第二十八話 白とクロと
グォォォォォ!!
ドラゴンは咆哮とともに口を大きく開ける。
「ヤバイ!左に飛ぶシュコ!!」
ビルダーの語尾にはまだ余裕は感じられるが、俺たちは指示通りに左に飛ぶ。
ヒュン!
その直後、俺たちの真横を高速で通り過ぎる物体が。
ドラゴンが火でも吐いたか?それにしては熱くない。
「また舌が来るシュコ!正面にいたら危険シュコー。」
下?下から何か来るのか?
俺が理解に追いついていけないところにドラゴンが口を開けて舌を伸ばしてきた。
「ボーっとしてないの!」
寸前のところで横からクロスに突き飛ばられ、ドラゴンの舌は壁に当たり大穴を形成していた。
「いや、火吐かないの!?カメレオンか!」
俺は冷静にドラゴンにつっこむ。
ドラゴンにつっこみが通じるわけなく、その後も次々に舌を伸ばしてくる。
「地味な攻撃ですが、当たると致命傷シュコー、なんとか隙を見て逃げるシュコ」
ハァハァ、マスクもしてるから普段以上に体力を使う。
こりゃ数分と持たんな。
「逃げるにしても退路はあるのか?」
俺は誰にともなく尋ねる。
「ドラゴンの出てきた穴の先、光が見えるわ。そこから出れるかも」
上手く攻撃を避けているクロスが叫ぶ。
「よし、まずはビルダーが穴の先を確認してくれ。もし狭いようであれば通路の拡張を頼む。問題なく通れるなら教えてくれ、俺たちも駆けつける。」
俺はビルダーに指示を出す。
「わかったシュコー」
ビルダーは素早くドラゴンの横をすり抜けて穴の先に向かう。
「クロス、悪いな。しばらくコイツの足止めに付き合ってくれ。」
「私は大丈夫ですが、シュライさん息上がってますよ?大丈夫ですか?」
クロスは冷静に応える。
しんどくてつっこむ気力もない。
俺は親指を立てて合図をすると、ドラゴンの周りをドタドタと逃げ回った。
今のところ距離があるので舌での攻撃しかしてこない。
舌も出した後引っ込む時間があるので、割と余裕をもって避けれている。
クロスに至っては、体の周りに薄い空気の膜が見える。それで微妙に舌の軌道を逸らしているようだった。
「もしかして、クロスの呪文でドラゴン倒せたりしないか?」
俺は希望を込めて聞いてみる。
「この空間を覆いつくすほどの爆発を起こしていいのならやってみますが。」
あぁダメだ、コイツに加減を求めるなんて無理な話しだった。
「一番柔らかそうな舌に何度か風の刃を飛ばしていますが、かすり傷すらつきません。生半可な攻撃は効きそうにないですね。」
クロスは淡々と答える。
避けている間にも着々と攻撃はしていたらしい。なかなか優秀である。
ここでドラゴンをどうにかするのは無理そうである、いまはビルダーの作業にかけるか。
「シュライさーん、クロシュさーん、出口に繋がる坑道を発見したシュコー。」
しばらくしてビルダーから声が上がる、脱出の手筈が整ったようだ。
「シュライさん、ドラゴンに向けて目くらましをかけます。その隙に奥の出口まで駆け抜けましょう!」
クロスから提案があがる。
「わかった。クロス頼んだ!」
俺の返事を聞きクロスは頷く。
「いきますよ!!顔伏せて下さいね、3、2、1!」
カウントダウンと同時に俺は顔を伏せる。目を伏せても眩しさがわかるほどの閃光が直後に起こった。
「いまです!」
クロスの声を聞いた後、俺は出口に向かって全力で駆け抜ける。
横目でドラゴンを見ると目の焦点は合わず、手あたり次第に暴れていた。
出口の穴は二人で通るには狭すぎる、俺はクロスに先に行くように合図する。
クロスが出口を潜ろうとしたとき、暴れていたドラゴンの尻尾が運悪く彼女の背中を捉えた。
「きゃあ!」
クロスは声を上げて穴の奥に吹き飛ばされる。
俺はクロスを追って穴の中に進む。
その先は大きな坑道に繋がっており、すでに待ち構えていたビルダーが、飛ばされてきたクロスを介抱していた。
「クロシュさん、大丈夫ですか!?」
「えぇ、とりあえずは骨は折れてなさそう。でも、走るのは少し厳しいかな。」
とりあえず命に別状はなさそうだ。
しかし、そうしてる間にもドラゴンは迫ってくる。
「痛むかもしれんが、安全なところに出るまで我慢してくれ。」
俺はそう言うと、怪我に苦しむクロスを背負い広い坑道を出口に向けて歩き出した。
「私なら大丈夫だから、ほらドラゴンがきたら吹き飛ばしちゃうんだから。」
クロスは傷む体を押さえ無理して笑っていた。
「まだここは坑道だ、こんなところで大爆発起こしてみろ自分もただじゃ済まないぞ。いいからジッとしてな。それとビルダー、すまないが先に行って応援呼んできてくれ。」
「わかったシュコ!クロスさん、頼りないけどここはシュライさんに任せるシュコ。」
頼りないは余計だな、そういってビルダーは地上に向かい疾走していった。
さて、地上も近いはず頑張りますか!
気合を入れて一歩を踏み出すと、後方で大きな崩落音がきこえた。
「今の音って気のせいじゃないよな?」
俺はクロスに問いかける。
「間違いなくドラゴンの仕業ね。もう目くらましの効果も切れるころだから。」
クロスは冷静に答える。
俺は背中に汗をかきながら、振り返ることはせずに地上まで急いだ。
グウォォォォォ!!
声でわかる、ドラゴンは怒っている。
まだ、見つかってないし脇道に隠れてやり過ごせないかな。
そう思って少しスピードを緩める。
「ちなみに、あぁ見えてドラゴンの知性は高いの。一度覚えた敵の臭いは忘れないと云うわ。」
俺は一目散に逃げる速度を上げた。
振り返らずとも後ろからドタドタと巨大な物体が近づいてくるのがわかる。
このままでは後ろから攻撃されて二人ともお陀仏だ。
俺は一か八か振り向いた。
ビュッ!
振り向いた時すでにドラゴンの口からは舌が飛び出していた。
俺は頼りないカバンを盾に身を縮こませるのだった。もうダメだ、なんとかクロスだけでも守らないと、
【家内安全】
カンッ!
俺はドラゴンの攻撃を難なく防いでいた。




