第三十九話 領主と違和感と
「南方の領主ねぇ、魔王領も近いが大丈夫か?」
夕食のマグーニョを食べながらコウタは心配する。
「大丈夫よお兄ちゃん、トニオさんの領地から出る訳じゃないし。バンズさんも一緒だからね。そんなに心配なら一緒に来ればいいのに。」
セナはコウタに応える。
「リリーの特訓に付き合わされてるからな、しばらくは無理だ。」
コウタはむず痒そうに答える。
「ん?リリーって?」
俺は聞きなれぬ言葉に戸惑う。
「お父さん、王女様よ。」
セナが耳打ちして教えてくれる。なるほど、思春期だねぇ。
俺とセナがニヤニヤしていると、コウタは察してサッサと食事を終えて席を立った。
「まぁバンズの話しだと領内の治安はいいみたいだし大丈夫だろ。」
俺はセナに伝え二人で行くことを決めた。
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出発日になると朝早くに玄関を叩く音が聞こえる。
「シライ殿ー、お迎えに上がりましたにゃ」
どうやらバンズが来たようだ。
セナはウキウキしながら、バンズを迎え入れた。
「おはようございますバンズさん。今日も素敵な装いね。」
バンズの格好はこれから舞踏会にでも出るよな立派な服と羽飾りのついた派手な帽子、真っ赤なブーツ、腰には小さな剣を刺していた。
「お褒めに預かり光栄にゃ、今日のために気合い入れて来たにゃ。」
バンズの格好と言葉に、セナは抱きしめたい気持ちを抑えてムズムズしていた。
「さぁ、行きましょう。」
そうしてワクワクした気持ちで出発するセナであった。
街を出るとバンズの手配した馬車が停めてあった。
「徒歩では時間かかりますゆえ、馬車で移動するにゃ。」
バンズは俺たちを乗せると、自分は御者の席へと移って行った。
「さぁ、行くにゃ」
こうして馬車に揺られながら俺たちは南へと進路をとった。
しばらく何もない荒野が続き、俺とセナは馬車の心地よい揺れで寝入っていた。
「そろそろトニオ様の領地にゃ。」
バンズの声に目を覚ました俺たちは、ハッとして窓の外に目をやる。
外には先ほどまで見えていた荒野はなく、豊かな農地が広がっている、麦の生産地なのか実った穂を人々が一生懸命刈っている。
馬車を見かけると皆が手を振っていた。
「平和な所ね、みんなバンズを見て手を振ってるのかしら?愛されてるわね。」
セナは外を眺めながら言う。
「トニオ様の仁徳にゃ」
バンズは自信満々に言う。
いや、バンズの見た目の可愛らしさによるものと思うけどな。
それにしても、手を振る人の顔が笑ってないのも気になるな。
「この先に湖があるから、そこで休憩するにゃ。」
バンズが告げてくる。
その言葉通りに、目の前に大きな水面が見え始めた。
「かなり大きな湖なんだな。」
湖畔に馬車を停め馬車を降りながら俺は言う。
バシャバシャ!
その時、近くで水の跳ねる音がする。
俺はその方角を見てみると、そこには裸の男がいた。
「あんた何してるんだ?」
俺は不審に思って男に詰め寄る。
「あっぁ、そ、その、」
男は口ごもりはっきりしない様子であった。
「トニオ様!」
その時、俺の後ろでバンズの声がした。
え?この半裸の男がトニオなのか?失礼だが、とても話しに聞いていた立派な領主には見えなかった。




