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転生家族〜異世界で主夫しています〜  作者: mikami_h
第四幕 少女と世界の物語
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第五十三話 黒と潔白と

会議室の扉がゆっくりと開き、中から人々が出てくる。

その流れを止めないように廊下の隅で待機していたゲンタは我が目を疑った。


「マリ!どうしてお前が拘束されているんだ!?」


「彼女は聖女殺害未遂の犯人である。近づくことは許さん!」


マリに近づこうとした俺に対して、連行している騎士はその歩みを阻止する。

マリは普段と違い虚ろな目で遠くを見つめているようだった。

続いて出てきたコウタに目が行き、俺は急いで近づく。


「コウタ!どうしてマリが拘束されているんだ?犯人なんて嘘だろ?」


「親父、奴が犯人なのは間違いない自白したからな。だがこれだけで済ませるつもりはない、魔王にもちゃんと責任は取ってもらう。」


コウタの怒りは未だ収まっておらず、事態はより深刻なものへと進んでいることが伺えた。

会議室内を見ると未だに席に座っている魔王とその面々、俺は一抹の望みをかけて彼らに近寄る。


「平くん、マリが犯人な訳ないのはわかるよな?何かの間違いだ、母が娘を殺すはずがないだろ?」


「ゲンタさん、先輩は自ら進んで裁かれに行きました。私は彼女の意思を尊重するだけです。」


ジンは冷たく言い放つ。


「そんなに簡単に部下を切り捨てるのかよ!見損なったぞ!」


俺は声を荒げて詰め寄ると、後ろに控えていた魔王の側近に取り押さえられる。


「いいんだ、彼を話してあげてくれ。ゲンタさん、前も言いましたがこのシナリオはもう書き換えられないんです。このまま戦いが起こることもね。」


ジンは俺に目線も向けずに悲しい声で伝えてくる。

俺は自分の無力さを知りいたたまれなくなる。

拘束から解かれた俺は、そのまま部屋の外へと連行され扉は再び固く閉ざされたのだった。


閉ざされた室内ではジンをはじめ魔王の側近たちが今後について話し合う。

その様子を面白そうに伺う二人もいた。


「クスクス、なんて残酷な物語なのかしら。お父さん、お話はそろそろおしまいなの?」


父と呼ばれた男性は優しく笑いながら答える。


「そうだねキキョウ。姫は目覚め魔女は裁かれておしまい。」


「えー魔女さん可哀そう。」


「そうだね、最後ぐらいは彼女の意思で終わらせてあげようか。」


二人はいまだ盛り上がる魔王軍の中で、ひと際異彩を放っていた。


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ジンへの説得を諦めた俺はマリの居場所を聞くべくスミスの部屋を尋ねた。


