第四十六話 魔王と主夫と
「うぅ、飲みすぎたー。」
俺は唸る頭を抱えながら布団から身を起こす。
昨日はスミレとバンズの三人で遅くまで飲み明かしていた。
そのツケが今朝襲ってきた。
「おはようございますにゃ、よく眠れましたかにゃ?」
バンズが元気よく挨拶してくる。
昨日俺以上に飲んでた割には顔色一つ変わらず元気だ。化け物だなコイツは。
「おはようバンズ、いや、二日酔いで頭が割れそうだ。」
俺はバンズから水を貰いながら答える。
「それは大変ですにゃ、では魔王城に行く前に薬でも調達しに行きますにゃ。」
ありがたいバンズの言葉に俺は賛成の意を表して、朝食もそこそこに宿を出発した。
「さて、この書類で最後ですにゃ。」
バンズが魔王城手前の詰所で入場の書類を書いている。
やはりすんなりと部外者が入れるはずもなく、こうして面倒な手続きを行っていた。
時間はすでに昼を回っていた、薬を飲みゆっくり時間をかけたお陰で、俺の二日酔いは段々と良くなっていった。
「ふぅ、やっと入れるのか、これじゃあ魔王様に会うには日が暮れちまうな。」
俺は笑いながら言った。
その言葉に詰所の兵士は怖い目で睨みつけてくる。
まるで不審者を見張るような目線だ、かなり怖い。
「大丈夫ですよゲンタさん、城に入れれば後は面倒な手続きはありませんにゃ。」
バンズが明るく答える。
その後書類に不備がないことが認められ、俺たちは晴れて魔王城に入ることを許されたのだった。
「魔王城ってくらいだからもっと兵士が多いのかと思ったが、そうでもないな。」
城の中は多くの人が働いていたが、ほとんどが文官といった感じだった。
眼鏡をかけたトカゲ人間もいれば、大きな鳥のような魔物は一生懸命書類に目を通して判を押していた。
スーツを着ていれば日本の役所と遜色ない光景だった。
「魔王城は政治の中枢ですからにゃ、緊急時でもないかぎり武官は離れで訓練していますにゃ。」
冷静に考えればそうなんだろうが、なんだかファンタジー感が薄まっている。
「魔王様はどうやら会議中見たいにゃ、もうしばらくしたら終わるから少し待ってて欲しいにゃ。」
そういってバンズは手頃な部屋を用意してくれた、そこで手際よくお茶を入れ差し出してくれる。
ついに魔王と対面とあって緊張してきた。
喉の渇きを抑えるために俺はお茶を一気に飲み干すのだった。
「そういえば魔王ってどんな人なんだ?国の様子を見るとかなりやり手なように思えるが。」
俺はバンズに質問する。
「はいにゃ。魔王様は一代でこの国をまとめ上げ、国をここまで成長させた立役者にゃ。いままで力で支配していた体制を見直し、内政にまで力を入れた手腕はさすがにゃ。素質を見抜く目も確かで、優秀な側近を何人も採用しているにゃ。」
バンズは目を輝かせながら言う。
そこまで優秀だと王国なんて簡単に滅ぼされそうだな。
これは是非とも和平を実現して貰わなければ。
「バンズさん、魔王様がお呼びですよ。」
しばらくすると部屋をノックする音がして、ドアの奥から我々を呼ぶ声がした。
俺はグラスを置いて椅子から立ち上がるとバンズに目で合図をする。
「わかりましたにゃ、いま行きますにゃ。」
バンスは扉の向こうに答えて、俺たちは部屋を後にするのだった。
いよいよか、緊張してきた。
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「平くん、何やってるの?」
豪華な魔王の部屋、いくつもの彫刻が置かれ立派な玉座にが正面に置かれている。
そこに魔王は鎮座しているはず、だが目の前には見知った顔があった。
平 ジン、妻の会社の後輩であり俺も何度か顔を合わせたことがある。
彼が玉座に座っているということは。
「お久しぶりですゲンタさん、えっと、僕が魔王のジン・タイラーです。」
開いた口が塞がらなかった、どんな強面の魔物が出てくるかと思ったらまさかの平くんとは、幼い顔立ちで優しい目元、とてもやり手のイメージには程遠かった。
俺の記憶では、平くんの仕事ぶりはお世辞にも優秀といい難く、いつも先輩の妻がフォローしていたと記憶している。
「いろいろ混乱しているけど、平くんも神様に転生されてここにきたの?」
「はい、僕もこの世界に呼ばれてきました。魔王の素質を持って。」
魔王って素質なのと思ったが、コウタの勇者も似たようなものだった。
しかし魔王が平くんなら話しは早い。
「さっそく本題だけど、聞いているとは思うけど今回は王国の使者としてきたんだ。そう和平の使者としてね。ここは争いは止めて平和的に話し合いの場を持たないかい?」
俺は気楽に提案する、もともと気の弱い性格の平くんだしあっさり提案に乗ってくれるはずだ。
「ゲンタさん、せっかく来ていただいたのにすいません。魔王として、その提案には賛同できないんですよ。」
平くんは見せたことのない真剣な眼差しで見つめ返していた。




