第五十八話 セナと戦場と
国王領と魔王領のちょうど中間地点に位置する不毛の大地、そこでは今まさに両軍が激突し激しい戦いが繰り広げられていた。
後方から様々な呪文が放たれ、前線では屈強な兵士と多種多様な魔物が入り乱れて武器を交えている。
上空には空を羽ばたく鳥や羽の生えた獣の姿も見え、それに向かって多くの呪文や矢が投擲される。
両軍ともに被害は甚大でいくつもの命が散り、それ以上のケガ人を輩出している。
戦場の後方には仮設で作られた野戦病院が設置され、治療の為たくさんの司祭が運ばれてくるケガ人を手当てしている。
「そこ空けて!急患通るよ!!」
「もっと包帯持ってきて、ほら強く押さえないと血は止まらないよ!」
簡易で作られたテントの中ではすでに満員近くまでケガ人が寝ていた、司祭たちが慌ただしく回復の呪文を唱えケガを治療しているがそれでも間に合わない程に重傷者が次々に運ばれてくる。
【ヒーリング】
眩い光に照らされて、先ほどまで切り裂かれていた胸の傷がみるみる塞がっていく。
「とりあえず処置は終わりました、まだ失った体力は戻っていませんから安静にしてくださいね。」
セナは患者に告げると、休む間もなく次の患者の下へ移っていく。
セナは神官の中でも高度な回復呪文の使い手でもあるので、重傷者を中心に次々と治療していった。
「セナ!こっち手伝って!」
遠くでセナを呼ぶ声がする、そちらには親しくしている神官仲間のマリアがいた。
重傷を負った兵士を治療していたのだ。千切れた腕からは止めどなく血が流れ、マリアは必死の姿で止血していた。
「セナ急いで血が止まらないの!」
「わかったわ、取り合えずやってみる。」
すでに大量の血を流しているためか、兵士の意識はなく顔も青ざめている。
【ストップ】【ヒーリング】
セナは呪文により腕の一部の時を止める、そこまで長い時間止めていられないのでそのあと急いで千切れた腕の組織を再生させ止血させる。
数分後には腕からは血も止まり、傷口も塞がっていた。
「やっぱり千切れた腕は元通りにはならない?」
マリアは包帯を巻き直しながらセナに尋ねる。
「えぇ、相変わらず力は戻ってないわ。」
この前の襲撃時間からセナの言霊は発動しなかった、すでに傷は癒え体力は回復していたが力だけ戻らない。
セナがコウタたちと一緒に魔王城へ先行しなかったのも力が戻っていなかかったからでもあった。
「ごめんなさい、言霊の力さえあればちゃんと腕も治すことが出来たのに。」
セナは患者の前で力なく項垂れる。
意識を取り戻した兵士はセナの顔を見て告げる。
「聖女様、顔を上げて下さい。あなたのお陰で私はこうして生き長らえたんです。感謝こそすれど恨むことなんてもってのほか。」
腕を失った兵士は無理やり笑いかけながらセナに感謝の言葉を告げる。
その後マリアに看病され別の部屋へと移されていった。
「言霊は強い思いの力、今の私は家族が信じられない・・・お母さんどうしてなの。」
セナは自分を殺そうとした犯人が母親であることを聞かされてから家族の絆に疑問を感じていた。
それはやがてセナから言霊の力を奪い、弱体化させていったのだった。




