第三十二話 はぐれ者と炎帝と
「おーっす、相変わらずロクな依頼がねーな」
掲示板を確認し終えた俺はカウンターにおもむき、そこにいつもいるマレットに声をかける。
「ん?なんじゃお主は?不景気な面じゃのぉ」
だがそこにいたのは、シワシワの顔をした小さなエルフであった。
「あれ?マレットじゃないよな。爺さんマレットの身内か?」
俺はお爺さんに尋ねる。
「アホタレ!ワシがあんな鼻垂れ小僧の身内な訳があるか!」
お爺さんは癇に障ったのか大声で叫んでる。
「おいおい、ゲンちゃん何してるんだい?店の外まで聴こえて来てるぞ。」
騒ぎを聞きつけて現れたのは、すでに酒の匂いがするカシロフだった。
「なんじゃ、生臭坊主。また、昼間から呑んどるのか。」
俺が声を掛けるよりも早く、お爺さんの呆れた声がする。
「えっ?えっ!!炎帝様。あの、これは。ハハッ、失礼しました!」
カシロフは驚いた後、あたふたして逃げるように店を出て行った。
猿帝か、確かに猿のような爺さんだ。
「さて、お主もここで昼間から呑みにきたのか?」
猿爺さんは俺に向き直って聞いて来た。
「いや、まだ帰ってから家事もあるし、ここで呑むわけにもいかないな。」
俺は爺さんの迫力に押され、正直に答える。
「家事?その歳で無職か!遊んでないで適性のある仕事を真面目にせんか!」
爺さんはまたウキャウキャ騒ぎ立てる。
うるさいお猿さんだ。
「その適性がないから主夫してるんだよ。まぁ、たまに冒険者もしているけどな。」
「ほぉ、適性なしとは珍しい。世界の理の外におる者か。」
お爺さんは何か考え込んでいるようだった。
その時、大きな荷物を抱えてマレットが帰ってきた。
「おぉ、ゲンさん来てたのか。ちょっと買い出しに行ってて、待たせて悪かったな。」
「なんじゃ小僧。やっと帰ってきたか。」
お爺さんはマレットに声をかける。
「マグネスさん!もう、いらしたんですか。」
マレットはかしこまって答える。
「やっぱりマレットの知り合いかこの爺さん。」
俺はマレットに紹介を促す。
「あぁ、この方は稀代の魔道士、マグネス・モンロー。初代炎帝だよ。」
マレットは改めて紹介する。
なんか凄い二つ名もあるし、こう見えて凄い爺さんなのか?
「マグネスさん、この人はゲンタさん。冒険者兼主夫。噂の勇者のお父さんですよ。」
マレットに紹介され俺もお辞儀する。
「ふむ、マレットよ。この男もなかなか面白いな。気に入った、お主も一緒に行くぞ。」
爺さんは勝手に話しを進めている。
おいおい、この爺さん大丈夫か?
マレットを見ると諦めろと言った感じで頭を振っている。
「まぁ、時間はあるから付き合うのは構わないが、ちゃんと報酬は出るんだろうな?」
俺は爺さんに尋ねる。
「なっ!世界を正常化するための試練を前になんてことを!」
ダメだこの爺さんはボケてる。
俺も諦めることにした。
「んで、爺さん、どこに行くんだ?」
俺はマグネスに尋ねる。
「とりあえず、ワシの家に行くぞ。」
マグネスは意気揚々と答える。
「マグネスさん、これからエルフの里まで行かれるんですか!?」
マレットは驚いて答える。
かなり遠いとこなのか?
「そうじゃ、安心せい3人くらい転移呪文で一瞬じゃ」
マグネスは得意げに答える。
「あっ、やっぱり私も行くんですね。」
マレットよ、自分だけ逃げようとしてたな。
俺たち二人は、こうしてマグネスの気まぐれに付き合わされるのだった。




