第四十一話 領主とオーガと
「立派なお城ねー」
なだらかな丘の上に立つ純白の城、優雅なその姿に俺とセナは息をのんだ。
その場には城だけが建ち、街は丘を下った所に建っていた。
城が占領された為か、街にも活気はなくほとんどの店が閉まっていた。
「立派だが、街からも遠く城壁も堀もない。守備的には丸裸だな。」
その様子が、先ほどのトニオと被りしっくりくる。俺は一人納得していた。
「昔は魔王もいなく、治安もよかったみたいですからにゃあ。」
トニオと共に、先頭を歩きながらバンズが語る。
「いま住み着いてるオーガは一体だけなのか?」
俺はバンズに質問する。
「主の話しだと単騎で乗り込んできたみたいですにゃ。もともとオーガは、群れずとも力は強いですからにゃー。」
話しを聞いて俺は段々不安になっていく、一人でも城を落とせるくらいの怪物なんてとても四人で手におえるとは思えない。
しかも、逃げ出したトニオが役に立つとも思えないしな。
「一度は不覚を取りましたが、今度は大丈夫。セナさん見てて下さいね。」
トニオはセナに笑いかける。
セナも愛想笑いで返している。オーガより前に俺がボコボコにしたくなる笑顔だ。
「しかし四人で本当に大丈夫か?何か作戦でもあるのか?」
俺はバンズに問いかける。
「まずは、私と主でしかけますにゃ。こう見えて戦闘はおてのものにゃ。」
バンズと共にトニオもガッツポーズを決めている。
いや、不安しかない。
俺はこっそりとセナに援護を依頼し、セナも不安な顔で頷いた。
城に近づくと人の気配はなく静まり返っていた。
どうやらモンスターの気配もなく、敵は一体だけのようだ。
ギギギギィ
俺たちは恐る恐る城内への扉を開ける。
室内に足を踏み入れると遠くの方から地鳴りにも似た音が鳴り響いている。
ゴゴゴゴォォー
「これはいったい?」
俺は誰にともなく問いかける。
「どうやら、誰かが戦ってるみたいにゃ。」
「なんと、援軍か。今が好機ぞ!」
バンズの言葉に安心してトニオが答える。
彼はそのまま飾りの剣を手にドタドタ奥へと進んでいった。
「トニオ様、待つにゃ。」
その後をバンズが追いかけている。
俺たちも渋々その後を追うのだった。
しばらく追いかけると大きな扉の前でトニオが聞き耳を立てていた。
「どうしたんだ?」
俺が伺うと、トニオは人差し指を口に持ってきて
「静かに、ここから話し声が聞こえる。何か言い争っているみたいだ。」
小さな声で告げるのだった。
扉の中を伺うと、オーガが更に大きなオーガを一方的に攻撃している。
「まて、俺が悪かった。降参する、やめろシュラ・・・」
体長5メートルはあろうかという巨大なオーガは2メートルにも満たないオーガに倒された。
敵が一体になり、先の戦闘で弱っていると判断したのかトニオが語る。
「よし、扉を開いたら僕とバンズで攻撃を仕掛ける。お二人は壁際で巻き込まれないように退避してて下さい。」
「トニオ様待つにゃ、ちょっと様子がおかしいにゃ。」
トニオは自信満々に答えるが、バンズは少し焦っているようだ。
「おぉ、まぁ頑張れよ。」
その自信に押され、俺は言葉に詰まってトニオに応えた。
トニオそのまま勢いよく扉を開けた。
「邪悪なるオーガよ覚悟しろ!!」
今まで静かに近づいていたのに、ここにきて大声で牽制するトニオ。
扉の奥では背を向けていたオーガも、何事かとこちらを注目しだした。
「ん?なんだお前たちは?」
こちらを向いたオーガは体長は2メートル近くあり、肌はほんのり青い。
長い厚手のコートを羽織っているが、足元は素足である。
手には金属製の棍棒を持ち、長い髪をかき分けて額から一本角が生えている。
「我が城で好き勝手なことはさせん!」
かっこよく口上を述べてドタドタとオーガに切りかかるトニオ。
「そいつは違うにゃ!!」
バンズはそんなトニオに声をかける。
しかしトニオの耳のは届かず、既にオーガの目の前にまで迫っている。
オーガは、そんなトニオを一瞥すると手に持つ棍棒を横に払いトニオを吹き飛ばす。
「えっ!?がはっ!!は、話しが、」
トニオはそのまま壁にもたれかかるようにして、気を失った。
セナがトニオに駆け寄り様子を確認する。
「骨が折れてるみたいですが、命に別状はないわ。」
それでもトニオに回復呪文をかけてやる。
「なんだ?威勢よく飛び掛かって来たわりにはあっけないな。」
オーガは棍棒を振り回しながら言う。
「いや、ちょっと手違いがありましてにゃ。このまま見逃して頂けると有難いにゃ。」
バンズは既に弱腰であった。
「ふんっ、そっちから売ってきたケンカだろ?そのまま売り逃げはよくねぇな。」
オーガは笑いながら棍棒を構えた。
これは逃げられそうもない、暢気にノビている疫病神を恨みつつ戦闘態勢を整える。




