第三十七話 守る者と守られる者と
「やっと戻って来れたな。」
マレットは地上に出て伸びをする。
体力も戻り、体の動きを確かめてるようだ。
「うー、体が重い。」
逆に俺は、遺跡内で得た経験値がリセットされて体が重く感じていた。
「結局これといった成果は得られなかったのぉ。」
マグネスはしょんぼりして呟く。
「まぁ、遺跡なんて他にもあるんだろ?地道に探せば大丈夫さ。」
俺はマグネスをフォローする。
「そうじゃな、最初からうまく行くはずはないか。」
マグネスは前を向いてやる気を取り戻したようだった。
「まだ次があると思っているのか?」
いきなり聴こえてきた声に俺たち三人はハッとする。
そこには弓を構えたエルフの軍勢がいて、俺たちを囲んでいた。
「なぜダークエルフがここに!?」
マグネスは驚いて叫ぶ。
「マグネスよ、第一線を退いたとはいえ元炎帝。その力放置するには危険なんだよ。」
集団の先頭にいる背の高いダークエルフが答える。
彼が手を挙げると皆が一斉に弓を引き絞る。
「悪いがここで消えてもらう。」
そして手を下げると、俺たちに向けて矢が一斉に放たれた。
ビュオォォォ!
矢は俺たちに降り注ぐ前に、強力な風によって行く手を阻まれる。
マグネスが即座に風の障壁を展開したのだ。
「さすが希代の魔導士と呼ばれるだけのことはある。だがこれだけの軍勢止められるか?」
ダークエルフは驚くことなく、第二、第三の攻撃を仕掛けてくる。
呪文や矢が絶え間なく降り注ぎ、その度にマグネスは呪文で跳ね返す。
「このままではジリ貧じゃな。」
マグネスはそう呟くと、俺たちに向けて手をかざす。
すると、俺たちの体は光に包まれ、どんどんと透けていく。これは転移呪文だ。
「おい、マグナスこれは!?」
俺は意図を察しきれずに叫ぶ。
「お前たちは足手まといじゃ、気になって大きな呪文もぶっ放せんからのぉ。なぁに、すぐ片付けてすぐ追いつくさ。」
マグナスは白い歯を見せてニカっと笑う。
俺とマレットが言葉をかけるよりも早く、光が目の前を覆いつくしその場から消え去った。
「さて、老人だからってそう簡単に倒せるとは思うなよ。」
マグネスは意気込んで特大呪文を詠唱する。
それは遠いエルフの村からも、マグネスの上げた特大の火柱は確認できた。
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「そりゃあもう、すごかったんだから。王都に向けて魔王軍の砲撃が来たからさすがにもうダメかと思ったね。
でも、いきなり街を光の幕が覆ってさ、それででっかい砲撃も弾いちゃうんだもの。夢でも見てるのかと思ったよ。」
いつものギルドのいつものカウンター、隣ではカシロフが俺たちがいない間にあった魔王軍との戦いの事を語っている。
「ほんとに凄いよなぁ、魔王軍の攻撃もだが、大きな街を丸々守っちまうなんて。」
カシロフは感動していた。
「こっちは一人すら守れずに後退してるのに、ほんと情けない。」
俺はマグネスのことを思って呟く。
「ゲンちゃん、落ち込むなって。あの爺さんがそんなに簡単にやられる玉じゃねぇよ。
無事だからこそ、追手のダークエルフもここに来てないんだよ。」
カシロフが陽気に宥める。
そうだな、考えても仕方ない今はマグネスの無事をただ祈ろう。




