第七話 愚痴と主夫と
話は現在へと至る。
「ヒモ親父だよ!!こんな酷な話しってある?!ねぇマレット」
俺はバーのカウンターに突っ伏したままマレットと呼ばれたマスターに話しかけた。
「ゲンさん今日も荒れてるねー」
マレットは、王都の冒険者ギルドのマスターである。と言ってもこの国では冒険者の数は少ない。
ハローワークもびっりの水晶玉のおかげで、みんな悩みなく素質通りの職業に就くからである。
「才能なんて無くても人は何でもできるんだよ!」
「うん、ゲンさんいいこと言うねー」
「しかし、人の素質を見抜くなんて凄い技術だな。いったいどんな仕組みなんだ。」
俺は感心してマレットに質問する。
「さぁ、詳しいことはわからんがそこまで古い技術でもないぞ。」
マレットは答える。
「そうなのか、それは世紀の大発見だな。」
「あぁ、この水晶が発明されてから世界はまさに変わったな。みんな自分の役割を理解して生活している。ほんとにつまらない世界だ。」
マレットも無能力とう訳ではなく、彼の場合は素質とやりたいことが違ったのだ。
安定した生活を捨て、冒険者などどいう不安定な職を選んだのだ。俺の場合は渋々だけどな。
「なんだゲンタ、またここで愚痴ってるのか?」
そう言って現れたのはこの街の神官カシロフである。
「そんなんだから神に見放されて素質も授かれないんだぞ。」
「けっ、神には愛されたからここにいるんだよ。」
俺はそう呟くとグラスの中身を飲み干した。
「ほら、セナちゃん達ももうすぐ帰ってくるぞ、こんなところで呑んでていいのか!」
マレットはグラスを片付けながら言ってきた。
「ヤバい、帰って夕飯作らないと!」
俺は現実に戻り、急いで勘定を済ませた。
「んじゃまた明日な、マレットご馳走さん」
「セナは帰りに串焼き買ってくんだって言ってたぞー」
カシロフが言ってきた。彼はこう見えてセナの務める神殿の神官長だ、セナの上司にあたる。
「おっ、俺の好物だな。んじゃさっぱりしたサラダでも作るかな。」
俺はウキウキで献立を考え、家路を急いだ。
「まったく、すっかり主夫だな。」
「あぁそうだな」
店内の2人は誰にともなく呟いた。