第三十六話 神と真理と
『自称は酷いのぉ、これでもかなり偉い神様なんじゃぞ。』
光が少し収まると、そこには前と同じ姿の爺さんがいた。
「心の声を勝手に覗くな!それで神様がなんでここに?それと、もしかして、周りの時間止まってる?」
周りを見るとマレットとマグネスが硬直してさっきから動いていない。
『うむ、この祭壇を起動させられるのは転生者だけだからのぉ。それにしても久しぶりにこっちに来たが、すっかり変わってしまったのぉ』
神様は悲しそうな目で辺りを見回す。
「神様なんだから、世界のことは何でもお見通しじゃないのか?」
『今となっては形だけの神様じゃからのぉ。やはりワシ、自称神様かもしれん。』
なんだか悲しい声になってくる神様。なんだか応援したくなるな。
『そうじゃろ!応援したくなるじゃろ。それではゲンタよ、一つ世界を救ってみんか?』
神様は急に元気になって言い出す。
「勝手に話を進めるな。世界を救うなんて俺じゃなくコウタやセナに頼めばいいだろ。」
『彼らではダメじゃ、ワシですら今の世界では何もできんのじゃから。』
「本当に神様らしくない爺さんだな。人を転生させるだけの力はあるくせに。」
俺は不思議に思って尋ねた。
『昔、旧時代と呼ばれていたころはワシだって創造神として信仰もされていたし、それこそ天地創造の力すらあったんじゃ。
だが、今では小間使い。奴にいいように使われる始末じゃ。』
「神様より偉い人がいるのか、それは一体?」
『それは制約により口に出来ん。だがそいつを倒して元の世界に戻して欲しいのじゃ。』
「大筋はわかったが、それを頼むのは制約違反にはならないのか?」
『この場所なら、監視もないし、そのことについては制限もないから言えるのじゃ。』
「しかし、相手がわからないと倒すこともできないぞ。」
『そこのエルフもこの世界の特異性、真理に近づきつつあるがどこまで迫れるか。
まずは、お主をこの世界に呼び出した者に会ってみればどうかな?
その者も、世界に縛られぬお主を呼び寄せたんじゃ、世界の真理に気づいておるのかもしれんしな。』
神様は言葉を選びながら伝えてくる。
「えっ?俺を呼び出して転生させたのは神様じゃないのか?」
俺は驚いて聞き返す。
『うむ、確かに転生させたのはワシの力じゃが。そもそもお主を呼び出したのは別の者じゃ。
その者は、この世界の魔王、ジン・タイラーじゃ。』
衝撃的事実だった、魔王に呼ばれてこの世界に来た、それじゃあ俺は魔王軍の一員なのか。
「なら、コウタたちも魔王に呼ばれてここに?」
『彼らを呼んだのはまた別の者じゃ。』
そりゃ魔王が自分の敵となる勇者を呼ぶわけないか。
「しかし、転生してからかなり経つが呼んどいて魔王からは何のアプローチもないぞ!」
『それは知らん、ワシはただ指示通りに転生させただけじゃから。だが、前にも言ったが福利厚生らしいのぉ。詳しくは魔王に聞いてくれ。』
何も知らない、何も言えないなんて、この神様、本当に小間使いだな。
俺は心の中で神を哀れんだ。
「魔王か、正直気が進まないな。でも、ここで力をつければ魔王も怖くないか。」
俺はここでの成長を感じて自信を取り戻していた。
『あぁ、ここでのレベルアップも地上に出たら効果なくなるぞぃ。この遺跡と地上の世界とじゃ、力の法則が異なるからのぉ。
まぁ、もともとお主はここのシステムと上手くかみ合ってないがのぉ。』
神様はカカカと笑って答える。
この爺さん危機感がねぇな。
『もともと勝機の少ない戦いじゃ、せめてワシからの餞別にお守りじゃ。祭壇の裏にあるから持っていけ。』
お守りを貰っても神頼みすら出来ない状況で心もとないな。
「まぁ期待しないで待っててくれ。」
俺は適当に答える。
『うむ、そうするとしようかのぉ。そうじゃ、ここから出たら全員敵だと思えよ。ワシでさえ信用してはいかん。』
「なんか物々しいな、それだけ相手は巨大なんだな。ご忠告ありがとな。」
俺がお礼をすると、神様はそれではといった感じで手を振って消えていった。
「ゲンさんどうしたんだ?ボーっとして。」
元に戻ったのかマレットが聞いてくる。
「いやちょっと考え事をな。」
そう言って俺は祭壇の後ろに回り。そこにあった箱の中からお守りを取り出す。
これで家内安全とか書いてあったら笑えたんだがな。
俺はクスリとしてズボンにお守りをしまったのだった。




