第四十五話 酒と歌と
光に照らせれる巨大なシルエット、城下の街は色とりどりのネオンが輝く。
日も落ちても暗闇に染まることはなく、街は一段と活気づいている。
「どこのテーマパークだ?」
俺はこの夢の国について尋ねた。
「眠らない街、魔王街へようこそにゃ。」
足元でバンズが胸を張って歓迎してくれる。
「すごいな王都と同じ世界の街とは思えない。なんでこんなに発展してるんだ?」
魔王の街は夜でも明かるく、道もしっかり舗装されている。
上下水道も完備されているのか道は綺麗で匂いもしない。
「商工会のみなさんが頑張ってくれたからにゃ。もともとはここも荒れ果てた小屋と薄気味悪い城ががあっただけでしたにゃ。それが魔王様が改革を進めた結果、ここまで発展しましたにゃ。」
いや、王都と雲泥の差だな。魔王、かなり優秀だぞ。
「この技術革新を提供頂くだけでも、十分和平を結ぶ価値はあるな。」
俺は、驚いて答えた。
「さて、今日はもう遅いにゃ、適当に食事して街の宿屋で休むにゃ。」
バンズが提案してくる。俺は適当に頷きながら、あたりの店を物色していた。
武器屋に道具屋、どれも一級品の品ぞろえだ。
いい街にはいい職人が集まるということか。
しばらく歩くとバンズが一軒の店を指さしてきた。
「ここにゃ、旨い魚と旨い酒があるにゃ。」
バンズが飛び跳ねながら告げる。
これだけいい店が揃う中で一押しということは、期待が持てそうだ。
俺とバンズは胸を躍らせながら店の扉を潜った。
店の中は広く、すでに大勢にお客さんで込み合っていた。
空いている席を探していると、猫の耳をしたウエイトレスが声をかけてきた。
「あら?バンズじゃない。二人かしら?ちょっと待ってて席作るから。」
ウエイレスはバンズの知り合いらしく、手際よくテーブルを片付けて席を設けてくれた。
「注文はいつものかしら?そちらのお兄さんはどうする?」
ウエイトレスはせわしなく聞いてくる。
「バンズと同じものでいいよ。」
俺は適当に注文する、初めての店だしバンズにお任せが間違いないだろう。
その後テーブルにはビールが並び、俺たちは乾杯して飲み始める。
しばらくすると、サラダや刺身、フライした魚などがテーブルを彩る。
「うん、どれも旨いな!バンズが勧めるだけある。」
俺は上機嫌で箸を進めた。
しばらく食事と会話を楽しんでいると、店の奥が賑やかになってきた。
「ん?なんか催し物でもあるのか。」
俺はバンズに尋ねる。
「ここはたまに、ショーも楽しめるにゃ。何が始まるかは日によって違うにゃ。」
バンズは魚を頬張りながら言う。
辺りがほんのり暗くなり、奥のステージが照らされるとそこに帽子を被りギターらしき楽器を奏でる吟遊詩人が現れた。
その音色は優しく、歌声は透き通ってみなの注目を集める。
まるで上品なワインのように心を溶かす音色だ。
俺も静かに聞き入っていた。
歌が終わるとお客たちは一斉に拍手を送り、俺も同じく絶賛していた。
「いやぁ、なかなかいい歌だ。いいものを見させてもらったよ。」
俺が感動していると、吟遊詩人は帽子を脱いでお辞儀をしていた。
よく見るとそこには見知った顔があった。
「あれはスミレじゃないか。」
「ゲンタさん、あの吟遊詩人をご存じでしたかにゃ?」
俺の言葉にバンズが反応する。
前に街道で出会った子連れの吟遊詩人、確かにこの歌声なら食うには困らなそうだ。
俺はスミレに手を振ると、彼も気づいたようで手を上げて挨拶し返してくれた。
スミレは適当に集まった客をあしらうと、俺の方まで近づいてくる。
「これはこれは、お久しぶりですね。」
俺たちのテーブルまできてスミレが声をかける。
俺はスミレに席を勧めてウエイトレスにビールを注文する。
「まさかこんなところで会うとはな、思いがけずあんたの歌声が聴けて感動したよ。」
俺はスミレに正直な感想を言う。
「ありがとうございます。ゲンタさん今日はお一人で?」
「あぁ、ちょっと知り合いと観光がてらね。なぁバンズ。」
俺は咄嗟に話しを濁してバンズに振る、どこで誰が聴いてるかわからない、使者の話しはなるべく内密にとのことだ。
バンズは話しを振られて適当にごまかしている。
「ここも気に入っていたんですが、これからの状勢で満足に歌を歌うことも出来なくなるかもしれません。私も心残りですが、こうして多くの方に聴いて貰えるように頑張っています。」
スミレは周りを見渡して呟く。
「なるべくなら平和的に解決して欲しいよな。二国が手を組めば双方ともに利はあると思うんだが。」
俺は思っていることを口にする。
「ゲンタさんは戦争反対派ですか?」
スミレは聞いてくる。
「あぁ、争いなんて後々禍根を残すだけだからな。」
「もし戦いが避けられないとなったらどうしますか?」
スミレはなおも聞いてくる。
「そうだな、俺には子供たちみたいに戦う力はない。せいぜい自分の家を守るくらいしか出来ないよ。」
スミレの言葉に今一度これからについて考えさせられた。
新たに運ばれてきたビールを、スミレと一緒に難しい顔をしながら飲み干すのであった。




