第二十九話 言霊と決着と
俺もクロスも、ドラゴンすら起こった現実に気づかなかった。
俺はクロスを見るが、彼女は自分は何もしていないとばかりに首を振る。
いち早く立ち直ったドラゴンは、伸び切った舌を振りまわり鞭のようにして攻撃してきた。
【家内安全】
カンッ!カン!
固いもの同士がぶつかり合う音が坑道に響く。
俺はカバンを盾にゆっくりと後退していく。カバンは破けて中のミスリルが顔を覗かせている。
「ミスリルがこんなに頑丈とは知らなかった。このままゆっくり退散だな。」
俺は感激して言う。
「いくらミスリルと言っても加工もしてないのに、ここまで耐久性があるとは思えないんだけど。まさか言霊?」
クロスはぶつぶつと、不思議そうな声を上げている。
そうしている間にも、イラついたドラゴンの猛攻は続いた。
ビキビキ!
「おい、なんかドラゴンの攻撃やばくないか?」
相変わらずこちらには被害はないものの、周囲の壁や床がドラゴンの攻撃に耐えられずに崩れ始める。
「いままでは、自分の住処を守るためにヤツも力を押さえていたみたいね。本来ならこんな坑道簡単に破壊できるんでしょう。」
クロスが応える。
それって、結局助からないんじゃ。
まだ出口までは遠い、このままドラゴンにやられるか生き埋めのなるかの二択が迫っていた。
ボコッ!、ガラガラ、
ジリ貧な状況を嘆いでいると、突然ドラゴンが視界から消えた。
「!?」
俺が不可思議な状況を整理できずにいると、
「下よ。」
クロスが下を指す。
そこには落とし穴に落ちたドラゴンがいた。
「クロシュさん、シュライさん!お待たせしました!」
落とし穴の淵からひょこっり顔を出すビルダーがいた。
そのほかにもピョコピョコモグラが穴から顔を出してくる。
これは叩けばいいのか?
「ドラゴンの通過を見越して穴を急いで掘ったシュコ!さぁ、今のうちに。」
ビルダーの言葉で現実に戻り、俺とクロスは出口に向かう。
クロスは待ち構えていたタンカに乗せられ、数十匹のモグラが運んでいる。
そうして俺たちは無事太陽の下に出るのだった。
「あぁ、光だ。幸せだー」
俺は涙ながらに生還を喜んだ。
「まだ、喜ぶのは早い!ドラゴンはまだ諦めてないよ!」
クロスの言葉で俺はハッとする。
「ビルダーたちはドラゴンをここに呼び寄せて、合図とともにこの一帯をドラゴン共々吹き飛ばします。巻き込まれないように注意してね。」
クロスは急いで指示を出す。
「ドラゴン相手に上手く行くでしょうか?」
マスクを外したビルダーが心配そうに答える。
みんな同じ作業着なので、もう見分けが付かない。
「大丈夫、私に任せて。モグラ君たち、私をあの高台へ。」
クロスが坑道の出口を見渡せる高台を指さす。
テキパキと指示を出しモグラたちを誘導していく、実に手慣れたものだ。
俺は邪魔にならないように坑道から離れてことを見守る。
「さぁ、みんな気合入れて行くわよ!」
【才色兼備】
クロスの掛け声とともにモグラたちの目が輝き、それぞれが完璧に仕事をこなしていく。
「ドラゴン来ます!!」
坑道の出口にいたモグラたちの声があがり、その後ドラゴンの巨体が姿を現す。
モグラたちは退路を塞ぐために坑道の入り口を閉める。
陽の光に当てられ動きの鈍ったドラゴンをよそに、モグラたちは一斉に非難を開始する。
「本当なら手懐けたかったけど、残念ね。」
クロスは呟くと唱えていた呪文を開放する。
パチッパチッ!ゴォォォォll
ドラゴンの周りを火花が舞ったと思ったら、いきなり轟音とともに火柱が上がる。
爆風と熱気を伴った炎はドラゴンの体を包み込み消し炭へと変えていく。
俺はあまりの熱さにマスクを外した。
あぁ空気が熱い、喉も焼けそうだ。
断末魔の声すらかき消して炎が荒れ狂い、その後何もなかったかのように炎は消えた。
そこにはドラゴンの骨すら残っていなかった。
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「結局、お礼も言えなかったな。」
俺はギルドのカウンターで誰にともなく呟いた。
「お?その顔は恋の病か?憎いねー色男。」
隣で呑むカシロフが茶化してくる。
「無粋なことを言うなカシロフ、そうだからお前はいい人の一人も出来んのだ。」
その隣では、スミスが呆れている。
「俺は特定の一人に縛られるなんて御免だよ。」
「まったく、信者には聴かせられんな。」
何を言っても無駄といった感じでスミスはグラスを傾ける。
「しかし、ドラゴンを一撃なんてとんでもない魔導士だな。もはや、伝説上の賢者クラスだ。」
マレットは感心して言う。
「賢者ねぇ、とても賢い行いなんてなかったけどな。まだ、その前の道化、遊び人の方が合ってるかもな。」
俺は昔遊んだゲームの知識を思い出す。
「それだけの実力者だ、そのうちどこかの街で消息を知ることもあるさ。」
マレットは答えた。
「あぁ、また会えそうな繋がりは感じるよ。」
俺は奇妙な縁を感じていたのだった。
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「マリー様、出来ました。こちらです。」
マリー専用の参謀室、そこに小人のドワーフが声を上げて入ってきた。
「ありがとう、うむ、相変わらず素晴らしい出来だな。」
マリーはドワーフから受け取った品を見て満足そうに答える。
「いえ、素材が良かったからです。これほどの良質なミスリルは、なかなか手に入りませんから。」
マリーは再度ドワーフに礼を言って下がらせる。
「感謝しているよ、ゲンタ。」
マリーはそう呟くと、ミスリルの指輪を薬指にはめるのだった。
すでにあるものと新しいもの、重なった二つの指輪は左手で眩しく輝くのだった。
これで今年は最後の投稿になります。
処女作ではありますが、多くの皆様の目に触れて大変うれしく思っています。
この調子でなんとか完結まで書き進めていきたいと思いますので、
変わらぬご愛読をお願いします。
来年も、皆様にとって良い年でありますように。




