第九話 港町と配達と
「ゲンさんおはよー」
早朝ギルドにいた俺にマレットが声をかける。
冒険者の朝は早い、みんなその日暮らしの為少しでも割のいい仕事を探さなくてはいけない。
俺も例に漏れず、依頼の書かれた掲示板を注目していた。
「相変わらずロクな依頼がないな。」
俺は掲示板から目を離し、マレットのいるバーカウンターに近づく。
「まぁ冒険者なんて、名前だけで雑用係の何でも屋だからな。」
マレットが笑いながら答え、ホットミルクを差し出す。
「ありがとな、畑の草刈り、ドブさらい、ペットの探索どれも重労働で低賃金ときたもんだ。」
俺は差し出されたホットミルクを飲みながら頭を抱える。
こんな仕事では毎日朝から晩まで働いても子供たちの収入の足元にも及ばない。
かといって、子供の金で遊び惚けるほど落ちぶれていない。
「まぁそう気を落とすな、たまには息抜きも必要だぞ。家の仕事もあるんだしたまには休んだらどうだ。」
マレットは提案してくる。
「そうはいってもなー」
マレットの好意を感じつつも俺は言葉を濁す。
「んじゃ、仕事ついでなら大丈夫だな?実は港町のバロックに届け物があるんだが、ゲンさん行ってもらえるか?ちゃんと報酬も出すぞ。」
「港町かーずっと王都から離れずにきたから、他の町も見てみたいとこだな。」
「だろ?息抜きついでに家族で行ってこいよ。」
マレットは上機嫌で提案してくる。なんか怪しい。
「いったい何を企んでるんだマレット?」
「さすがに感づいたか。実は最近バロックへ行く途中の街道にモンスターが出るみたいでな。そのせいで物資の輸送にも護衛がついて輸送費が値上がりしているんだよ。」
マレットは申し訳なさそうに伝えてくる。
「なるほど、そこで俺に頼って安く届けようってことか。」
「正確には、コウタとセナちゃんに頼ってるんだけどな。」
マレットは正直に話した。わかってはいたさ、俺にモンスターをどうにか出来る訳がない。
「しかし、あいつら、特にコウタが行くと言うかなー。最近特に反抗的だからなー。」
「なーに、セナちゃんさえ抱き込めば後は付いてくるんだろ。」
マレットには俺たちの言霊については話していた。
「なるほど、それなら何とかなりそうだ。」
俺は割高な報酬につられ、マレットからの依頼を受けることにした。ついでにホットミルクと、モーニングセットもタダにしてもらえたしな。
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「というわけで、セナ、一緒に行かないか?こっちに来てからずっと王都で働いてたし、たまには家族水入らずで旅行でも。」
俺は家に帰ると早速セナの抱き込みを開始した。
「うーん。神殿の休みさえ取れれば大丈夫だけど。」
「それなら大丈夫、カシロフには話もつけてある。」
俺は、帰る前にカシロフの元へ行き酒を手土産に話はつけておいたのだ。
「神官長の許可があるなら大丈夫よ。海かー、いつぶりだろう。」
セナはすっかり旅行気分である。これでコウタが渋ろうとも【金蘭之契】で我々の同行を強制できる。
計画通りである。
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出発日の朝 -王都城門にて-
「さて、準備も整ったしそろそろ行くとするか。」
俺はマレットからの依頼品である小包をバックに詰め、みんなに出発を促した。
「地図は持ったし、着替えもある。水と食料も、うん忘れ物はないわね。」
セナはレンタルした馬に括り付けられている荷物を確認して告げた。
「まったく、なんで俺まで。」
いまだ渋っているコウタも武器の手入れをしながら旅支度を進めていた。服装は俺やセナのように動きやすい布の服の上に、皮の鎧を着け武器は小ぶりな鉄製の短剣を二本腰に携えていた。
もう一本、背丈ほどある大きな剣が馬の背に括り付けられている。
どうやら街道のモンスターの噂は騎士団にも届いていたようで、最低限の戦闘準備は済ませてきたようだ。
「愚痴ってないで行くぞコウタ。」
俺はコウタの装備に安心感を覚え、一路バロックへと出発するのだった。