第四十四話 魔王の使者と国王の使者と
「こんにちわーゲンタさん、いますかにゃー?」
玄関先で猫の鳴き声が響いている、いち早く聞きつけてセナが玄関を開ける。
「バンズさんいらっしゃい。」
セナがニコニコしてバンズを抱え上げる。
「にゃにゃ!セナさん降ろしてくださいにゃ。」
バンズの抵抗も虚しく、セナに抱きかかえられたままバンズは居間へと向かっていく。
「いらっしゃいバンズ、今日はどうした?まだ王様から正式な会談の日取りは来てないだろ?」
俺はバンズに尋ねる。あの一件の後、俺はスミスに事の次第を話した。スミスも出来れば和平を望んでいるらしく前向きに検討してくれたが、魔王軍と同じで王城内でも様々な意見がありいまだ話し合いは進んでいなかった。
「今回はゲンタさんをお誘いに来ましたにゃ。一緒に魔王城へ行きましょうにゃ。」
バンズの提案に俺は飲んでいたお茶を吹き出す。
魔王城なんて適地のど真ん中じゃないか、そんな危険地帯に一介の主夫が行って無事で済むわけない。
「魔王城って、友達の家に遊びに行くのとは訳が違うんだぞ。」
俺はバンズに言う。
「そこは私が責任を持ってお守りしますにゃ。」
バンズは胸を叩きながら宣言する。
いや、お前オーガ一匹にすら手も足も出なかっただろ。
俺は不安な目でバンズを見つめる。
「今回は魔王様自らの要望にゃ、こちらから私が使者としてきているので、王都側からも誰かお招きしたいという意向にゃ。」
バンズは答える。
「話しはわかったが、それで俺なんかが行っていいのか?もっと国の重鎮に任せるべきだと思うが。」
俺は不安になって応える。
「すぐにお返事貰えずとも大丈夫ですにゃ、前向きに検討してくださいにゃ。」
バンズはそう言って、この話しはここまでとなった。
その後はバンズの手土産の魚を俺が料理して、夜は豪華な会食が始まった。
コウタは忙しく各地を飛び回っているため欠席となったが、代わりに遊びに来たカシロフを加えての宴会となった。
「旨い酒が手に入ったからたまには来てみれば、まさか肴も用意してあるとは話しが早い。」
カシロフは豪華な夕食を眺めて上機嫌であった。
「運のいい奴め、まぁせっかくの料理も余らせるのも勿体ない食べていけよ。」
俺はカシロフを家に上げ、バンズを紹介する。
「君が噂の猫又か、なかなか弁が立つようじゃないか。和平の件、期待しているよ。」
カシロフもスミスから色々と聞かされているようだ、やはり役職的に戦争は回避したいらしい。
「はいにゃ、一緒に頑張りましょうにゃ。」
バンズも笑顔で答える。
「バンズさんもカシロフ様も、すっかり打ち解けたみたいで良かったわ。」
料理を運びながらセナが言う。
「しかし、王国側の使者にゲンちゃんをねぇ。意外といい着眼点かもしれないな。」
カシロフはグラスを煽りながら言う。
「なんだ?他人事だと思って。」
俺はカシロフに言う。
「いや、下手に国の重鎮を向かわすと強硬派に狙われる可能性が高いんだよ。奴らにとっては国の不祥事は、戦争のいい餌だからな。」
「確かにそんなお偉いさんが暗殺でもされたら国として黙っておくわけにはいかないな。」
俺はカシロフの言葉に納得する。
「その点、ゲンちゃんなら狙われる価値もないからな。それこそ一般人として紛れ込める。」
「魔王城の城下町には一般の人間もたくさんいるにゃ。まだ対立意識が高くないから商人や観光客として紛れるならいい機会にゃ。」
今度はバンズがカシロフの意見に同調する。
「これは行くしかないわね、お父さん国の運命がかかってるわ頑張って。」
セナまで背中を押すようなことを言いだす。
「ここで話しがまとまってもスミスが何と言うかだろ?」
俺は最後の希望を国王に託していた。
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「ゲンタよ行ってくれるか?」
いつものギルドのカウンターで、ツナギ姿のスミスは俺に頭を下げていた。
「この件については大ごとには出来ん、それこそお主の命に係わってくるかもしれんからのぉ。」
「スミスよ、みなまで言うな。」
俺はスミスの言葉を遮る。スミスもカシロフたちと同意見だった。
「しかし、敵地に単身ともなるとやっぱり不安だよな。」
マレットは心配して答える。
友よ、お前だけは俺の味方だ。
俺は優しいマレットの言葉に感動する。
「もちろん手は打つぞ、ほれゲンタよこれを持っていけ。」
スミスは俺に黒い宝石を手渡す。手のひらサイズで石の中には様々な模様が見える。
「こりゃあ魔石か!?」
石を見てマレットが食いつく。
「ふむ、もしもの時はその石を割るんじゃ。」
「ゲンさんこいつは国の秘宝中の秘宝、持ってるだけで命を狙われるほどの品だぞ。」
マレットが興奮して答える。
「おいおい、そんな物持ち歩けないよ。」
俺は石の価値を知り不安になる。
「なに、持ってることを他人に悟られなければ大丈夫じゃ。それと何事もなければまた返してもらうからのぉ。」
スミスは笑って答える。
気づけばここまでされて、すっかり俺は魔王城への使者の件を断りづらくなっていた。




