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百合の花

作者: さゆり

入社3年目の仕事。毎日パソコンと向き合っては山積みの書類を順番に片付けていく。

書類は減ればまた足されていく一方だった。


私は知っている。

その足される書類の半分以上は「上司のやるべき仕事」である事。

何かと理由を付けて「これもお願いね」等と言って仕事を上司達は押し付けて来た。


私は本来仕事の帰れる時間を、毎日数時間過ぎてはひたすら仕事をしていた。

その時間は残業代も出ない。何かと上司からは嫌味を言われたり仕事で理不尽に怒られたりする日々。


だけどたまに私は物凄く反抗をする時もあるらしく、その後数日間は仕事の自分への負担等が減る。


それは上司がビックリして仕事を押し付けて来なくなるから。

でも私には反抗する勇気など無く、何時も何も断れない弱い人間なのに、何故だろうと何時も考えていた。


その不思議な感覚には、一つ心当たりがあった。


私は目を閉じると、不思議な世界観が見えてくる。

それはまるで私の心の中を描いている様にも思えた。


私は全身白いドレスを纏い。

白い百合のコサージュで一面に飾られたステージの上で、私はスポットライトを浴びながら何時も軽やかに踊っていて。


薄暗くて一面に並んだ観客席の、一番先頭の席のど真ん中には、黒い服を着た一人の女性が座っていて私の踊りを眺めている。


そして私が上司から怒られている時や悲しい時、泣きたい時に。

ステージの上で私は泣き、踊りをやめる。


その時、黒百合はステージに上ってきて私に言う。


「私とステージを変わりなさい」


挿絵(By みてみん)


私は泣きながらステージを降りて黒百合の踊りを眺める。

黒百合の踊りは少々荒々しいと言うのか、激しいながらも何処か美しく、百合の私には無い何かを描いている様に見えた。


そして黒百合の踊りが終わる頃には私は泣き止んでいて、ステージから黒百合は言う。


「ステージに戻りなさい」と。


そして私がステージの階段を上って、黒百合は階段を下る。そのすれ違う時に決まって黒百合は言う。


「私を受け入れなさい」と。


私は何時も答える。


「私の踊りと貴女の踊りは合わないわ。無理よ」


そしてまたステージで踊り始める私を、観客席から黒百合は眺め始める。


そしてふと目を開けると目の前には上司がいる。


「すまなかった。確かに君の言う通りだ。」


私は呆然としながら仕事の席へと戻る。

その日の仕事は最低限で済み、私は定時時間で退社した。


その時に男の後輩が私に寄って来て言う。


「たまに百合さん、人が変わった様に上司に関係無く怒る時がありますよね…僕本当にカッコイイなって思います」


「私にはそんな勇気無いよ」


黒百合は私が泣いて踊りをやめると、何時も助けてくれる。


その日の夜に布団の中で、私は日々の疲労からか悲しみに襲われ涙が溢れた。

目を閉じると、やはりステージの私は踊りをやめて泣いている。


「もう限界…」


そう言って踊りをやめる私。


すると黒百合はステージに上がってきて私に囁く。


「私と踊りなさい」


泣き崩れ膝を付いてる私は驚きつつも、黒百合の差し伸べる手を取った。


すると黒百合は私の手を引っ張り、踊りを始める。


やはり黒百合は少々荒々しい様な激しい様な踊りをする。次第に私も黒百合に釣られ踊り始める。


黒百合の踊りは激しながらも私の踊りとしっかりマッチングしていて、私の踊りを尊重している様にも思えた。


そして黒百合は言う。


「私を受け入れなさい」と。


私は答える。


「やっぱり無理よ!踊りに着いて行けない!」


「百合の優しさは間違っているわ。それは優しさでも無い。ただの都合の良い人間よ。」


私なりに何となく意味を理解した。そして私は答える。


「分かったわ」


すると黒百合の姿は、二人踊る中で蜃気楼の様にボヤけ始め、最終的には私の身体の中に取り込まれるかのように消えていった。


すると不思議と私には自信と勇気が満ち溢れてきた。普段表現出来ない踊りも軽やかに踊れた。


そして私は朝に目が覚める。


その日から私の目を閉じると見えてくる、あの不思議な世界観は変わった。

辺り一面に少しだけ灰色がかった百合の花が広がり、他にも草木があってとても色鮮やかで、陽光の光が眩しい世界観へと。


そこで私は軽やかに踊り続ける。


ある日、普段通り仕事をしていると上司がやって来て言った。


「百合さんこれもお願いね」


私は書類を受け取り眺めると上司に一言言い放つ。


「この書類の担当者の欄、貴方の名前ですよね?貴方がやるべき仕事でしょう?」


「あっ、本当だ!気付かなかったよ。ごめんね。」


「御自身の仕事ぐらい把握してないと、駄目だと私は思いますよ。」


我ながらパッと出た言葉に驚いた。

そして胸に手を当てて私は呟いた。


「黒百合…ありがとう。貴女の言葉の意味がやっと分かったわ。」











最後まで見て下さった方々ありがとうございました。


ちなみにお話はフィクションです。


ですが、私は似た様な感覚を味わった事があります。

普段断れない事や理不尽な事を言われた時に、ふと人が変わったかの様に反論した事がたまにありました。


私はその自身の感情を「黒百合」と呼び、私はその感情を常時持ち合わせられるように努力していました。


その反論した際の内容も感情任せではなく、ちゃんとした真っ向な意見だからか、上司もそれに対して反論してきませんでした。


百合の花の意味は「純粋」「無垢」「威厳」。

主人公の百合は、優しく純粋無垢な人間。

上司からの理不尽に与えられた仕事等も取り組みながら何時も思っていた。

理不尽だと自身で理解していても「これが優しさなのだと」考えては乗り越えていた。


しかし黒百合からすればそれは「優しさ」でも何でもなく、単なるお人好し、都合の良い人間にしか見えない。


黒百合は私(百合)を守る為の存在。

花言葉で言う主人公に足りない「威厳」を意味する存在でもあると考えていて。


私は何時からか自分を守る事を忘れて、ただの都合の良い人間となっては「自分は優しい人間だから」と適当な理由を付けて自身を守る事をやめていた。


それを黒百合は気付かせてあげたかった。

黒百合は私の中の不満や理不尽な事を断る、そう言った勇気等といった。

喜怒哀楽で言う「怒」を意味している存在だと個人的には考えています。


ちなみにお話に登場した「ステージ」は私なりに「人生」を意味していて心の中を表現した物です。


ではまた♪♪

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