第三十三話 魔導士と遺跡と
ブーン!!
何もない空間に文字や幾何学模様が浮かぶ。
それらは赤く発光し、次第に人の形を作り出す。
「おー、もう着いたのか。ほんとにあっという間だな。」
俺は感動しながら声を上げた。
「さすがマグネスさん、相変わらず見事なお手前で。」
マレットはマグネスの呪文に感心していた。
「やっぱり呪文って便利だねー。戦闘だけでなく、一般生活にも欠かせないよな。」
俺は改めてこの世界の特異性を実感する。
呪文の力のおかげで、科学技術に頼らずとも簡単に便利な生活が手に入る。
これは使わない手はないな。
「確かに便利なもんじゃが、それに頼りきってばかりで果たして良いのか。」
マグネスは難しそうな顔で応えた。
「便利に越したことはないさ、爺さんは物事を難しく考えすぎだ。」
俺は気楽に応える。
転移した先には、森が広がっていた。
空を突き刺すほど伸びた木々は見上げても先は見えなく、幹の太さも数十メートルはあろうかというほど巨大だった。
「てっきり爺さんの家に転移するのかと思ったら森の中か。ここからしばらく歩くのか?」
俺はマグナスに問いかける。
「何を言っておる。家なら目の前に建ってるじゃろ。」
そう言ってマグナスが指先を前に出すと、見えていた森が消え、豊かな村が現れた。
普通の木で出来た家もあれば、ツリーハウスもある。
村の真ん中には、村全体を覆うほど枝の生い茂った巨木が立っていた。
「幻惑ですね。さすが幻といわれたエルフの里だ。」
マレットも感心して村の様子を眺めている。
「さぁ行くぞ、目の前の巨木がワシの家じゃ。」
そう言ってマグナスは軽快に歩き出した。
「はぁはぁ、なんでここは階段なんだよ。呪文でパッと運んでくれよ。」
いま俺は、巨木の幹に沿うように作られた階段を上がっていた。
家は木の上にあるようで、そこまではこの階段を上らなければならない。
「何事も呪文に頼ると体が鈍るものでな。」
元気に笑いながらマグナスは言い、先頭に立って階段を上がっていく。
「ぜぇぜぇぜぇ、やっと着いたー。まったくエレベーターくらい付けろよな。」
俺は息も絶え絶えやっと階段を登り切った。
「ほほほ、若いのに情けない。もっと足腰鍛えんと老後が辛いぞ。」
爺さんに爺さんになったからの心配をされてしまった。
「さて、一息ついたところで本題じゃ。お主たちにはワシと共にある場所へ赴いてもらいたい。」
マグネスは、真面目な表情で伝えてきた。
「マグネスさん、ある場所とは?」
マレットが聞きかえす。
「それは行ってからのお楽しみじゃ。」
「お楽しみって、教えてくれてもいいじゃないか」
俺はマグネスに詰め寄る。
しかし声とは裏腹にその目は真剣で戸惑いも伺えた。
俺はその重圧を察して、それ以上は言葉を重ねるのをやめた。
その夜はマグネスのもてなしで、俺たちは有意義な時間を過ごし満足のうちに床に着いたのだった。
翌日、俺たちは出発の準備を進めていた。
「マグネス、ずいぶん重装備だな。」
俺は革の鎧を付けているマグネスに尋ねた。
昨日までのローブ風の装いとは別に、前衛職のようないで立ちだった。
「これくらいしてもまだまだ不安じゃよ。」
マグネスの格好と言葉に俺とマレットは、これから向かう場所に不安を募らせるのだった。
俺たちの向かった樹海は、エルフの里からさらに奥に進んだ場所にあった。
昼間だというのに生い茂った木々が日の光を遮り、ジメジメとした空気が漂っている。
「さて、この奥じゃ。」
そういってマグネスが指示した先には、巨大な木があり。その根元には、ぽっかりと穴が開いていた。
奥は暗く、緩やかに下っている。
マグネスは呪文を唱え、持っている杖の先に光を灯す。
「さぁ、行くぞ。」
掛け声とともに俺たちも、マグネスに続き洞穴の中に入ってい行った。
「足元滑りやすいから気を付けるんじゃぞ、もう少しで広い道に出るからのぉ。」
マグネスの灯す明かりを頼りに、狭い洞穴を進んでいく。
しばらく行くと広い石畳の通路に出た。
「これは遺跡かなにかですか。」
マレットは尋ねる。
「うむ、ワシも詳しくはわからんが旧時代の遺跡じゃな。」
マグネスはそういうと、急いで持参した松明に火を付ける。
遺跡の通路に出ると、杖から発せられる光はだんだん消えていく。
代わりに、松明の火が明かりとなって辺りを照らしていた。
「さて、ここからは呪文は使えん。お主たちには関係ないがな。」
マグネスはサラッととんでもないことを言った。
もともと呪文の使えない俺やマレットはいいが、魔導士にとっては呪文使えないのは致命的である。
「なるほど、それで我々を護衛に呼んだんですね。」
マレットは納得して聞く。
「うむ、ここはただ呪文が使えないだけではない。各々が持つ素質も消え去るのじゃ。」
炎に照らされたマグネスは、真剣な顔で語りだした。
ってことは、ここではみんな無職か。仲間が増えたな。
俺は気楽に考えていた。




