりする物語となってます。
時にほのぼの、時にシリアス、前途多難な2人の日常をどうぞ最後まで見守ってくださいね!