最終話
【乱れ突き】!!
目にも止まらぬ速さの突きがマリへと襲い掛かる。
彼女はそれを軽快なステップでかわしていく。
スミレとの力の差は歴然としているため攻撃は無意味と悟り、マリから仕掛けることはなく逃げの一手に徹している。
「レベル1でこれだけ動けるのはさすがですね。しかし体力もそう無尽蔵ではないでしょ?避けてるだけでは勝てませんよ。」
「今うちの人が攻撃の準備してるから待ちなさいよ。だから、大人しくしてくれてると有難いんだけど。」
「そんなブラフは通じませんよ。まったく、魔力さえ十分にあれば特大攻撃技で一気に四人とも片付けてやれるのに、こんなチンケな技じゃ埒があきませんね。」
マリは何か準備をしているゲンタを察しつつ、時間稼ぎを行っていた。
「お父さん何か策でもあるの?」
倒れたコウタを介抱しながらセナが父に語りかける。
「いまそれを探しているところだ、もう少し時間をくれ!」
ゲンタは自分のステータスを睨みながら答える。
すでにステータスポイントは振り終わったがそれでも力は100、まだまだスミレの足元にも及ばない。
そこで今度は、スキルについて確認していた。
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スキルポイント 10
スキル▼
・追撃 1 (すべての攻撃に補正が付く)
・三段突き 1 (三連続の刺突)
・乱れ突き 3 (複数回刺突を行う、回数は素早さに依存する)
・急所突き 3 (敵の急所を攻撃し倍のダメージを与える)
・
・
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スキルはどうやらポイントで覚えるようだ。
ゲンタのポイントは10、大技は覚えられないし恐らく魔力が少なくて使えないだろう。
この中でスミレを倒せる技を慎重に見極めていく。
「・・うっ!!」
「お兄ちゃん大丈夫!?」
そんな中、先ほど倒させたコウタが目を覚ます。
「あぁ、このくらいなんでもない。親父、やつを倒せそうか?」
コウタは現状を確認しゲンタに問いかける。
「可能性はあるが、問題は攻撃が当たるかだな。上手く注意を逸らせれば、」
ゲンタはスキルを確認しプランを練っていた。
「なら、のんびり寝てられないな。」
コウタはゆっくりと起き上がりスミレに立ち向かおうとする。
「お兄ちゃん無理よ!右手もそれ動かないんでしょ!?」
コウタの力なく垂れ下がった腕をみてセナは叫ぶ。
「大丈夫、大丈夫だセナ。俺は親父を信じてる、もちろんお前もお袋もな。」
コウタは笑ってセナに話しかける。
「体痛いから一回だけしか無理だぞ、外すんじゃねぇぞ。」
コウタはゲンタに話しかけ、そのままスミレと戦うマリの下へと急いだ。
「セナ、お前ももう少し頑張ってくれ。」
セナも強がっていたが、先の戦争時に無理をしていたため言霊の力もセナの体力も限界が近づいていた。
「みんなに守られてばかりじゃないんだから。」
セナの笑顔にゲンタはやる気を奮い立たせる。
「よし!いくぞ!!」
二人もコウタに続いて駆け出した。
「ワラワラと群がってきて鬱陶しい!!これは使った後すごい疲れるからやりたくなかったが、仕方ない。【狂化】!!」
スキルを発動したスミレの筋肉が膨張しいその力は赤いオーラとなって可視化する。
「自分の力を数倍にして手あたり次第敵をせん滅する!いままでの温い攻撃とはわけが違うぞ!」
そう言って駆けだしたスミレのスピードは先ほどまでと桁違いで、何とかかわせていたマリも彼を見失った。
「!!一体どこに!!きゃぁ!!」
一瞬でマリの背後に移動したスミレはそのまま拳を叩きこむ。
「コレデ、オワリダ!!」
野性的な感情を露わにしたスミレは更に追撃をかける。
【家内安全】!!!ガキン!!!
寸でのところでゲンタの言霊が間に合い、マリをスミレの攻撃から救う。
「マリ!コウタ!奴の注意を惹いてくれ!セナは足止めを!!」
「「「わかった」」」
三人はそれぞれの役割を理解して動いていく。
マリは言霊により、有り余る才能を用いてスミレの注意を惹く、
コウタはマリが捌ききれない攻撃を身をもって受ける、その際にゲンタの言霊でサポートが入る。
セナは相手の体制を崩すべく、言霊で文字通りの足止めを行っていた。
ゲンタは皆の動きを確認して手に入れたばかりのスキルを使っていく。
スキル【背水の陣】!!
