第八話 家族と言霊と
「ただいま、お父さん。」
セナと共に串焼きのいい匂いが漂ってくる。
「お帰りセナ、もうすぐご飯できるぞ」
「ありがとう。お兄ちゃんは、まだ見たいね」
今朝あれだけ喧嘩をして出て行ったので、普通なら数日は帰って来ないかもしれない。しかし、俺はちゃんと三人分の食事を用意していた。
「セナ、また、連れ戻してもらえるか?」
俺はセナに、コウタのことをお腹する。
「えぇ、そのつもりよ。」
セナの言霊【金蘭之契】だ。
この力は様々なものを繋ぎ止める。
そう、家族の絆もだ。
セナはあの鳥居で、みんなとずっと一緒にいることを願ったそうだ。
それがこの力に現れたのだ。
「ただいま」
しばらくしてコウタが帰ってきた。
「お帰りコウタ、飯できてるぞ。」
「あぁ、ありがとな。」
セナの力のおかげか、辿々しくも家族揃っての夕食となった。
「お兄ちゃん今日も傷だらけね。」
セナがコウタの顔を見て言ってくる。
「あぁ、あのドS団長にやられた。」
コウタはいま王国騎士団の訓練兵だ、素質に加え強力な言霊もあり勇者の再来とまで囁かれている。
【唯我独尊】コウタが一人でも生きていけるだけの力を願って得た言霊。その力は単純ながら強力無比。使いこなせばまさに勇者となるだろう。
「いままで木刀振り回してるだけだったからな、正統派の技術には及ばないか」
俺はコウタの認識の甘さを指摘する。
「いつかは見返してやる。」
コウタは箸を握り潰しながら応えた。この根性だけはたいしたものだ。
もちろん言霊を使えるのはコウタとセナだけではない、俺も使える。使えるが使えない力だ。
それは【家内安全】、あの時そこまで深く考えずに願った力だ。能力は家族の安心、安全を願う。願うので効果のほどはイマイチ実感できない、まさに家で待つ主夫の鏡だな。
セナよコウタよ家の事は任せろ、だが家計はお前達に任せた。なんとも泣けてくる話である。