「スミス!拘束したマリはどうした?」


「ゲンタよ今更それを聞いてどうする?」


「どうするって、もちろん真実を聞いて彼女を助けるに決まってる。」


「その彼女が犯人だと自白し裁かれるのを望んでいるのにか?」


「そんなの嘘に決まってるだろ!」


「これはもう一個人がどうにか出来る問題ではないのだよ。ワシにもどうにも出来ん、何かしらの結末を用意しないと国民に対して示しがつかんのだ。」


スミスは諭すように俺に言ってくる。

もちろんそれで納得出来る訳ではないが。


「裁かれるといってもすぐにという訳ではない、二、三日は猶予を与えよう。彼女への面会くらいなら認めよう。それが精一杯じゃ。」


スミスは申し訳なさそうに告げる。

俺はスミスの精一杯の好意を受け、一礼して黙ってその場を後にした。


城の地下へと続く階段は薄暗く壁を触ると湿っていた。

足を滑らせないように注意しながら階段を下ると、鉄製の扉があり、その前に警備兵が一人立っていた。

スミスが手を回してくれたのか、警備兵はすんなりと扉を開け奥へと案内する。


「変な気は起こされぬよう。」


扉を潜る俺に向かって警備兵は釘をさしてくる。どうやら完全には信頼されていないようだ。

俺は黙って頷きながら扉を潜り奥へと足を進めた。

室内は薄暗く、通路を挟んで両側に鉄格子の付いた牢屋が並んでいる。

本来は複数人入る程の大きさだが実際には空きも目立ち一人一室は余裕で与えられていた。

俺は囚人たちと目を合わせないように塞ぎがちに各牢を確認しながら奥へと進んだ。


一番奥まで来ると、錆びついた鉄格子の奥のに背を向けて佇む見知った人影を見つけた。


「マリ。」


俺は静かに声をかける、牢屋の主はゆっくりとこちらを振り向く。

先ほどから数時間も経っていないいないのに、マリの顔はすっかり憔悴していて目にも生気がかんじられなかった。


「おい!マリ聞こえるか!?返事をしろよ。」


俺の声にも反応はなく、まるで魂を抜かれているようだ。


ピシッ、パリン!


その時、マリの胸元からヒビの入った鏡が滑り落ち地面と衝突して割れた。

俺もマリも割れた鏡を見つめる、鏡は破片を光に変えてやがて姿を消した。

そして、鏡の光に照らされたマリの瞳は先ほどまでとは違い、光が宿っていた。


「ここは?」


「マリ!正気に戻ったか!?」


「ゲンタ?あんたなんで牢屋に入ってるの?」


惚けた事を言ってくるマリに俺は今までの事を掻い摘んで話した。


「なるほど、すっかりしてやられたね。いくら記憶がないとはいえ、セナを殺害しようとしたことは間違いなさそうだし、言い逃れはできないね。」


「マリ!今すぐここから逃げよう。」


「馬鹿言うんじゃないの、ここで犯人が逃げたらそれこそ手詰まりだ。王国側にそれこそ大義名分を与えちまう。魔王軍とは無関係を主張すれば、少しは火種も小さくてすむ。」


昔から一度言ったら聞かない性格のマリは頑なに牢屋を動こうとしなかった。

まるでそれが自分の役目と言わんばかりに、俺はしぶしぶその場は納得し牢屋を後にするのだった。


「それなら、俺が違った形で助ける。まだ時間はある、方法はまだ思いつかないが、必ず助けてやる。」


「あぁ、期待してるよゲンタ。それと、あたしたちをこんなシナリオに巻き込んだ黒幕は今も監視の目を緩めていない。何をするにしても誰も信用しない方がいい。」


俺の決意にマリは信頼を寄せるように微笑んだのだった。


街に出ると聖女殺害容疑の犯人が捕まったことで話しは持ちきりだった。

中央広場には立て札も出ていて、処刑は二日後の広場で火炙りになると書いてあった。

俺は残された時間の少なさに焦り、一人悶々と考えを巡らせるのだった。


翌日、俺は広場にて着々と進む処刑台の前に立っていた。

一段高い足場が組まれ、高台のステージの上にはマリを括り付ける為の木の棒が設置されている。棒の下には薪が組まれ、当日火が付けば木製のステージごと燃え上がるだろう。


「一度火が付いたら迂闊に近づけないな、でも衆人環視の中堂々と助け出すわけにもいかない。マリは処刑されたと思わせないといけない訳か。」


いい考えも浮かばずに時間は刻一刻と過ぎていく、日も沈みかけると俺はとぼとぼと肩を落として家路に着くのだった。


「親父、火!!」


うわの空で夕食の準備をしていると、背後でコウタの叫ぶ声が聞こえる。

セナは意識が戻ったが憔悴しきっていて数日は入院が必要だった。命に別条がなかったので、俺とコウタは安心して胸を撫でおろした。

コウタがボーっとしている俺の近くにきて料理の火を止める。

気づけば火柱は天井近くまで燃え上がっていたのだ。俺は鍋を火から外し、慌てて消火した。


「ボーっとして!火事になったらどうすんだ!?」


「いや悪い、考え事していてな。まぁ火事になっても家族はしっかり守れる訳だし、安心しなって。」


笑って答える俺にコウタは呆れた様子で見ていた。

その時、俺の頭に一つのアイデアが閃いた。


「これならマリを救えるかもな」


俺は急いで自分のアイデアを纏める作業にはいった。今は時間がない、急がねば。

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