白紙のページに
昼間から賑わいのある酒場の一角、カウンター席で頭を抱える男がいた。
見慣れた光景なのか酒場の主人も気にすることなく黙々と営業を続けている。
「今日の晩飯何にしようか、悩むな・・・」
「ゲンさん、酒場で昼間から夕飯のメニューに悩むって・・色々間違ってるぞ。」
「だけどマレット、他に行くとこないし。家事も終わて依頼でも受けようかと来てみても、相変わらず無理なクエストばかりだし。」
「それはゲンさんが攻撃力特化の無茶なステータスにするからだろ?そんな紙装甲じゃどこも雇ってくれないぞ。」
「後悔先に立たずとは、まさのこのことだな。」
ゲンタは、いつもの生活に戻り、マレットの営む冒険者ギルド兼酒場で愚痴を零していた。
ただ、スミレとの最終決戦で自分のステータスを極振りしてしまった為、日常で受けられるクエストがなくなってしまったのだ。そのため、この世界でもゲンタは主夫としての日常を送っていた。
「なんだゲンさん、昼間からくらい顔してるな?二日酔いか?」
「お前と一緒にするなカシロフ。」
頭を抱えるゲンタに陽気に話しかけてきたのはカシロフだった。
彼も前と同じくこの街で神官として働いている。
「これから議会かカシロフ?」
「あぁ、色々問題は山積みだからな。議題に事欠かないよ。」
この世界では王制は廃れ、民主主義が台頭していた、カシロフも国の代表として議員に名を連ねていた。
「おーい、カシロフ!そろそろ行くぞ!時間じゃ。」
店の入り口で声を上げるのは元国王のスミスだ、いまや国一番の鍛冶屋として一介の職人となっている。
彼も議員の一人であった。
「それじゃ行かないと、ゲンさん良かったら今晩一杯どうだ?」
「悪いなカシロフ、今日はみんな変えってくるから夕食の準備で忙しくてな。」
「嫁さんも帰省か?単身赴任で愛想つかされたのかと思ったぜ。」
カシロフは笑いながら去っていく。
マリはいま一緒に住んではいない、彼女は隣国で首相をしているジンについて秘書をしている。
月に数度暇を貰ってはこうして家に帰ってきているが、職務も忙しいらしく一人で家を借りてそちらに移り住んでいた。
「いま戻った。」
店の扉を開けて一組の男女が入り込んでくる。
「お帰りコウタ。首尾はどうだ?」
「クエストは滞りなく終わったよ。」
「もう、何言ってるの!そんな報告で分かるわけないでしょ!!」
コウタとリリーだ、彼らはこの国で冒険者として働いている。
順調に実績を重ねた彼らはすでにこの国では名が知られていた。
「親父、またこんなとこで時間つぶしてるのか?」
「ちょっとお父さんに失礼でしょ!」
「いや、いいんだ。ありがとうリリーちゃん。コウタ、今日は早く帰ってくるのか?」
「あぁ、依頼も早々に片付いたからな。」
「夕飯作って待ってるぞ、良かったらリリーちゃんも一緒にどうだ?スミスは議会で遅くなるんだろ?」
「えっ!いいんですか?やったぁ、それではお言葉に甘えて。」
「おい、少しは遠慮しろ。お前この前も来ただろ?」
「いいじゃない。お父さんが、いらっしゃいって言ってるんだから。」
前の世界での王女という肩書が下りたお蔭か、リリーは明るく砕けた性格へと変貌していた。皆はそれが喜ばしい変化だと思っているようだ。
「うちの家計は女性が強いからな、コウタも大変そうだな。」
ゲンタは笑いながら息子に話しかけた。
「ゲンさん、セナちゃんはまだ、」
不意にマレットが話しかけてくる。
「あぁ、明日からまた世界を周ってくるそうだ。」
すべての人が素質を奪われてこの世界は生まれ変わった。それと同時にいままで均衡を保っていたモンスターとの戦いで人間側は大きな損害を出すようになった。
それを見かねてセナは人々を癒すべく旅立をしていたのだ。
「しかも、どこの馬の骨とも知らぬ男が一緒とは。やはり俺も付いて行くべだった。」
「過保護も度が過ぎると嫌われるぞ。」
ゲンタの発言に冷めた目でコウタが告げる。
「かわいい子には旅をさせろか、まぁいつでも繋がってるから心配はしていないがな。」
離れていてもゲンタたちはセナの言霊で繋がっていた。
「さて、帰って夕飯の支度しますか。」
こうしていつもの日常、新たな生活がまだまだ続いていくのだった。
ご愛読下さりありがとうございました。
これにて一応の完結となります。
後日談や回収されていない話しなど、また機会があれば書いていきたいと思っています。
その時はまた、読んでくださると嬉しく思います。