このスキルは防御力が著しく落ちるがその分攻撃力が二倍にも跳ね上がる。
これで攻撃力は200、
【急所突き】
急所に当たると攻撃力は倍になる、これで攻撃力は400。
ゲンタは皆が作ってくれた隙をつき、スミレの急所に攻撃を仕掛ける。
【三段突き】!!!
一回、二回とスミレの体にゲンタの攻撃が当たっていく。
ここまででスミレの防御力を上回った、止めの三回目の攻撃が当たる瞬間、スミレも意地でカウンターを仕掛けてくる。
「・・・・・」
「・・・・・」
二人の攻撃は同時に相手に届き、そのまま言葉もなく双方倒れていく。
「お父さん!!!」
セナはゲンタに駆け寄り急いで体を起こす。
マリとコウタも父親の近くに行きその顔を覗き込む。
「・・・グッ!!ガハッ!!無駄だ、防御を捨てた状態で【狂化】での攻撃を受けたんだ、無事でいるわけがない。」
スミレはいち早く意識を取り戻したがすでに動く気配はない、彼もまたすべてを出し尽くしていた。
「そ、そんな・・・」
セナは動かぬ父を前に泣き崩れる、マリもコウタも言葉を発することができなかった。
そんなゲンタの懐から一枚のお守りが零れ落ちる、お守りはそのまま砂となって姿を消した。
「・・んっ、なんだ?みんなどうしたんだ?」
その時、力尽きたはずのゲンタが目を覚ます。
「お父さん!!」「親父!!」
奇跡を前にセナとコウタは驚き、マリは黙って涙を浮かべる。
「そ、そんな!どうして!?・・・まさかあれは『神の御守り』?一度だけ身代わりとなるアイテムか?」
スミレは驚いて告げる。
「そうか、前遺跡で爺さんがくれたやつか、こりゃちゃんと崇めないと罰が当たるな。」
ゲンタは笑いながら話す。
ゲンタはその後コウタに抱えられて立ち上がると、ゆっくりスミレに近づく。
「決着だな。親父どうするんだ?まさかこのまま見過ごすわけじゃないだろ?」
コウタは父に向って問いかける。
ゲンタはしばらく悲しい目をスミレに向けていた。
「その前に確認したいことがある。セナ!」
ゲンタはセナを近くに呼び寄せて尋ねる。
「お前の言霊で繋がりのある人物を探して欲しい、できるか?」
「思いが強ければできると思うけど・・・」
「なら大丈夫だ、彼ら親子の絆はピカイチだからな。」
「まさか!?」
ゲンタとセナの会話から何かを察してスミレは声を上げる。
「この世界にいるキキョウを探してくれ!」
「なにを言い出すのかと思えば・・・」
スミレは呆れた声でゲンタを見上げる。
「この世界に転生されている可能性もあるだろ?」
ゲンタは真面目に答える。その間もセナは集中して親子の糸を手繰り寄せる。
「・・・見えたわ。」
スミレはセナの言葉の続きをも守る。
「今はまだか細いけど、キキョウちゃんはこの世界に息づいてるわ。恐らく生まれかわって、まだ赤ちゃんか、もしくはこれから生まれるかだと思うけど。私の力ではここまでが限界。」
セナは力を使い果たしその場に座り込んでしまった。
マリがすぐさま駆け寄り我が子を介抱する。
「・・・そうか、キキョウはこの世界にいるのか、」
スミレはそう呟くと、立ち上がり拙い足取りで歩き出した。
「どこに行くんだ?」
返事はわかりつつもゲンタは問いかける。
「もちろん我が子を探しにさ、また生きる意味が見つかった。我が子にまた会えるまで見逃してもらえないか。」
ゲンタは周りで佇む家族の顔を見る、それぞれが返事をすることなくとも顔を見れば気持ちは伺い知れた。
「今度顔見せるときは二人で来いよ。」
スミレは小さく頭を下げると、ゆっくりと去って行った。
「さぁ、俺たちも家に帰ろう!もうクタクタだ。」
「この世界に帰る家があればな、」
「みんなが集まればそこが私たちの家よ。」
「そうだよお兄ちゃん!」
四人は笑って歩き出した。




